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劇団唐組の旅公演『紙芝居の絵の町で』久保井研が語る。「唐十郎亡きあとも紅テントを続けることを、全国に宣言できる芝居に」

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久保井研(唐組)

寺山修司と並んで、日本のアングラ演劇シーンをリードした鬼才・唐十郎。数々の伝説を生み出した劇団「状況劇場」解散後、1989年に旗揚げしたのが「劇団唐組」だ。状況劇場の紅テントを引き継ぎ、精力的に新作を発表し続けたが、2012年に唐が病気療養に入ったのを境に、過去作品を年2本ペースで上演し続けている。今年の春の全国ツアーの演目に選ばれたのは『紙芝居の絵の町で』。2013年から、唐と共同という形で演出を務めている座長代行・久保井研が大阪で会見を行った。

唐が2006年に書き下ろし、2014年にも上演された本作。久保井いわく「唐十郎の幼少期の体験が、物語の中心になっている」という作品だ。使い捨てコンタクトレンズのセールスマン・牧村(長橋遼也)は、謎の紙芝居絵の正体を探るため、ホカ弁屋のるいこ(大鶴美仁音)とともに、往年の紙芝居名人・情夜涙子(友寄有司)の元に通い詰めていた。今は介護老人となっている涙子だったが、彼女に助けを求める声が入る。だがそれは、老人たちを詐欺の出し子とする「ネンネコ社」が、涙子を仲間に引き込むための罠だった――。

久保井は本作について「ドラマのきっかけになるのは、少年の目に映る紙芝居の姿。牧村と涙子は、使用済みのコンタクトレンズを捨てられずに溜めこんでいるけど、その一枚一枚に絵……思い出が焼き付けられていて、それを剥がしていくというのが、唐さんの中で紙芝居を一枚一枚めくるという発想と、すごくつながったんではないかと思います」と誕生のきっかけを語る。

『紙芝居の絵の町で』(2006年初演)。左端は唐十郎 ©唐組

さらに再上演に向けて「日常の中で捨て去られていくものを懐かしむだけではなく、何かのカタルシスをつなげていくのが唐十郎の作劇の面白さ。そういう所を作っていくことを目標にしたいし、これこそ唯一無二の演劇の形態だというものをお見せできたらと思います」と抱負を述べた。

今はすっかり街なかで観ることがなくなった紙芝居に対するノスタルジーと、一般市民がいつの間にか特殊詐欺の犯罪に巻き込まれるという現代的なテーマがミックスされているが、久保井は「唐が書いたように、現在の詐欺の形態が変わってしまったことが不思議」と言う。

ネンネコ社は介護会社をやりつつ、記憶の怪しそうな年寄りをカモにして、お金をかすめ取るという詐欺グループ。(初演)当時はこんな風に、見ず知らずの人同士が役割を細分化した詐欺はなかったのはないかと、この作品をやると決めてから気づきました。まさか詐欺グループが(この戯曲を)読んでるわけがないですからね(笑)。毎回再演でテキストを手にするたびに、唐十郎の悪魔的な予見性に驚いてしまいます」と、時代を先取りした内容だったことを明かした。

久保井研

唐組には毎年のように若い俳優が入り、唐十郎の世界観とテント芝居のノウハウを学んでいく。今回『紙芝居……』を演目に選んだのは、唐十郎に代表されるアングラ演劇のスピリットを次世代に伝えていくためにも、彼らをできるだけ早く成長させる必要性を感じたからだそう。

キャラクターがいっぱい出てくるので、若手の俳優修行にとてもいい作品だと考えました。台詞の分量が多くて、唐さんの原体験や、今の社会を切り取るような眼差しを持っている登場人物を、若手にあてがいます。今唐組は、若手の底上げが急務です。

演劇は社会を鋭くえぐる手段の一つだったはずなのに、この20年ぐらいで一気にエンタメ化していることに、私自身は危機感を持っています。その中で唐らしい社会の見方を、演劇を通じて知らしめたいという思いから物語を創作しているし、我々はそういう芝居にこだわって作り続けていきたいです」。

唐十郎の逝去から、間もなく1年を迎えようとしているが、久保井は「僕は今も“座長代行”。唐さんが永遠の座長です」と笑う。

『紙芝居の絵の町で』(2006年初演) ©唐組

テントとともに、唐さんはいると思っています。テントをかついで各地を回り、ほぼ野外と言える場所で公演をするのが、(唐組の)特徴の一つ。そこで演劇が持つ有効性のようなものに、我々は賭けたい。今はとても若い観客が足を運んでくれるようになってまして、彼らに我々の目指す演劇の味わい方をしゃぶりつくしてほしい(笑)。初めて目の当たりにするお客さんには、記憶で頭をボカーン! と殴られるような芝居にできたらと思います」と意気込みを見せた。

これから唐十郎を再評価するために、いろいろな舞台が上演されることが予想されるが、やはり唐組が紅テントで行う公演が、唐十郎ワールドの原初的な風景であることは揺るぎがないだろう。その上で久保井は「古典にしてしまいたくない」とも宣言。オリジナルに近いスタイルでありながら、いかに現代に通じる普遍性を観客に感じさせるのか? を、ここからは追究していくことになるのだろう。

その第一歩であり、今後の試金石ともなりそうな『紙芝居の絵の町で』。これは「唐十郎亡きあとも、紅テントの興行を続けていく」ということを、ツアーを通じて全国に知らしめていく公演でもあるという。この世の清濁をすべて飲み込み、ダイナミックに増幅して吐き出していくような異世界を、ぜひどこかの町で体感して欲しい。

久保井研

取材・文・インタビュー撮影:吉永美和子

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