スマホデビューは家の手伝いが条件!中2自閉症娘に伝えたかった働くことの大切さ
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
ASD(自閉スペクトラム症)娘のお小遣い事情
広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の娘は、中学2年生。娘は小学4年生から、お手伝いをしてスタンプをため、お小遣いを稼いでいました。
その後、小学5年生の頃から頂いたお年玉の一部やお小遣いを定期的に娘に渡すことにし、
スタンプをためるお小遣いシステムは止めましたが、お手伝い自体はそのまま続けてもらいました。そして、中学生になり、スマートフォンを持ったのですが……
中学生になりスマートフォンを購入。使用ルールを設ける代わりに……
スマートフォン購入時、私たちは使用ルールを特に設けませんでした。その代わりに、スマートフォン利用の仕組みについて話しました。
スマートフォンは購入したあとも、毎月使用料がかかり、お金が発生していること。娘はアルバイトをしていないため、自分で払うことはできないので、私たちがお金を払うことを話しました。
そして、
お手伝いをしっかりすることがスマートフォンを持つ条件だと話しました。
それからお手伝いは続けていたのですが、だんだんと……
お手伝いを嫌がったり…さぼるようになりました。
時にはそんな気分にもなるだろうと、1、2回は様子を見ていたのですが、「さぼれる!」と思った娘は、そこからずるずるお手伝いから逃げるようになりました。
これでは最初の約束が守られていないと思った私は、娘に話をしました。
娘は条件を忘れていたわけではありませんでしたが、めんどくさいという気持ちがどうしても勝ってしまうようでした。
それでもスマートフォンを手放したくない娘。しかし、約束は約束。そこで私はこんなふうに話しました。
私は娘のことを話した時、よく「そんなことわざわざ教えなくても勝手に学ぶよ」と言われることがあります。
しかし、「勝手に学ぶ」というのは、娘には通用しません。何も言われていない状況から何かを読み取ったり、自分で考えて行動することは苦手なのです。言わなくてもいいことも、言葉にして伝えることが必要なのです。
私は常日頃から、「家があって、好きなものが食べられるのは、パパとママが一生懸命働いているから」ということを子どもたちに話しています。いつも通り生活ができることのありがたさを子どもたちにも理解し、働くということがどういうことか考えてほしいと思っているからです。
もちろん、親に恩義を感じさせるような威圧的な言い方はしませんし、時にはふざけた言い方もします。
働くというのは大変なこと、しかし働くことで生活ができます。もちろん例外があることも話しました。
ASD(自閉スペクトラム症)のある娘は物事の見通しを立てるのが苦手です。私たちは、何事に関しても娘がこの先経験するであろうことは、その時が来る何年も前から話して聞かせ、イメージさせるようにしています。
小学生になったら……中学生になったら……高校生になったら……大人になったら……働くようになったら……事前に話すことで、少しでも知識や精神面に関して準備ができればいいと思っているからです。
娘がこの先、アルバイトをするかどうかは分かりませんが、アルバイトの一般的な常識は、自分の経験談を話したりしています。
スマートフォンの月額を私たちに払ってもらうため、今、娘がやっているお手伝いは、仕事のシミュレーションです。働いたら(お手伝いをしたら)、その分お金がもらえる(スマートフォンの月額にあてる)。体調が悪い時は、仕事(お手伝い)は休んでもいい。めんどくさくても、やらなければならない時もある。
娘が大人になるまでに過ごす今は、準備期間ととらえ、いろんな学びを無理させずに楽しみながら……嫌な時は諭しながら……経験させたいと思っています。
執筆/SAKURA
(監修:室伏先生より)
スマートフォンを持つことを単なる娯楽や便利な道具としてではなく、「お金を稼ぐことの大切さ」や「責任を伴うもの」として伝える機会にされたこと、またスマホの月額支払いを“仕事のシミュレーション”として捉えた工夫は非常に意義深く、家庭内でのリアルな学びの場をつくる素晴らしい実践だと感じました。こうした取り組みは、ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんにとって抽象的で理解しづらい「将来像」や「仕事をするということ」を、具体的に実感できる貴重な経験になります。今後も娘さんが、成功体験を積みながら、生活に必要な力、自立に向かう力を蓄えていけるよう、心から応援しています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。