“Jホラーの申し子”による「ホラー映画大賞」受賞作!『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』こってり考察
「正統派 Jホラー」再誕
Jホラーの巨匠・清水崇が総合プロデューサーを務める『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が、1月24日(金)より全国公開となる。
本作は2022年に「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した近藤亮太監督による短編の長編映画化作品。弟の失踪にまつわる一本のビデオテープに閉じ込められた、粗く不穏な映像に心底ぞっとするような真の恐怖を体感できる、ホラーファン待望の“正統派 Jホラー”に仕上がった。
近藤監督は『リング』シリーズの脚本家・高橋洋氏に師事し、同氏の監督作やNetflixドラマ「呪怨:呪いの家」でも助監督を担当。昨年話題のテレビ東京ドラマTXQ FICTION第1弾「イシナガキクエを探しています」に続き、第2弾「飯沼一家に謝罪します」で演出を務めるなど、ホラー界に彗星の如く現れた俊才だ。
まさにJホラーの全てを体に染み込ませてきた、正統派継承者が作り上げた『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』。主演に若手注目俳優の筆頭・杉田雷麟を迎え、平井亜門、森田想、藤井隆らが主要キャストに名を連ねる。
ということで、Jホラー再興の鍵を握る本作の“恐怖”のポイントを、近年のホラー史を振り返りつつ紐解いていこう。
再び映画界に「Jホラーの時代」が来る?
『ほんとにあった怖い話』『女優霊』『リング』『呪怨』――1990~2000年代に一大ムーブメントを起こたJホラー人気はハリウッドをはじめ世界的に拡散されるも、その影響力は徐々に低下。シーンのトレンドはド派手なスプラッタや猟奇モノ、笑えるホラーコメディ等に傾いていったが、近年は清水崇監督作の『ミンナのウタ』『あのコはだぁれ?』が立て続けにヒットを記録するなど、Jホラーは再び隆盛の兆しを見せている。
中でも注目すべき流れが、新たな才能の発掘を目的とした「日本ホラー映画大賞」の創設だ。大賞受賞者は商業デビューが確約されており、第1回大賞受賞者の下津優太監督作『みなに幸あれ』が公開された際は、その野心的な作風が大きな話題を呼んだ。
そしていよいよ、第2回大賞を受賞した近藤亮太監督の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が全国公開。本作は大賞受賞作の同名短編から物語の大筋は変わっていないものの、長編化によってさらに不可解で不気味な空気をまとった作品にブラッシュアップされている。
1本のビデオテープがもたらす得体の知れない恐怖
主人公は弟が失踪したまま行方不明となっている兒玉敬太(杉田雷麟)。遭難者捜索のボランティア活動に従事する彼の元に、母親から1本のVHSテープが届いたことから物語は大きく動き出す。テープには弟の日向が失踪する瞬間が収められており、敬太は霊感が強い同居人・天野司(平井亜門)の協力を得て弟が姿を消した山へ向かい、失踪事件を調べる記者・久住美琴(森田想)も後を追うのだが……。
本作は現代ホラーながら「ノーCG・ノー特殊メイク・ノージャンプスケア」を謳った作品だ。近藤監督は『リング』の脚本を手がけた高橋洋に師事した経験があり、いわばJホラー直系の後継者。特別な装置を使わずとも観客に恐怖を感じさせるテクニックは、「こっくりさん」を題材にした第1回日本ホラー映画大賞入賞作『その音がきこえたら』の時点で明確だった。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の恐怖の根源は、失踪事件にまつわる「説明のつかない事象」にある。いわゆる「神隠し」のようなもので、霧の中を彷徨っているような掴みどころのない感覚が常にまとわりつき、重要な舞台となる“山の中の廃墟”にたどり着く頃には、恐怖がピークに達しているだろう。いかにも説明的な演出やセリフを排したことで余白が生まれ、観客に「想像させる余地」を残しているところが大きな特徴だ。
「お化け屋敷」と「真っ暗な森」 どっちが怖い?
ひと昔前まで邦画は説明過多な作品が頻出していたが、近年は作り手側が観客を信用し各々の想像力に委ねる作品も少なくない。たとえば「お化け屋敷」と「真っ暗な森」があったとして、どちらがより恐怖を感じやすいか? と問われて「森の方」と答える人は、意外と多いのではないだろうか。お化け屋敷は人を怖がらせるための施設であり、ある程度“仕掛け”を予測しやすい。かたや「森」はただ悠然と古くから其処に存在し、当然ながら人為的な仕掛けは無い。
しかし、鬱蒼と茂る木立の陰、あるいは暗闇そのものに、“何か”が潜んでいたら? あるいは土着由来の“超自然的な力”が作用していたら? いわゆるベロベロバー的な怖さを詰め込んだ古典的なお化け屋敷とは対極的に、情報量を極限までそぎ落とした暗い森は、自らの想像力で余白を埋めていくように「恐怖の対象」を勝手に頭の中で作り上げてしまうのだ。
“余白”を残したという意味では、本作の主人公・敬太が手にするビデオテープもキーアイテムとして非常に大きな役割を果たす。時おりノイズが走る、画面比率4:3の古めかしい記録映像は「弟が失踪した瞬間」を捉えている点においてノスタルジー以上の付加価値があり、何かが隠されているのではないか? と観る者の想像力を刺激する。
「フェイクドキュメンタリー」ブームがJホラー再隆盛の鍵?
そして家庭用ホームビデオが捉えた映像をもとに失踪事件の核心に迫っていくという構成は、昨今のフェイクドキュメンタリー作品の潮流に合致している。そもそも近藤監督自身、SNSを中心に大反響を巻き起こしたフェイクドキュ番組「TXQ FICTION」の『イシナガキクエを探しています』や『飯沼一家に謝罪します』の演出を担当。そこでは、いずれも過去に撮影あるいは放送された映像を再検証する(という体裁の)演出を取り入れている。
磁気テープに記録された映像は当時を知らない現代の若者世代の好奇心を掻き立て、真相をめぐる考察を加速させた。決定的な答えを見せない物語はホラー的であると同時にエンターテインメント性を備え、ネットを介して拡散。言わずもがな、『リング』の“呪いのビデオテープ”に起因するリングウイルスが作品内外で拡がった現象に通じるものがあり、「怖いのに見てしまう」「怖いのに考えずにはいられない」という矛盾を孕みながら、いまもネット上に拡がり続けている。
他にも『フェイクドキュメンタリーQ』や『このテープもってないですか?』など、「考察系」ブームがJホラー再隆盛の鍵を握っているといっても過言ではないだろう。新次元Jホラーを標榜する『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は、まさに時代の転換点に立つホラー史的にも重要な作品となるかもしれない。
Jホラーの全てを染み込ませた正統派継承者が放つ、新次元Jホラー『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は、いよいよ1月24日(金)より全国公開。じわじわと近づく得体の知れない恐怖を、ぜひ映画館で体験しよう。
【劇場入場者特典情報】
タイトル:背筋書き下ろし短編小説「未必の故意」
著者:背筋
配布期間:公開劇場にて1月24日(金)~無くなり次第終了
※お1人様1冊の配布となります。
※数に限りがございます。配布終了の際はご了承ください。
※特典は非売品です。転売・複製等は一切禁止となります。