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英国産食材100パーセントの「Counter 71」が英国料理の無限大に挑戦する

料理王国

英国産食材100パーセントの「Counter 71」が英国料理の無限大に挑戦する

東ロンドンの小さな通りに誕生しているカウンター・オンリーのモダン・ブリティッシュ・レストランが、「英国料理の可能性」について、食材面から挑戦している。それは無限大へとつながっていくチャレンジだ。

「モダン・ブリティッシュ」とは英国の伝統料理を進化させていくジャンルであり、英国らしさの称揚でもある。ただし「英国らしさ」の捉え方は人それぞれで、シェフによっても解釈は異なるだろう。しかし一つだけ言えるのは、もはやフィッシュ&チップスのクオリティを向上させることが、必ずしもモダン・ブリティッシュ料理への貢献ではないということだ。

2023年に東ロンドンで誕生した「Counter 71 / カウンター・セブンティワン」は、数あるモダン・ブリティッシュ・レストランの中でも、特殊な位置付けにある。まず、ガストロパブ的な料理の延長で勝負する大多数の店とは一線を画し、ロンドン市内でも少数派のおまかせ風ファイン・ダイニング・レストランであること。

そして、「なるべく英国産食材を使う」などという曖昧な姿勢ではなく、「100パーセントの国産」を実現していることだ。

コンセプトは「英国フード礼賛」。共同オーナーシェフのJoe Laker / ジョー・レイカーさん(写真下)が英国中の生産者たちと協働し、モダン・ブリティッシュを新たな地平へと導く実験場を作り上げているのだ。

トレンドの発信地、東ロンドン・ショーディッチの裏通り。元パブを改装し、最大16名が座れるカウンター・レストランを作った。

美しいスペイン産大理石のカウンター。精鋭チームによる料理ショーがここで行われる。

共同オーナーシェフで、イングランド中部出身のジョー・レイカーさん。キャリアの集大成のようなCounter 71で、英国礼賛に取り組む。

「今はもうチョコレートもキャビアも使ってない」と、びっしり入った両腕のタトゥーを見せつけながら、物腰柔らかなジョーさんは言う。加工食品の原材料にいたるまで、確実に英国産と分かっているものだけを使うのだそうだ。「冬は生鮮食材がどうしても限られてしまうので、春夏の収穫からできるだけ保存食を作るようにしています」。

オンリー・ブリティッシュへの挑戦は、例えばワサビや柚子、オクラや唐辛子、マグロやサフランといった英国原産ではない、あるいは生産量の限られている食材にもおよぶ。21世紀の今、英国列島はかくも豊穣なのだ。

ジョーさんのキャリア原点に町のチャイニーズ料理店があるからか、Counter 71の料理はアジア食材との親和性が高い。ディナー10コース、ランチ6コースのテイスティング・メニューは、英国風の懐石料理とでも呼びたくなる大胆かつ個性的な小皿料理のショーケースだ。味もデザインもピカイチの3種のカナッペだけでも、英国産食材の計り知れない可能性を感じさせられる。

まずは英国産スパークリングで。右は3種のカナッペの一つで発酵唐辛子の旨味を感じるビーフ・タルタルのドーナッツ。行者ニンニク・バターが隠し味。

左は完璧な仕上がりの自家製ミルク・パン。右はチーズホウェイとレーザークラム出汁のソースでいただく蒸しポロック。エルダーフラワー・ヴィネガー。クラムとチャイブ、鱒いくら。

濃厚な出汁が決め手のイカ麺。ピリ辛で量も適度にあるので締めに食べたい。少し塩が強く感じる。

自然の流れでファイン・ダイニングの世界へと足を踏み入れたジョーさんは、自家栽培ガーデンで有名なミシュランの星付きパブや、コペンハーゲンの二つ星を経て、ロンドンのトップキッチンでヘッドシェフを務め、パンデミック後にCounter 71の輪郭を描き上げた。

