【歯科医師監修】子どもの慢性的な「いびき」。健康面へのリスクと影響とは?
子どもがいびきをかいているときに「ぐっすり眠っているな」程度に考えていませんか? もし、いびきが慢性的に続いている場合、健康面への影響が考えられるため、注意が必要なこともあるのだそうです。今回は、こどもと女性の歯科クリニックの岡井 有子先生に「いびきが及ぼす健康リスクと口腔域の発育の重要性」について教えていただきました。
教えてくれたのは……岡井 有子先生
「こどもと女性の歯科クリニック」院長。育児に忙しく、なかなか自分の時間が取れないお母さんたちが、子どもと一緒に通えるようにとの想いから、2017年7月に元麻布一丁目の地に開院。一般歯科・予防歯科のほか、矯正治療法であるRAMPA(ランパ)セラピーの専門医院として治療に努めている。
子どもの「いびき」に潜むリスク
前回の記事では、「いびきが歯並びに与える影響や受診が必要なサイン」についてお伺いしました。歯科領域から見て、子ども(小学生〜中高生くらい)のいびきに関して、注意すべき症状はあるのでしょうか。
岡井先生:もし骨格の問題が根底にあるのならば、いびきと同時に、鼻閉や喘息、不正咬合などの症状がある場合が多いです。また、症状とまではいえなくても、子どもの言動に何かが現れているかもしれません。
深刻なのは、いびきも鼻づまりも、身体の酸素不足をまねくということです。身体にとって酸素不足は生命を維持する上で重大な問題です。身体は、その代償として、受け口や、姿勢を悪くしてでも、気道を開けようと反応します。「受け口になったり姿勢が悪くなったりする程度の影響や不便」という考えは、改めなくてはいけません。身体が酸素を欲している状況は、子どもたちの成長に影を落としてしまいます。
親が知っておくべき「いびき」がもたらす健康への影響
では、子どものいびきに関して、親としてどのようなことができるのでしょうか。岡井先生は、軽視せずに「放置は絶対にしないでほしい」と言います。
岡井先生:まずは、診察を受けていただき、その原因を考えていただきたいです。肥満であれば「減量」、舌の筋力不足であれば「舌のトレーニング」(歯科でのMFT※など)、口腔域の筋肉の過緊張であれば「マッサージ」など、対処法は原因によって異なります。
※口腔筋機能療法のこと。口周りの筋肉を鍛えることで、口腔機能の改善を目指す治療法です。
「放置」は厳禁。予防的に意識を持つことが重要
岡井先生:私どもの視点からいえば、骨格の発達不良の要因は、乳児期からすでにあふれています。骨格の問題に端を発するいびきの場合、時間の経過とともに自然とよくなることはまずありません。
一般的に、いびきや鼻閉、不正咬合などは、どこかほかの疾患に比べ「それほど大きな問題ではない」という意識があるように思います。呼吸がしづらい状況に慣れてしまい、それを「普通」だと思っていたお子様も、多く見受けられます。しかし、それらは決して見過ごしてよいものではなく、実は全身の健康に影響するものなのです。骨格の発達不良が「いびき」というサインとして現れる前から予防的に意識を持っていただきたいです。
身体の「酸素不足」が脳に及ぼす深刻な影響とは
岡井先生によると、いびきと脳の発達には関連性があり、身体の酸素不足は脳の発達に影響があると考えられるとのこと。日常的にいびきをかく子どもには、発達面で特徴が見られることが多いそうです。
岡井先生:「いびき」と「脳」の発達には関連性があります。睡眠時無呼吸はもちろんのこと、その一歩手前である「いびき」であっても十分な酸素は取り込めません。身体の中で一番酸素を消費する器官といわれている「脳」に酸素が行き届かない状態と考えれば、理解しやすいと思います。身体の成長において「栄養不足」や「ミネラル不足」などが指摘されていますが、「酸素不足」も大きく影響すると考えられます。
歯並びやいびき等の問題で当院を受診する患者様には、ADHDなどの発達障害や、診断が付かないにしても、多動や話がうまく伝わらないなどの問題がみられるお子様も見受けられます。
2021年にアメリカで発表された、睡眠障害(いびきや睡眠時無呼吸)と学習障害や衝動的行動との、脳医学的な関連についての論文によると、定期的 (週に3回以上)に いびきをかく子どもは、脳の前頭葉にある、高度な推論能力や衝動制御を担う領域である灰白質が薄くなる傾向がありました。
研究チームは、この脳の構造変化が、集中力の欠如、多動、学校での学習障害などの問題の原因となっている可能性があると結論づけています。
「いびき」をきっかけに、骨格の正しい発育と健康の影響について考えよう
最後に、歯科医として、岡井先生が皆さんに伝えたいメッセージを伺いました。
岡井先生:当院の患者様300人を対象に実施したアンケートでは、歯並びの問題とともに、中耳炎(29.5%)、アレルギー性鼻炎(29%)、視力が悪い(17.3%)、副鼻腔炎(14.3%)、気管支喘息(12%)無呼吸(10.4%)、アデノイド・扁桃腺が大きい(8.2%)、咳喘息(5%)、ADHD 等の診断(2.8%)など、慢性疾患を併発しているケースが非常に多いことがわかりました。
口腔域の骨格の正しい発育は歯並びや鼻づまりのほか、全身の健康に密接に関連してきます。口腔域が健全に発達し、鼻副鼻腔や気道に十分な空間があれば、ウィルスの侵入やアレルギー物質の付着のリスクを下げてその影響を最小限に抑えることができ、感染症にかかりにくい身体づくりにもつながります。いびきをきっかけに、骨格の正しい発育と健康への影響について目を向けていただきたいと思います。
shukana/webライター