陰陽のバランスが崩れやすい現代生活。睡眠改善に効く漢方は?【生薬と漢方薬の事典】
不眠
寝つけない、眠りが浅い、寝てもすぐ目が覚めるなど、不眠の症状が続くと、倦怠感や集中力の低下など、日中の生活にも影響があらわれます。眠れないのにはさまざまな理由がありますが、深夜まで明かりが灯り、自然界のリズムと違った生活が当たり前になっている現代では、まず、陰陽のバランスの失調、次に臓器(おもに心と肝)の働きの失調が要因になると考えられます。
体質からみる血虚 陰虚による不眠
おもな原因は日頃の生活の乱れ
処方:酸棗仁湯
興奮してしまって眠れない
夜は陰の時間で、陰には体を鎮める作用があると考えられます。しかし、夜遅くまで起きているような生活が続くと、心身ともに疲れてしまい、血が消費され陰が足りなくなっていきます。
こうなると、体を鎮めることができず、昼間のように、陽である気の働きばかりがたかまってしまいます。興奮が冷めず、なかなか寝つけません。交感神経がずっと優位に働いてしまっているような状態です。いったん眠りについても眠りが浅く、夢を多くみたり、すぐに目が覚めてしまったりします。血や陰が少ないと疲れすぎて、ぐっすり眠ることができないのです。
血を補い気持ちを鎮める
心身の疲労からくる不眠、虚弱なタイプの人の慢性的な不眠に多く用いられるのは酸棗仁湯です。主薬である酸棗仁が、血を補い、精神を安定させる働きをします。また、茯苓も精神を安定させるほか、川芎が血を巡らせ、地母が熱をさますなどします。
体質からみる陽虚による不眠
体が冷えていて眠れない
処方:八味地黄丸
体を温める力が足りない
眠りには陰の働きが重要で、陽虚で不眠になる頻度はそう多いものではありません。しかし、陽が不足すると体を温める力が弱くなり、冷えから眠りにつきづらくなることがあります。足先が冷えて眠れないなどのタイプです。
温めることが第一
冷えが原因となっているので、まずはシンプルに、体を温める工夫をすることです。湯たんぽを利用するのもよいでしょう。
処方では、滋養作用や血の巡りをよくする作用、体を温める作用がある八味地黄丸が用いられます。体を温めてくれる方剤としてよく知られたものに葛根湯もありますが、興奮させる作用があり、眠りを妨げるので注意が必要です。
その他 肝うつによる不眠
肝がたかぶりイライラしている
処方:抑肝散/四逆散
感情のトラブルで寝つけない
緊張状態が長く続いたりするすることによって、感情をコントロールしている肝がうまく働かなくなっていると、イライラして眠れません。精神的に興奮が続いている状態です。眠りも浅く、夢も多くみます。目が充血したりもします。
肝の気の巡りをよくする
神経過敏の状態をおさえるために、抑肝散や四逆散を用います。どちらにも、肝の気を伸びやかにしてよく巡らせる働きがあります。また酸棗仁湯が併用されることもあります。
その他 心神不安による不眠
思い悩んでしまって寝つけない
処方:帰脾湯/柴胡加竜骨牡蛎湯/桂枝加竜骨牡蛎湯
いろいろなことが気になってしまう
心の働きが不安定になって起こる不眠です。不安感が強く、気持ちが落ち着きません。横になっても翌日の仕事が気になったり、あれこれと心配ごとが頭にうかんで眠れません。
気血を補って心を安定させる
人参や黄耆などが気を補い、酸棗仁や当帰などが血を補って、心の働きを安定させる作用がある帰脾湯を用います。
カルシウムを主成分とした竜骨、牡蠣を含んだ柴胡加竜骨牡蠣湯、桂枝加竜骨牡蠣湯も精神を安定させる作用があり、不安感に加え、イライラするといった神経過敏の症状がみられるときにも用いられます。
その他 胃の不調による不眠
胃が弱っていると深い眠りが得られない
処方;安中散
食べすぎなどが原因
過食や、夜遅い時間の食事など、食生活の不摂生から起こる不眠です。深い眠りを得るには、胃がしっかりと働いていることが必要です。
胃の調子を改善する処方を
胃痛、胸焼けなどにも用いられる処方、安中散を使って胃の調子を改善します。安中散は、健胃作用のある桂皮や茴香、良姜など、胃によい生薬を組みあわせた方剤です。
養生・セルフケア
過ごし方
何より重要なのは、早寝早起きをするなど睡眠のリズムをととのえることです。深夜までスマホをいじり、次の日は昼過ぎまで眠るといった生活では、いくら薬を飲んでも症状は改善されません。
朝起きたら太陽の光を浴びたり体を動かしたりして、陽のスイッチを入れましょう。夜は陰に入るため、できるだけゆったり過ごし、部屋の明かりも暗めに。テレビ、スマホなどからは日中と同じくらいの光が目に入ってくるので、見ていると覚醒してしまいます。熱いお風呂にも覚醒作用があるので、寝る直前は避けたほうがよいでしょう。
食べ物
酸味のあるものは、緊張をやわらげる作用があります。肝、心の働きが悪くなっていているときによいでしょう。
【出典】『生薬と漢方薬の事典』著:田中耕一郎