「シナノキ」の“新”巨木 橋野町和山で確認 関係者が市文化財指定の可能性探る
釜石市北西部、橋野町の和山高原で新たなお宝発見―。これまで“知る人ぞ知る”巨木で、地元の人でもほとんど見たことがなかったという「シナノキ」の大木を、このほど市文化財保護審議会(川原清文会長、委員15人)の委員らが視察した。同高原には1969(昭和44)年に市の文化財(天然記念物)に指定された「和山のシナノキ」があるが、今回確認した“新”シナノキは幹周り、樹高ともそれを上回る大きさ。審議会では今後、新たな文化財指定の候補物件として検討を進めていく予定。
視察には川原会長、同審議会第3専門部会(史跡、名勝、天然記念物)委員、市文化振興課職員ら7人が参加。同地を所有する一般社団法人栗橋地域振興社(菊池録郎代表理事会長)の小笠原明彦監事(釜石観光ガイド会事務局長)が現地を案内した。
シナノキの巨木があるのは、風力発電事業者ユーラスエナジー釜石の事務所から南西方向に位置する標高761メートルの高原地帯。市道から約3キロの林道を車で上り、終点から歩いて現地に向かった。かつての放牧場に隣接する雑木林を進むと、見えてきたのは周囲の樹木よりはるかに幹が太い1本の大樹。近づくにつれ、参加者はその迫力に驚きの声を上げた。
市職員が計測したところ、幹周りは7.3メートル(根元から高さ1.3メートル部分)、根元周りは8.29メートル。大人6人が両手をつないで周る太さだ。根元から1.8メートルほどの高さで4本に枝が分かれ、最も太いものは3.32メートル。樹高は目測で約20メートル、枝幅は約27メートルと推定される。一部に枝の欠損があるが、樹勢の衰えは感じられない。新緑の季節を迎え、枝先には葉が生い茂り、この時期ならではの樹姿を見せている。専門家による年輪調査がないと詳細は分からないが、樹齢は「300年以上ではないか」と推定。
現場は風通しが良く、日光もたっぷり降り注ぐ場所で、樹木の生育にも適しているとみられる。参加者からは「想像以上の大きさ」「立派だ」「勢いがある」など絶賛の声が聞かれた。また「他の木のつるが絡まると弱っていく可能性もある。手入れをして守ったほうが寿命が延びるのでは」という意見もあった。
同委員で、環境省の環境カウンセラーでもある佐々木光壽さん(74)は「和山の(寒冷な)環境で、これだけ太く大きくなったのはすごい。シナノキでここまでの大きさのものは市内では他に確認されていないのではないか」と驚嘆。「間違いなく価値あるものの部類に入る。市の文化財指定の可能性はあると思う」と話した。
案内した小笠原監事(67、橋野町)は振興社の人から情報を聞き、今年4月に初めて現地を確認。「自分も最初に見た時は感激した。力強さがあり、元気をもらえる木」と地元の宝を誇る。森林資源が豊富な同地域では古くから木炭生産が盛んで、世界遺産になっている「橋野鉄鉱山」でも製鉄の燃料に木炭が使われた。「この辺も木を切り出す人が入っていたと思われるが、地元の人たちは土地の守り神(御神木)としてこのシナノキだけは残したのではないか。先人の思いが詰まっているのでは…」と小笠原監事。
和山高原はかつて肉牛の放牧が盛んで、昭和の時代には高原を活用した大規模イベントの開催、市内の学校や町内会の遠足地としての利用などがあり、多くの人が訪れていた。時代の変遷とともに放牧事業は縮小化。人口減も相まってレジャー客も激減した。同振興社は近年、新たな土地利用策の一環で、市指定文化財のシナノキ周辺にサクラやレンゲツツジの植樹を進め、市民や観光客の憩いの場創出に努めている。
振興社の菊池会長(72)は今回注目された“新”シナノキについて、「和山のシンボルが増えた。ぜひ多くの人に知ってほしい」と文化財指定に期待。「現場までの林道を整備すればハイキングコースにもいい」と活用策に考えを巡らす。和山の自然が育んだ2大巨木「シナノキ」、植樹したサクラやツツジ…。「7年後には発電用の新しい風車も完成予定と聞いている。新たな景観を生かし、皆さんに訪れてもらえる和山にしていきたい」と今後を見据える。
市指定文化財(天然記念物)の巨木は現在8件。栗橋地区では「和山のシナノキ」のほか、▽古里の御神楽スギ(1969年指定、橋野町)▽明神かつら(1973年同、栗林町)▽上栗林のサクラ(2007年同、栗林町)が指定されている。