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『調整さん』が好きすぎて起業した社長に、開発ストーリーを聞いてみた

スタジオパーソル

月間300万~400万人に利用されている無料のスケジュール調整ツール『調整さん』。飲み会や同窓会など、様々なイベントの日程調整・出欠管理に活用できます。リクルートで2006年に誕生して以来、20年近く愛用されているツールです。

そんな『調整さん』をこよなく愛すのは、ミクステンド株式会社代表の北野智大さん。『調整さん』は事業譲渡され、現在はミクステンド株式会社で運用されています。北野さんは、大学4年生でリクルートのインターンとして『調整さん』の開発チームに加わり、大学を中退してまで関わり続けました。事業譲渡でも真っ先に手を挙げ、想定外の起業をするほど『調整さん』への熱い情熱を持っています。

どのようにして『調整さん』が長く愛用されるツールになったのか、なぜそれほど情熱を持ってサービス開発に携われたのかを、北野さんに伺いました。

仮説検証の積み重ねで、UIを徹底改善

――『調整さん』の開発には、どの段階で参加なさったのでしょうか?

『調整さん』はリクルートが2006年につくった実験プロダクトでした。2014年、サービスに可能性を見出して「改めてテコ入れしよう」となったタイミングで、インターンのエンジニアとしてプロジェクトに参加しています。

――テコ入れする段階では『調整さん』のどこに課題を感じましたか?

当時から利用数は増えていて、明確な課題が顕在化しているわけではありませんでした。「さらに伸ばすにはどうするか」を考え、見えない潜在的な課題を掘り出す必要がありました。

『調整さん』への入力率が低ければ「クリックするボタンが分かりにくいのでは?」と仮説を立て、ボタンの大きさや配置場所を変えるなどして、約1年間の仮説検証を繰り返しました。

『調整さん』の操作画面

――仮説検証の過程で意識したポイントはありますか?

不要な部分まで直さないことです。すでに多くの人に利用されているわけですから、改善のつもりが改悪になってしまうリスクもあります。慣れ親しんでいるツールの使用感を下げないよう、一気にフルリニューアルせず、部分的な変更による仮説検証を重ねました。

イベントを主催する幹事と参加者、その両方が使いやすいUIにすることもポイントでした。幹事側が出欠表を作りやすくても、参加者が入力しにくければ成立しません。あくまでもゴールは「日程調整できること」で、それが達成できて初めてサービスの価値が生まれます。スクロールして2クリックで入力が完了する構造にするなど、『調整さん』の仕組みを理解していない人でも直感的に入力できるUIにこだわりました。

実力不足なら“量”で勝てばいい

――インターン生として参加した経緯は?

大学時代にWebサイトやスマートフォン向けアプリを一人で開発していたのですが、一人で開発することに限界を感じ、チーム開発を経験したいと考えたからです。ちょうどリクルートが新規事業部のインターンを募集していて、インターンのエンジニアとして応募しました。

――最初はどんな業務を担当していましたか?

国内外のいろいろなサービスを使ってみて、思いつくままにどんどん仮説を出し、エンジニアとしてツールに組み込みました。そしてAパターンとBパターンで比較検証するテストを行い、効果が高いほうを実装しました。思うような効果が出なくても改善すればいいので、すべて過程として捉え、次に生かすように心がけていましたね。

また、本来はインターン生の役割ではない広告案件やメディア運営も自ら担当していました。事業部の人が足りなかったので、積極的に関わることで信頼してもらえるように努めていました。まだ学生で実力不足な分、誰よりもがむしゃらにはたらいて、量で勝とうと考えたんです。途中から大学を休学してインターンに打ち込みました。

――そのモチベーションはどこから生まれたんでしょうか?

「やりたいことをやれている」ことが大きかったと思います。高校生のころから「いつかは自分でサービスを作って、人に使ってほしい」と願っていたので、それを実現できているのがうれしかったです。

――とはいえ、苦しい思いをすることもあったのでは?

自分が思っているほどの活躍ができず、理想と現実のギャップに落ち込むことはありました。だから量でカバーしたんです。終業後も休日も専門書を読んで、なんとか状況を打開しようとあがいていました。昔から夢見ていたサービス開発に携わり、やりたいことに近づいている感覚があったので頑張れました。

――努力する中で、変化はありましたか?

チーム内で頼られるようになり、任される範囲が広がって、一番『調整さん』に詳しい人材になれました。最初は仮説検証だけを担当していましたが、広告案件を引き受けるようになり、最終的には全体の設計まで任されました。

『調整さん』のブラッシュアップが一通り完了してからは、姉妹サービスの立ち上げを行うなど新しい取り組みにも複数携わりました。最終的には『調整さん』を事業譲受して起業するに至ったので、このプロジェクトで大きく成長できたと感じます。

20代は投資の期間。数を打てば成長できる

――インターンで休学するにあたり、焦りはありませんでしたか?

ありました。同期が就職する中で出遅れている感覚があり、インターン直前に不安に駆られましたが「ただ思い悩んでいてもどうにもならないし、過去には戻れない。自分で最適解を探していくしかない」と思って、ポジティブに行動しようと決めました。

インターンで休学することも「今の自分にとって一番いいことは、学生の身分を使ってハイレベルな企業でインターンをすることだ」とポジティブに捉えたから、あれだけがむしゃらにはたらけたのだと思います。

――その後、大学を中退して仕事に注力した理由は?

率直に、大学より楽しかったからです。当時の『調整さん』は月間80万人に利用されていて、自分の試みに対してユーザーからの反応があったのでやりがいを感じました。インターン終了の時期が迫り、フリーランスのエンジニアとして関わり続ける道を選びました。リクルートに入社する道もありましたが、そうすると配属先が選べないので、あえてフリーランスを選んだんです。

――『調整さん』をリクルートから事業譲渡された経緯は?

2017年に新規事業の見直しが行われ、私が『調整さん』に関わって4年目の2018年、27歳の時に事業譲渡されました。自分が一番の理解者だという自負がある『調整さん』の事業譲渡だったので、自ら手を挙げました。

ただ、『調整さん』に関わる手段としての事業譲渡だったので、起業や経営の知識が足りず、最初はかなり苦労しました。リクルートの共用ツールが使えなくなったのに、お金がないのでツールに費用がかけられず、アナログ作業に振り回されました。今は必要なツールは導入し、人も採用するなどして体制を整えています。

――大学中退での独立から突発的な起業と、チャレンジングなキャリアを積んでいらっしゃいますが、今振り返ってみてどう感じますか?

いつも目の前のことを乗り越えるのに必死でしたが、あのまま惰性で大学に通い続けるよりもはるかに大きな経験ができたと思っています。

実力不足であっても、質を高めるために数を打てば早く成長できます。20代は投資の期間で、全力で取り組むほど強固な土台ができ、大きな投資効果が得られます。失敗してもいくらでも立て直せるので、トラブルへの対応力も培えます。30代になると仕事の責任が大きくなったり、家庭を持って安定を重視したりすると思うので、20代で自由に挑戦して良かったです。

――最後に、今後の展望を教えてください。

最終的な目標は「日程調整の障壁がない世界を作る」ことです。日程調整にかかる時間をなくすというより、調整することの障壁をなくして出会いの機会の損失を防ぎ、「出会いやすい社会」を目指していきます。個人としては、開発者のバックグラウンドがある経営者として、現場に根づいたサービス作りをしていきたいです。

(文・秋カヲリ 写真提供・ミクステンド株式会社)

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