従業員の金融リテラシーが向上しても離職率は上がらない、企業価値向上の可能性も 信託銀行調査
信託銀行4社が協働する「信託未来プロジェクト」の人的資本タスクフォース(TF)は4月18日、従業員の金融リテラシーが企業に与える影響に関する調査レポートを発表。金融リテラシー(FL)の向上により離職率が上がる可能性は低い、という検証結果を明らかにした。
転職経験や転職回数の多さと、金融リテラシーには関係性なし
「従業員のFLを高めていくことが企業にどのような影響をもたらすか」をテーマに、全体(マクロ)調査と、個別企業調査を実施。いずれの調査でも、金融リテラシーの高い従業員において「転職意向が高まる」「転職回数が増える」傾向は確認できなかったという。
「信託未来プロジェクト」は、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、りそな銀行の4社が協働し、信託法・信託業法制定100周年だった2022年に立ち上げた4つのTFの1つ。
従業員の金融リテラシー向上について、一部の企業からは「より良い処遇を求めるようになり人材流出につながるのではないか」、「株価が気になって業務に集中できなくなるのではないか」と危惧する声が出ていたという。転職経験や転職回数の多さと、金融リテラシーの高低の間に関係性がないという結果について、同レポートでは「企業が従業員に対してFLを高める施策を打つ上で1つの安心材料になる」としている。
従業員の金融リテラシーと仕事のパフォーマンスには正の関係性
また、従業員の金融リテラシーと仕事のパフォーマンスの間には、正の関係性が見られることが、いずれの調査でも示された。
マス調査の分析では、パフォーマンス「高」の割合について、金融リテラシーが高い人材は71.7%と、金融リテラシーが低い人材(24.7%)より47ポイント高い。パフォーマンス「低」の割合は、金融リテラシーが高い人材では0.0%だった。
個別企業調査は、管工機材を扱う専門商社のクリエイト株式会社(大阪府大阪市)に協力を依頼。個別の従業員の評価情報も提供してもらったところ、金融リテラシーが高い人材のパフォーマンス「高」の割合は80.7%に上った。
会社での積極的な金融リテラシー向上施策が、長期的な企業価値向上に資する可能性
個別企業調査では、金融リテラシーの高い従業員は、従業員エンゲージメントが高いことも示唆している。
組織の理念や目的に共感し、それを実現したいという意識を示す「会社へのコミットメント(目的)」が「高」の割合は、金融リテラシーが高い従業員では77.3%なのに対し、金融リテラシーが低い人材では40ポイント以上少ない(33.3%)。さらに、会社や職場への愛着や誇りから生まれる帰属意識を示す「会社へのコミットメント(功利愛着)」が「高」の割合は、金融リテラシーが高い従業員では68.9%だったが、金融リテラシーが低い人材では33.3%にとどまった。
検証仮説分析結果カテゴリ項目個社調査マス調査(再掲)パフォーマンス
職務態度仕事のパフォーマンス++会社へのコミットメント(目的)++会社へのコミットメント(功利愛着)++会社へのコミットメント(規範)無+会社へのコミットメント(功利存続)-無働きがいを感じる度合い++会社をイノベーティブだと感じる度合い++自分の処遇への納得感・満足感++自分や所属組織への総合的な満足度++属性年代+無年収++所属企業の規模無転職経験・転職回数無無投資経験・投資歴++自律・独立志向-
レポートでは、企業による積極的な従業員のFL向上施策の実施が、人的資本経営の一要素として機能し、長期的な企業価値向上に資することが示唆される、としている。帝国データバンクが1万1133社を対象として実施した調査では「金融経済教育」に前向きな企業は4社に1社にとどまっており、金融経済教育を阻む要因として、教育の困難や人材不足、時間不足が挙げられている。
全体調査は、全国の20〜69歳の男女インターネット利用者、上場企業勤務(経営層含む正社員のみ)または公務員を対象に2024年7月Webアンケート調査で実施、有効サンプルサイズ500。個別企業調査は、所属正社員を対象に2024年1月Webアンケート調査で実施、有効サンプルサイズ426。レポートは同プロジェクト専用サイトで確認できる。