西川口「好又鮮酒楼」でウナギやシャコを食らう【ガチ中華で淡水魚料理 第2部前編】
承前
東京で中華淡水魚料理を食べる会の第一部で東北料理の鯉料理を堪能した我々ですが、後半、第2部は同じ西川口の「好又鮮(こうゆうせん)酒楼」に行きたいと思います。
https://deep-china.tokyo/trend/33608/
この店は、第1部で紹介した、中華食材店のグループ店で、福建料理を出すお店になっています。
福建料理のある福建省は中国の南東部に位置する省で、非常に山がちな省なのですが、非常に屈曲に飛んだリアス式海岸の海岸線と、省内には1100余にも上る島々がある漁業の省でもあります。
すでにこのお店も東京ディープチャイナで紹介していますが、今回はあらためて淡水魚(ウナギ)とその他海産物を中心に食べようと思います。
https://deep-china.tokyo/restaurant-info/3151/
好又鮮酒楼の入り口。結構キラキラした店構え
店に入ると、まず目を引くのは生簀の多さ。
蟹も優雅に泳いでいます。ちょうど上海蟹のシーズンでしたので、店の人に「これは上海蟹ですか?」とたずねると「いや、梭子蟹(スォジーシェ、ワタリガニ)だよ」とのこと。上海蟹(チュウゴクシナモクズガニ)とワタリガニは全く形の違うカニなのに、間違えるとは恥ずかしい限り。これからは、料理になる前の生きた姿ももっと勉強したいと思います…。
好又鮮酒楼の生簀。ワタリガニやシャコ、カキなどが見えます
(1)福建料理の魚1品目<炸糟海鰻>(ハモの紅麹揚)
紹介する1品目は<炸糟海鰻>(ハモの紅麹揚)。
この料理、当初はウナギの中華フリッターで頼んでいたのですが、出された料理はハモでした。実は中国では、ウナギは「鰻魚」ですが、ハモやウミヘビ、ウツボなど海にいる細長いウナギに似た魚はすべて「海鰻」と呼ばれています。
今回フリッター用のウナギが手に入らなかったのか、それとも同じ「鰻」同士だから「まあ良し」としたのかはわかりませんが、もし後者なら中国の人の海産物に対する見方が伺えてとても面白いと思いました。(注1)
<炸糟海鰻>(ハモの紅麹揚)結構軽い食感
この料理は下味に紅麹で味をつけるのが特徴です。福建省は紅麹の里。私もまだ飲んだことないのですが、沉缸酒(ちんこうしゅ)という紅麹を使用した酒や紅糟肉(紅麹に漬けた豚肉揚げ)・紅糟魚(紅麹に漬けた魚)といった紅麹料理が有名で、特に福建省寧徳市古田県の紅麹は「古田紅麹」として珍重されています。(注2)
さてこの料理。衣は厚く、見た目はぼてっとした中国式フリッターですが、そんなに重くはなく軽い感じです。
食べると、下味のよく利いた香辛料の味とハモの白身がふわふわした食感で前菜などにちょうど良い感じです。参加者の感想でも「沖縄の天ぷらに近い」とか「台湾の海鮮料理店にもある」といった感想が出ていましたが、私も台湾の夜市に似た揚げ物料理があったことを思い出しました。
ただ一点、おしむらくは、今回、この料理ハモの身をそのまま切って揚げたので、ハモの小骨が入っていて、少し食べづらいのは難点でした。ここは、骨切りするかすり身にすればよかったのにと思った点でした。まあ、おかげでハモ独特の骨のY字型の構造を観察することはできましたが…。
<炸糟海鰻>を齧る。小骨に注意!