彼の料理は濃いめのはっきりとした味わいが特徴。プリプリのロブスターとランゴスティンの天ぷら(冒頭写真)は歯応えも風味も申し分なく、シーケールのチップスがほどよいアクセントに。自家製のマグロ節、乾燥キノコと昆布でとった濃厚出汁でいただくフェットチーネ風のイカ麺は、柚子の皮と唐辛子、昆布と行者ニンニクのふりかけがアクセントのアジア風。日本人としてはコースの半ばではなく、締めの炭水化物の代わりにいただきたい量もボリュームも満足度の高い一品だ。

食事コースの最後はラムの炭火焼き。旨味の強い背肉だけでなく、手間暇かけて脂を落とし、赤身だけにして成形し直した甘く香ばしいバラ肉が口の中でとろける。行者ニンニクのオイルで風味づけしたアスパラガス、ラムの骨の出汁ソースも限りなく上品だ。この料理にはアルゼンチン・メンドーサの赤ワインをすすめられた。

ちなみにドリンクの英国産しばりはなく、ソムリエ兼ジェネラル・マネージャーのHarry Cooper / ハリー・クーパーさんがぴったりのペアリングをリードしてくれる。ハリーさんはジョーさんのモダン・ブリティッシュと日本酒の相性も研究されており、例えば香川・小豆島で唯一の酒造である小豆島酒造さんの「はちはち 純米酒」を取り寄せ、オリーブ酵母がつくり上げる日本酒がどう英国料理に作用するかを見極めようとしている。

炭火で炙ったロブスター・テールには凝縮した味わいのトマト・コンフィを添えて。トマトとセロリで作ったジェル、ターニップのソース、ロブスターの殻からとった出汁、チェシャー産のサフラン。

肉の甘みと香ばしさを堪能するラムの炭火焼き、赤ワイン・ソース。行者ニンニクの香り。素材が生きる一品。

3種のデザート。Counter 71では日本人シェフの岩山凌さんも腕をふるっている。イタリアで2年半、ノルウェーで1年半の経験を積み、数ヵ月前にロンドンへ渡って来たばかり。今後のご活躍が楽しみ。

レストランの地下には共同オーナーでミクソロジストのRyan Sheehan / ライアン・シーハンさんが運営するアメリカン・バー「lowcountry」がある。バーボンの取り揃えに自信がある。

口直しのデザートはマシュマロとシーバックソーンのソルベ2段重ね。シーバックソーンのグラニータも含めてマリーゴールドのような色合いに気分が華やぐ一品。スイーツはイチゴとカスタードのサブレ、桜のアイスクリーム。そしてルバーブ・コンポートとコブナッツ・カスタード入りのポピーシード・シューバン。いずれも繊細で素晴らしい味のコンビネーションだ。

懐石料理と思えばプチフールのようなミニサイズは納得だが、英国料理ならばデザートの一つくらいはメインらしい盛り付けなりボリュームがあってもいいのでは?ともどかしい気持ちになるほど、味もセンスも優れている。とくにコブナッツ・カスタードの上品な味わいが際立つシューバンは、あと3つは食べられた。

「イギリスは不味い」と言われることが未だに多いが、こうして英国の風土で育まれた食材100パーセントで作られるモダン料理の、なんと豊かで味わい深いことか。

ジョーさんはこう言う。
「この国の生産者の皆さんとの関係性こそが、私たちの宝です。彼らが育て、作り、採取・捕獲する物をただ購入するだけでなく、その全ての工程に関わっていくことは非常にクリエイティブで、とても楽しい」。

Counter 71は、いわば英国の良質生産者たちのサポーターであり、共同生産者だ。良いものを育てる生産者を後押しし、英国の食文化をともに未来へとつなげていく。それがチームの目標だとしたら、やはりCounter 71はモダン・ブリティッシュの「無限大」を見せてくれるショーケースだと言えるだろう。

Counter 71
https://www.counter71.co.uk

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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