荒牧慶彦&和田雅成「ふたりでいるのはもう当たり前」──芸人青春群像劇『あいつが上手で下手が僕で』3年目で至った境地
2021年にテレビドラマからスタートした『あいつが上手で下手が僕で』、通称『カミシモ』。勢いのある若手俳優たちが演じるお笑い芸人が「いつか売れること」を夢見て崖っぷちで奮闘する「芸人青春群像劇」として人気を博した。ドラマのみならず舞台にも活躍の場を広げ、今やシリーズは4年目、シーズン3へと突入している。その最新作、舞台『あいつが上手で下手が僕で』-人生芸夢篇-で描かれるのは、権威あるお笑い賞レース「38(サンパチ)ファンタジスタ」の準決勝に向けて突き進む彼らの「意外な」人間ドラマ。本番に向け、芸人コンビ「エクソダス」時浦可偉役の荒牧慶彦&島 世紀役の和田雅成に、その見どころを語ってもらった。
──まずは少し過去に遡ってもらって……シリーズ立ち上げ時、キャストのみなさんはどんな様子だったのでしょう?
荒牧:手探りでしたよ、ほんとに。まずドラマがあって、それが舞台になったときに「果たして本当にこれが合ってるのか」という戸惑いみたいなものがあって。演出家の大歳倫弘(ヨーロッパ企画)さんとは初めて組ませていただいたので、稽古の最初はセッションの仕方とか、ちょっと迷宮入りしましたね。ちゃんと芝居の見せ方でやりたいなと考えていたけれど、でも多分これはイベントっぽい感じにしたほうが合ってるのかもしれないとも思い始めて……そういうのを経て本番ではお客さまがすごい笑ってくださったので、「この方向なのかな」と見えてきた感じでした。
和田:それまでもコメディ系の作品のお芝居を何度かやらせていただき、その日の芝居のテンポをちょっと変えるみたいな調整はしてはいたんです。でも『カミシモ』はまたそれとも違うというか……やっぱり笑ってもらう部分は芝居というより漫才なので、テンポももちろんですけど、ネタ自体を工夫してみるという作業があって。初めての経験だったので、「なんか、難しかったなぁ」という印象でしたね。
──シリーズは今期でシーズン3に突入。夏のドラマも面白かったです。変な言い方ですが、今までで一番ドラマっぽかったという印象で。
和田:そうですね、カット割もありましたしね。シーズン1は特に手探りで……なにしろ「湘南劇場」という場所からあまり僕らが出れなかったので。今回のドラマはいろんなところに行ったりしてたので、世界を広げやすかったと思います。
荒牧:でも「今回も『カミシモ』の撮影現場だな」という感触でした。相変わらず長回しはあって。逆にもう、『カミシモ』の撮影はそうじゃなきゃやりづらいというか(笑)、その辺のテンポも、もう僕らもしっかりわかってるので、「帰ってきたな」って感じはありますね。
──賞レースに挑む者たちのバックステージものとしてのリアリティもあり、視聴者としてそれぞれのキャラクターにより感情移入できましたし、演じているみなさんも自身の役への解像度がさらに高くなっているのが伝わってきました。
荒牧:コンビ愛は特に深まったと思います。お互いへの信頼はホントにしっかり構築できているなって。シーズン1の頃は「うまくいかなかったら解散すればいいじゃん」みたいな空気で常に「解散」の影があったんですけれど、それがシーズン2を終えてシーズン3になって、解散っていうことはもうない。ない上でどう困難を乗り越え、強く関係を構築していくかというコンビ愛はできてきたなと確信しています。
──でもずっと悩んでますよね。
荒牧:時浦、めんどくさい子なんでね(笑)。ネタが全ての人だから、「売れればいいじゃん。売れるためには何してもいいじゃん」という考えとの対立は常にありますし……。
和田:そこはほら、絶対「ネタ書くやつが偉い」と思っているでしょう?
荒牧:まあ……それはやっぱりあると思いますよ。なにかあったら結局「僕が書いてるんだからな。書いてる最中、お前何してんねん??」という話になるじゃないですか。
和田:確かにね。『カミシモ』をやったからそういう面でもお笑いを見る目は相当変わりましたね。チュートリアルの福田(充徳)さんと共演させていただいたときにも、本当にいろいろなお話を伺って、『カミシモ』に活かせるようなことがいっぱいありました。リアルに漫才の頂点に行かれた人たちなので、つい「そっち側はどういう気持ちなんですか?」ってズバリ聞いちゃいましたね。で、ネタの練習も「ほんまに1回しかやらん」って言ってました。
荒牧:え、すごっ。
和田:稽古があまり好きじゃないんだそうです。でも自分たちが作ったネタだから、それでも構わないわけですよね。途中で飛んだとしても、それはそれ、間とかめちゃくちゃになっちゃっても別にいいやと、そのやり取りを楽しんでるから、みたいことを仰ってました。
──そして、それを見てるお客さまもまた楽しくなる。
和田:そうなんですよ〜。その飛んでるのすらも演出かもと、お客さまからするとそこはわかんないですもんね。
荒牧:ジャルジャルさんもそういう感じでした。一応芝居をやるっていう形の共演だったんですけれど、毎回全部違うことを言うし、やってるし。さすがに僕らとの絡みのところはセリフで返してくるんですけど、ジャルジャルさんの2人でやるときはずっとアドリブ。で、やっぱり面白いんです。ネタの構成の上手さというか、どこで笑わせて、どこでフックをかけて……という笑いへの道筋が、「上手いなぁ」って思えます。
和田:うん。お笑いやっていると「上手いな」になるよね。「おもろいな」より「上手いなぁ」。
──ではエクソダスのお笑いのカラーは?