参加者の皆さんもこの点は気になったようで
口に入れた瞬間、これは台湾の海鮮料理店にもあるやつだなと思いました。ふかふかの揚げ方はたいへんよろしい。ただギャンギャンのハモの小骨がこれでもかと入っているので、一口を含む度に口から小骨を抜く必要がありました。ふんわり揚げるためか、少しだけ皮のにおいが気になるような、ならないような、そんな料理でした。衣は軽い。
鱧をこうやって食べるんだということに驚きました。骨がちょっと気になりましたが美味しかったです。
赤い麹だったと思うのですが 調味料につけられていて 下味がついていたのですが すごく独特な風味で初めて食べる味でした。若干甘みがありつつも にんにくのような風味も感じてパンチがありました。
甘酢のようなのタレにつけるのですが、また雰囲気が変わって美味しかったです。私が食べた部位は後半だったのですが 骨が複雑に入り組んでいて食べるのが大変でした笑 まるごと行くべきだったのか骨は取って良かったのか未だに分かりません。
唐揚げと聞いてイメージしていたものと相当違いクリスピーチキン的な食感だった。若干酸味の効いたタレが美味しかった。
衣の厚さがいわゆる沖縄の天ぷらに近いような雰囲気であるのと同時にしっかりと下味がついているのが印象的だった。
ハモ自体(おそらく)食べるのが初めてで,こんなにふわふわなのを初めて知った。
お酒のつまみ感覚でサクサク食べることができた。
といった感想も寄せられました。骨は丸ごと行くとのどに刺さるので、外すのが正解かと。
(2)福建料理の魚料理2品目<豆汁河鰻>(ウナギの豆豉蒸し)と3品目<枸杞炖河鰻>(クコとウナギのスープ)
日本でも大人気のウナギですが、中国でもウナギは食べられています。日本では、かば焼きや白焼きで食べられることが多いですが、中国のウナギ料理はものすごくバリエーションがあります。
今回は2品、<豆汁河鰻>(ウナギの豆豉蒸し)と<枸杞炖河鰻>(クコとウナギのスープ)を作ってもらいました。
まず、「ウナギの豆豉蒸し」ですが、日本とは捌き方が全く違い、かなり太めのウナギをばつんばつんと輪切りにして蒸しています。
2品目<豆汁河鰻>(ウナギの豆豉蒸し)。この真っ黒いソースがおいしい
それに濃い、豆豉ベースのソースをかけています。豆豉は黒大豆を原料にした調味料です。豆が原料なせいか、味噌にも似た香りと旨味があります。(注3)この豆豉をウナギの旨味に負けないようたっぷりと使った、旨味と塩味の濃いソースになっています。
この料理はウナギもですが、ソースが非常においしく
豆豉の香りとウナギの組み合わせが面白かった。残ったスープのうまみに驚いた。
と感想を述べてくれる方もありました。
ウナギも、ぶつ切りにした太いウナギを使っているせいか、皮の下のコラーゲンのプルプルした感じが強く感じられ、豆豉のソースと合わせると、かなり濃厚な料理となります。それでいてくどさや重さを感じないのは料理人の腕前でしょうか?
そして、これがまた白酒と合うこと。
今回は<孔府家酒>という山東省の白酒を頼みましたが、味の濃くなった口を白酒が洗ってくれるようで、料理を一口、お酒を一口とたべすすめるのがたまりません。
参加者も
こういう料理があること自体は知ってはいたのですが、いざ食べると意外と魚と汁は溶け合っておらず、魚は魚でちゃんと味の主張をしている。それでいて軽く、くどさを感じさせない不思議な料理でした。甘くないのがよかったです。
うなぎを輪切りにした料理は初めてです。ビジュアルにすごく インパクトがありました。トーチという味噌のような調味料が使われているようで甘じょっぱい感じの味付けでした。煮込みなのでうなぎの皮はぷるんとしていて身のコラーゲンもあるので見た目以上に こってりとした味でした
と、「こってりしているけど、軽い」という感想を述べてくれました。
さて、ウナギの豆豉蒸しが酒の肴の料理とすれば、ウナギのスープは体を労わる薬膳のようなスープです。大きいスープ鉢にやはりぶつ切りですが、うまく身に切れ目を入れて、ちょうど花のような細工にも見えるウナギを入れています。
3品目<枸杞炖河鰻>(クコとウナギのスープ)花の形に切られたウナギの細工がかわいい
薬膳スープ定番のクコやナツメとともに、それにウナギから出た脂が表面にういていて、いかにも滋養強壮に効きそうな雰囲気と味です。ウナギも先ほどの豆豉とは正反対のシンプルな味付けで、ゼラチン質と甘味とウナギ独特のクセを堪能できる料理でした。
面白いのは、何かの根っこのような、シャキシャキとした少し土臭い独特の匂いのする白い植物が入っていたこと。「ゴボウでは無さそうだけど…でもこの風味はどこかで…」と、あとでお店の人に聞くと「当帰(トウキ)」でした。
