新入社員はなぜ辞める? 新卒が直面する「入社3カ月の壁」から人材育成で重要な3つの視点を考える
「配属ガチャ」という言葉が一時話題になった通り、新卒にとっての配属先というのは前向きに仕事を頑張っていくための重要事項。就活でインターンを経験する学生も少なくなく、職種限定や勤務地を限定した採用を検討する企業も増えている昨今、配属前には自分の仕事の適性や好みが見えていることもあり、「希望通りの配属につけなかった」というミスマッチは起こりにくくなっていますが、当然100%ではありません。
マイナビ転職の『新入社員の意識調査(2024)』では、退職を検討したことがある人・ない人の仕事内容についての回答を比較してみると「身に付けるべきスキルが明確である」「仕事内容が向いている」などの項目で大きな差が出ています。仕事への適性やスキルアップの方向性が明確であることが、仕事への継続意欲につながっているようです。
実際、希望通りの配属につけないことで「仕事内容が向いていない」と感じ、退職意向を強めてしまう新卒社員も多いそう。とはいえ、まだ社会人経験のない新入社員が、自身の「向き・不向き」を見抜くのは難しい話でもあります。
今までの生活とのギャップ、慣れないコミュニケーションの連続による疲弊、経験の浅さからすれば自然な「業務へのつまずき」に対して必要以上に感じてしまう落ち込み……そうしたものを経て、「この仕事は向いていない」と思い詰めてしまうケースもあるようです。
「希望通りの配属にはつけなかったが、仕事を続けていくことで得るものがあった」という前向きな方向へ導き、部門としてもせっかく獲得した人材を逃す痛手となる「新卒の早期退職検討」を防ぐためには、一体どのようなコミュニケーションが必要なのでしょうか。
新卒に限らず、後輩教育やすべてのマネジメントに通ずる3つのポイントを、キャリア・コンサルタントの林碧先生に解説いただきました。
キャリア・コンサルタント
林 碧(はやし みどり)
株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。 企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生・保育園児の2児の母。
新卒社員が入社してから1ヶ月程が経過しましたね。
社会人としての第一歩を踏み出し、少しずつ会社や仕事に慣れ始めるこの時期、多くの新入社員が様々な課題や戸惑いに直面します。まだ完全には馴染みきれていない中で、自分の立ち位置や期待されている役割に対して、不安が膨らむ時期でもあります。
こちらをご覧いただいている皆さんの中には、育成を担う立場や部門をまとめる立場として、「彼らのために何ができるのか?」と悩まれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、新卒社員が入社3ヶ月で直面しやすい課題を、3つの論点から整理します。
そして、それらの課題を乗り越えるために周囲がどのようなサポートを実践できるのか、具体的な事例も交えながら紹介していきたいと思います。
•1. 成果への不安による意欲や自己効力感の低下
•2. 組織内での人間関係と孤立感
•3. 社会人としての意識とセルフマネジメントの課題
•「見守る」と「支える」のバランスを大切に
1. 成果への不安による意欲や自己効力感の低下
この時期になると、導入研修を終えた新入社員がOJTや日々の業務に取り組み始め、少しずつ仕事を任されるようになってきます。しかしながら、業務の全体像がまだ見えていないことも多く、進めるなかで不安を募らせる新入社員が少なくありません。
特に「自分の仕事がどのように組織に貢献しているのかわからない」ことで意欲が低下するケースや、「どのレベルまでできていれば合格ラインなのか不明確な状態」で指摘や修正を繰り返されることで、自己効力感が下がったり不満感が高まったりするケースが多く見られます。
こうした状況に対して、周囲の先輩や上司が取るべき対応は、大きく2つのポイントが考えられます。
ひとつは、定期的な1on1ミーティングの実施です。たとえば週に1度、15~30分程度の短時間でも構いません。「最近どう?」「やってみて困ったことある?」といったフラットな対話を重ねることで、不安や疑問を口にする機会が生まれます。安心して相談できる環境があるだけで、心理的な安定感は大きく変わるでしょう。
