【子どもの嘔吐・下痢】ホームケアの新常識 「絶食させる」は間違い! “お粥より普通の食事”がいい理由〔医師が解説〕
子どもに多い病気やケガへの対処法の最新知識を伝える連載「令和の子どもホームケア新常識」第2回。「嘔吐や下痢があるときは、何も食べさせない」という旧常識について、小児科医・森戸やすみ先生が解説。
【利き手の新常識】行動で利き手を使い分ける「クロスドミナンス」を脳内科医がすすめる理由とは?【旧常識】 「嘔吐や下痢があるときは、何も食べさせない」子どもの体調が悪くなったとき、ケガをしたときなどに、親が家庭で行うホームケア。
現代のホームケアの中には、私たち親世代が子どもだったころの手法から改善されたものが多数あります。子ども時代の記憶を頼りに、古い常識のまま子育てをしていませんか?
本連載【令和の子どもホームケア新常識】では、子どもに多く見られる病気やケガへの現代の正しい最新対処法を、小児科医・森戸やすみ(もりと・やすみ)先生が解説。
●森戸 やすみ(もりと・やすみ)PROFILE
小児科専門医。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。医療と育児をつなぐ著書多数。
第2回は「嘔吐や下痢があるときは、何も食べさせない」という旧常識について。ホームケアの常識をアップデートして、いざというときに備えましょう。
昔は「お腹を休ませる」が一般的だった
子どもに多い不調のひとつ、嘔吐や下痢。子どものころ、吐いたり下痢をしたりすると、親から「食事はやめて、水分だけにしておこうね」と言われたママパパも多いのでは?
ひと昔前はそうした症状があるときに絶食するのが常識でしたが、現在はどのような対応がよいとされているのでしょうか。森戸やすみ先生に伺います。
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ウイルスや細菌などによって消化管に炎症が起こり、吐いたり下痢をしたり、お腹が痛くなったりする「胃腸炎」。「お腹の風邪」「嘔吐下痢症」などと呼ばれることもあります。冬から春にかけて多く見られる「ノロウイルス感染症」、毎年乳幼児に流行する「ロタウイルス感染症」も胃腸炎の原因になります。
従来は胃腸炎になった場合、何も食べさせずに水分補給だけすればいいと言われていました。「消化管を休ませないと、胃腸炎は治らない」と考えられていたためです。
ただ、子育て中の親御さんなら経験があると思いますが、子どもはちょっとしたことでよく吐きます。小さいお子さんだとげっぷがうまく出せないだけで吐きますし、鼻水や咳とともに吐いたり、お腹が張ったり体が揺れたり、食べすぎ・泣きすぎで吐いてしまうこともあります。
下痢も同じで、水分の摂りすぎやお腹の冷えによって下痢になることも。体が成長する時期、嘔吐や下痢があるたびに食事や授乳を中断していては、体重が減ってなかなか戻らないリスクがありました。
今の常識は「食べられるなら食べさせる」
現在、胃腸炎の対処法として一般的なのが「食べられるなら、早期に普通の食事を食べさせるべき」という考え方です。
ある臨床研究によると、絶食した場合と治療食を食べさせた場合、早期に普通食を再開させた場合では、嘔吐や下痢の頻度・程度に差はなく、治るまでの期間も変わらないことがわかりました。
それどころか、早くに普通食を再開したほうが、回復期の体重増加がよいことが明らかになっています。水分だけを与えて絶食していると、かえって消化管の機能の回復を遅らせてしまうのです。
こうした考え方は2000年代後半ごろから医療関係者の中で言われるようになり、現在、ネット上で公開されている『小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017』にも記されています。
※エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017/日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会
ガイドラインでは、乳児の場合、母乳は飲みたい分だけ飲ませ、ミルクは治療用ではなく、通常のミルクを薄めずに普段どおり与えることを推奨しています。離乳食から普通食に進んでいるなら、離乳食に戻す必要はありません。
基本的には、お子さんが食べたいものを食べさせて大丈夫。よく胃腸炎のお子さんにお粥を作って食べさせる親御さんがいますが、早く普通食にしたほうが消化管の回復が早いのですから、お粥じゃなくても構いません。もちろん、お子さんがお粥のほうが食べやすかったり、好きだったりしたらあげてください。
心配なら脂肪の多い肉や魚、繊維類の多い野菜類、糖分の多いジュース、酸味の強いフルーツなどは避けて、消化のいいものをあげるといいでしょう。
ただし、吐き気があって食欲のない子、食べてもすぐに吐いてしまう子に無理やり食べさせるのは禁物です。だいたい激しく吐くのは半日から丸1日程度なので、お子さんが「お腹が空いた」「何か食べたい」と言ったり、食欲が出てきた素振りを見せたら与えはじめましょう。
脱水症状の予防・治療には経口補水液
嘔吐や下痢があるときに重要なのが、水分補給をすること。ガイドラインでは、経口補水液を飲ませることを推奨しています。吸収が早く、ナトリウムやカリウムといった塩分、糖分がバランスよく含まれる経口補水液は、失われた水分と電解質を補うのに最適です。
経口補水液を飲ませる「経口補水療法」は、嘔吐や下痢の治療にとてもよい方法で、軽症から中等度の脱水がある場合でも点滴と同程度の効果が得られます。
中でも、WHO(世界保健機構)が推奨する塩分濃度にいちばん近いのが「OS-1(オーエスワン)」。薬局などの医療機関で見かけたことがある人も多いでしょう。胃腸炎の症状は突然現れるものなので、家に常備しておくと安心ですね。
お子さんに嘔吐や下痢の症状があったら、できるだけ早急に経口補水液を飲ませましょう。目安は、5ml(ティースプーン1杯分)を5分おき。嘔吐が続いていても、口の中を湿らせる程度でいいので与えます。乳児など自分で飲めない場合、上体を起こして支えながらスプーンで与えましょう。
1日に与える量の目安は、例えば「OS-1」の場合、乳児なら体重1kgあたり30~50ml、幼児は300~600ml、学童以降は500~1000ml。一度にたくさん飲ませると嘔吐の原因になるので、少量ずつ小まめに与えるのがポイントです。
市販のスポーツ飲料は糖分が多く、体に必要な塩分濃度は低いことから、脱水時の水分補給には不向きです。ただ、いちばん心配なのは水分をまったく摂れないこと。経口補水液を飲めない子が「スポーツ飲料なら飲める」なら与えてもよいと思います。ほかに、薄めたりんごジュースやぶどうジュースでもいいでしょう。
胃腸炎の際に下痢を止める薬は子どもに使われることが少なく、吐き気止めは効かないこともあります。痛みをやわらげる解熱鎮痛剤の効果も期待できません。自宅で安静にしながら、自然治癒を待ちます。もし、食事や水分が摂れない状態が続いたり、尋常ではない痛がり方をしたりする場合は受診が必要です。
また、目が落ちてくぼんでくる、落ち着かない、呼吸が早い・荒い、手足が冷たいなどの症状は脱水のサインです。早急に医療機関を受診して、点滴や入院など必要な処置を受けてください。
【子どものホームケアの新常識 その2】
嘔吐や下痢があるときは経口補水液を飲ませ、食べられるならいつもどおりに食べていい。
取材・文/星野早百合