当帰はセリ科の草で、漢方薬では、この草の根は冷えを取り除くとされ、当帰芍薬散をはじめ、様々な漢方薬に使われています。今回このスープに入っていたのも、生薬につかわれる根っこでした。(注4)
この風味がどこかで感じられたのも、風邪の時の漢方薬や栄養ドリンクの風味で知っていたからでした。
参加者からは
ウナギの包丁の入れ方が興味深かった。薬膳料理のような印象を受けた。
この店でいちばん食べたかったのがこれです。切れ目を入れたものを油に通して、ここに水気を加えてクコやナツメ、トウキとともにシンプルな汁になっています。
向こうではメジャーな調理法のひとつだと思いますが、余計なものがないのでウナギの味がよく感じられ、自分でも作ってみたくなる、冬っぽい味わいでした。
これまたうなぎがまるまる一匹入っていてとても インパクトのある料理でした。薬味が効いていてなんか味わったことのある 風味だったのですがちょっと思い出せません。例えが悪いですが温泉の薬湯 のような香りもしたと思います……笑
様々な味が溶け込んでて美味しかった。健康になれそう。
やはりスープはコクが味わえていいですねぇ~
台湾で食べた類似料理では薬膳的だったが、こちらは旨味を押し出す方向性でよかった。
と、みなさん薬膳に近い印象でした。夏バテや疲れ気味の時なんかに食べると、きっと元気が出るんじゃないかと思います。
(3)4品目<椒盆皮皮蝦虾>(シャコの塩胡椒炒め)
コイ三種とウナギ二品を食べてソロソロ皆も腹がくちくなってきました。軽いものを挟んでそろそろ〆にしたいと思います。
一つはシャコの塩胡椒炒めです。
殻付きなせいか、日本の寿司屋でみかけるものよりもかなり大きく見えます。そういえば最近シャコを出す店も減りましたねえ…。塩胡椒炒めなので、少し磯臭い香りはしますが、ぺりぺリと殻をむいていると、エビよりもさっぱりとしたシンプルな味がおいしくて、だんだん気にならなくなります。
4品目<椒盆皮蝦虾>(シャコの塩胡椒炒め)。今回食べた中では一番シンプルな料理かもしれません
今日は衝撃的な料理ばかりを食べてきたので、こういうシンプルな料理が間に入ると落ち着きます。
シャコは見た目を気にする人もありますが、殻をむきながらしげしげ見るとシャコパンチを出す腕とか尾っぽのとげとげとかカッコいいと思うんだがなあ…。
シャコの殻をむく。必殺のシャコパンチを放つ腕がかっこいい
参加者の皆さんも
海外の市場の床の風味を確実に感じつつ、食べ尽くしました。ここまで肉の張った大ぶりのシャコを食べるのは本当に久しぶりで、心で泣きました。
久しぶりにシャコを食べたのですが、シンプルな蒸しただけの料理がめちゃくちゃ美味しかったです。シャコという食材のポテンシャルの高さを感じます。
という感想を述べてくれました。
ここで<フナと納豆の人>さんが、ハサミがない場合のシャコの殻の上手な剝き方をレクチャーしてくれましたので、皆さんにもご紹介します。
<フナと納豆の人流シャコの殻の剥き方>
頭と腕をとる(腕は後で割って中の肉を食べる)
尾っぽ(尾節)の先端を折る。さらにその脇に出ている小さな足たちをとる(腹のふさふさはとってもとらなくてもOK)
尾っぽの脇から指を入れて、そこから背中側の殻は尾っぽ側から頭の方へむく。
その後、腹側の殻を頭から尾っぽの方へむく。
とのことです。
つるんと殻がむけるととても気持ちいいので、皆さんもお試しください。
注1 百度には<炸糟鳗魚>として、福建省福州市の伝統料理として記載が見えます。ただし、レシピを見ると「鳗魚」ではなく「海鰻」を使うように指示があり、料理名とレシピの混乱がみられます。あまり中国では、ウナギもハモもウツボも区別をつけていないのかもしれません。店のメニューでは「鰻の紅麹揚げ 炒糟鰻」となっていますが、ハモが出てきたのは本文に記したとおりです。
なお、百度のレシピでもハモの骨切りや骨抜きはしていません。文化の違いとしてとても面白いです。
参考:「炸糟鳗鱼」(百度)
注2 2024年、紅麹成分を使った健康食品が薬害を引き起こし、問題となりましたが、原因は製造時のミスによる青カビ由来の毒素の混入によるとされています。紅麹とそこから抽出される紅麹色素は日本でも食品によくつかわれており、紅麹自体には問題はないとされています。
参考:「小林製薬社製の紅麹を含む食品の事案に係る取組について」(国立医薬品食品衛生研究所)
注3 豆豉は日本の浜納豆(大豆を麹菌で発酵させ、塩漬け・乾燥させたもの。静岡県浜松市の名産。)や大徳寺納豆(やはり大豆を麹菌で発酵させ、塩漬け・乾燥させたもの。京都大徳寺の名産。)の原型とされています。
注4 参考「今月の薬草 トウキ」(公益社団法人日本薬学会)
※後編に続く。
(吉村風)
店舗情報
好又鮮酒楼
埼玉県川口市西川口1-22-11 鵜沢ビル
048-452-8482