荒牧:「理屈っぽい」。偏屈を全面に出して……っていうネタだったんですけど、実は今回の舞台ではそうじゃないんですよ。
和田:今回は僕らもラストワルツ(和田琢磨と染谷俊之によるコンビ)っぽいというか、キャラクターがあるネタに挑戦します。僕演じる島がツッコミで時浦がボケですけど、僕がボケる瞬間があったりとか……うん、また違った形だよね。
荒牧:違っているんですけど、でも時浦らしさとしてちょっと理屈っぽくはいようと思ってます。ただ、ネタが変化しているのは時浦にとってもいいことなんじゃないかと思って、そこはしっかり受け止めています。
──ここにきて各コンビの個性、在り方がより進化し際立っているのでしょうね。共演のラストワルツとロングリード(橋本祥平と田中涼星によるコンビ)のイメージというと……。
荒牧:ロングリードは幼なじみで、ラストワルツは熟練というかちょっとベテラン枠の大人の悩みネタ。ラストワルツの琢磨くんと染谷くんの作り方も面白いですしね。琢磨くんって顔は男前なのにやることはめっちゃダサイから、本当、そのギャップがめっちゃよくて。
和田:琢磨くん、おもろいよな〜。
荒牧:おもろい(笑)。そしてロングリードはもう安心感しかないです。ふたりの仲もいいですし。
和田:マジでエンターテイナーで、なんかかわいい。あのふたりがかわいいことをやって、ラストワルツというベテランさんがいて、そして僕らがいてっていうバランスはすごくいいと思いますよ。タイプの被らない3組で。
──ドラマでは賞レースに立ち向かい悲喜交々を経験した3組。舞台で描かれるのは「その先」の物語ということですが、どんなストーリーになるのでしょうか。
荒牧:「こうきたか」と。多分みなさん、こういう話になるとは思わなかったと感じられるかもしれないですね。
和田:確かに。今回はシンプルに「家族の物語」なんですよ。
荒牧:島の父が現れます。
和田:なぜここに至ったかっていうところ……幼少期から人物を掘り下げていくっていう流れ、かな。
荒牧:シーズン2の舞台は完全なロケバラエティーだったんで、今回はまたテイストの違う舞台になるでしょうね。ただのベタな話にならないよう、僕らは家族愛の物語をしっかり作り上げていく。あとここ(エクソダス)のコンビ愛もね、さらにしっかり描きたいですね。
──公私共にもはや熟年夫婦のような長いお付き合いのおふたりだからこその絆が見られそうです。
和田:熟年夫婦、ほんとにもうそうなってきていますね。馴れ合ってるわけではないんだけれど、久しぶりに会ってももう温度を上げないんですよ、お互い。「おーい!」みたいにならない。なんか……「あ、はいはい(いつも通り)」みたいな(笑)。「え、そのテンション!?」と周りからは思われるんでしょうけど、僕ら的にはいよいよその域に達してきたなって。
荒牧:もう当たり前なんですよね、きっと。「会えて嬉しい」じゃなく、「そりゃいるよね、だってもう9年近く一緒にやって来ているもん」みたいな(笑)。自分が何かやっても絶対ツッコんでくれるし、もはや揺るぎない信頼がある。今回もいっぱいツッコんでね。
和田:ハハハッ(笑)。それはもう相変わらずで。
荒牧:僕らコンビには3年かけて確立してきたものがある。それを全力で舞台で発揮できるのが今から楽しみです。
和田:ホントにね。コンビとしては自分たちが積み重ねてきたものを上手いこと活かしながら、まっきー(荒牧)が発信してくれたことに対してちゃんとツッコみますし、乗っていきますしってところですね。僕はチャンスってそうそうないと思っているので、いつも「これが最後」という気持ちで臨んでいます。今回もそのつもりで挑みます。
──『カミシモ』シリーズ最新作となる舞台。改めて本番を心待ちにしているみなさんへメッセージを。
荒牧:『カミシモ』のいいところは、本当に何も考えずに笑えるところ。観れば自然と笑えて、しかも、ちょっとほんのり泣けるというか、温かいエピソードもしっかりある。そういう意味で、この舞台で心を癒しに劇場へ来てもらいたいなって思います。観たら絶対癒される舞台です。
和田:演劇もやるし、漫才を観るという楽しみ方もできるし、あとありがたいことに最後にライブもやったりと、本当にいろんな楽しみ方ができるのが『カミシモ』です。まっきーが言う癒しもありますし、他にはない魅力がたくさん詰まっているので、その全部を楽しみに来ていただけたら嬉しいです。
──たった1組が選ばれる賞レースはシビアですが、ここはやはり箱推しで応援したいと思います。
荒牧・和田:ありがとうございます!
取材・文=横澤由香 撮影=大橋祐希
ヘアメイク=荒牧慶彦 akenoko▲/和田雅成 小池結衣
スタイリスト=小林洋治郎