もうひとつは、小さな成功体験を意図的に設計することです。たとえば、新入社員に「顧客からの問い合わせメールに対して、定型の返信文を自分で作成し送信する」というタスクを任せ、完了後には具体的なフィードバックを行います。このような“小さな完了体験”の積み重ねが、着実に自信形成につながっていきます。
2. 組織内での人間関係と孤立感
新しい職場に馴染むことは、多くの新入社員にとって大きなチャレンジの一つです。特に、社会人としての人間関係の構築方法は、学生時代の友人関係とは異なり、最初のうちは戸惑う様子も多く見られます。スムーズになじめる若手がいる一方で、うまく関係性を築けず孤立感を抱えるケースも少なくありません。また、新人側が関係構築の必要性を十分に認識せず、先輩社員との間に距離が生まれてしまうケースもあります。
「誰に相談すればいいのか分からない」「上司や先輩に話しかけにくい」といった不安が蓄積されると、徐々に孤立感が強まり、モチベーションの低下につながる可能性があります。そのため、こうした状況は未然に防ぐことが重要です。制度として支援の仕組みを整えることも、有効な方法のひとつです。
例えばメンター制度を導入し、直属の上司とは異なる部署や立場の先輩社員が定期的にフォローアップを行う仕組みを作ることで、新入社員は気軽に話せる相談相手を持つことができ、精神的な支えとなることでしょう。新人の様子に応じてメンターから歩み寄り、若手社員として求められるコミュニケーションの見本を示していくことも、組織に馴染んでもらうための有効な方法の1つです。
あるいは、カジュアルな交流機会の創出も効果的です。例えば、「月に一度のチームランチ」や「業務後のオンラインカフェタイム」など、仕事以外のコミュニケーションが可能な場を設けることで、人間関係の幅が広がりやすくなります。こうした場では、業務上のやりとりでは見えにくい人柄を知ることができ、職場への親近感が育まれやすくなります。
3. 社会人としての意識とセルフマネジメントの課題
新卒社員にとって、学生から社会人への意識転換は大きな壁の一つです。「時間を守る」「責任を持って行動する」「報連相を的確に行う」などの基本的なビジネスマナーは、頭では理解していても、実際の行動に移すまでには時間がかかることがあります。少し慣れてきたこの時期は、本質的な課題が見えてくるタイミングです。
特に、報告や相談のタイミングがずれたり、業務の優先順位がうまくつけられなかったりする場面では、早めのフォローができるかどうかで、今後の成長スピードも変わってくるでしょう。
このような課題に対しては、具体的なフィードバックをこまめに伝えることが効果的です。例えば、「この件は、先に口頭で報告してもらえると調整しやすかったよ」といった具体的な行動に基づくアドバイスは、次回の改善に直結しやすくなります。
加えて、日報や週報を活用した振り返り習慣の支援も有効です。自身の行動を振り返ることで、自分の成長や課題に気づきやすくなりますし、上司からの一言コメントがあるだけで、方向性の確認や承認欲求の充足にもつながります。育成担当や上司が忙しい場合、チームのメンバーなども巻き込みつつ、やりっぱなしにならない工夫ができるといいでしょう。
「見守る」と「支える」のバランスを大切に
新入社員の成長を支援するうえで大切なのは、「任せて見守る」姿勢と、「必要なときに手を差し伸べる」支援のバランスです。過干渉になりすぎると自主性が育たず、逆に放置しすぎると孤立感や不安を助長する可能性があります。
ポイントは、「話せる関係性」を日頃から築いておくこと。すべてを解決してあげる必要はありません。適宜、話を聴き、共感し、必要なときにはヒントを与えるという繰り返しができるよう、接点を持ち続けることで、自立や成長を促すことができます。
新入社員にとって、入社から最初の3ヶ月は、社会人としての基礎を築く非常に重要な時期。この時期の体験が、その後のキャリア形成や職場に対する印象に大きく影響を与えます。だからこそ、周囲の先輩社員や上司、そして組織全体が、「支援しながら見守る」姿勢を持ち続けたいものですね。
新入社員だけでなく組織全体の成長にもつなげていけるよう、一人ひとりの不安や悩みに寄り添いながら、小さな成功を積み重ねていける環境づくりができるといいでしょう。
この記事が、皆さんの育成の手助けになっていたら幸いです。
文:マイナビ転職編集部
【出典】
マイナビ転職『新入社員の意識調査(2024)』( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/19/ )