リーダーシップを発揮してキングスを勝利へ導く #4ヴィック・ロー<下>
開幕してからしばし経つが、2024-25シーズンに入るにあたっての僕のやる気は非常に高かった。というのも、今シーズンはこのキングスで、自分の実力を存分に発揮したいと思っていたからだ。 ジェッツに入った1年目から、自分の実力を発揮できていたと思うけど、一転、キングスに移った昨シーズンは、すでに記したように僕やチームにとって学びの1年になった側面が強かった。そしてそのシーズンが明けて、僕としてもずっといいプレーをしなければならないと思っていたし、例え試合に負けたとしても、全力を出し切って自分の技量のすべてを見せられるようにしたいと思っていた。 もちろん、シーズン前から抱いていたそうした気持ちは今も変わらない。僕らがどういう状況に置かれようとも、絶対に言い訳をしないようにしながら戦っている。 今シーズンの僕は、チームのダブルキャプテンにも指名されているから、責任はより強く感じている。だからこそ、勝つために必要であれば、コーチやチームメイトたちに向けて言うべきことははっきり言わなければならないと思っている。もっとも、キャプテンだけがチームを引っ張っているようではダメだとも思っていて、チームに属する1人1人が、自分がチームに必要な存在であるという意識をもって、そしてチームとして一丸となって取り組まねばならないと強く信じている。 たとえばチームの調子がよくない時など、どこが悪いか、何が課題かなどをキャプテンが語るのではなくて、気付いた人が遠慮なく声を上げる必要があるし、そういう時は雰囲気も落ちるため、「何をやっているんだ、もっと盛り上げてやらないとだめだ」といった声がけもしなければいけない。一方で、僕に限らずどのチームでも、キャプテンはチーム全体を代弁する存在でなければいけないので、試合の前に「今日はもっと激しくプレーをしないとダメだ」といった激を飛ばしたりする役割がある。
ジェッツにいた時も富樫勇樹選手とダブルキャプテンを担っているが、キングスでは僕と小野寺祥太がそのポストを拝命している。ジェッツでもキングスでも、選手による投票で選ばれている。ジェッツのときにはジョン・パトリックHCが僕にキャプテンを務めてほしいと強く願っていたというのもあったにせよ、そのようにしてチームメイトから信頼を置いてもらうというのはとても嬉しいことだし、名誉なことだ。 もう1人のキャプテンである祥太は、本来、あまり口数の多い人間ではないけども、それでもそのポジションについてからの彼はチームメイトたちと1対1で話し合いをするなど、いい仕事をしている。それに、彼はコート上で常に全力を尽くすし、恐れ知らずのプレーをしてくれている。そんな彼の背中を見て僕らチームメイトたちは鼓舞される。だから、祥太が選ばれたことも素晴らしいことだと思っている。
僕は父がシカゴ警察の警官を長く務めていたということもあり、両親からは規律正しく育てられてきた。そういった環境にいたからか、僕は幼いころから物事をはっきり言う性格で、スポーツでもいつもリーダーとして振る舞ってきた。また、シカゴ都市部のバスケットボールというのは非常に競争が激しくて、言うべきことは明確に表現しないといけないし、タフでなければならない。青臭さを見せれば負け組となってしまう。そんなところでプレーをしてきたことも、今の自分を作り上げたと言えるのではないか。 だから、キャプテンに指名されたからといって、これといって意図的にこうしようなど思いながら行動しているわけではない。あえて言うならば、誰かに厳しいことを指摘するにしても、それは個人的な感情をもってそうしているのではなく、チームが良くなるためにしている。どこまでいってもチームメイトたちは友人、ファミリーで、その彼らと同じ目標に向かって努めるというだけなんだ。 リーダーとして両親以外から影響を受けたとすれば、高校時代のコーチだ。僕がどれだけバスケットボールで上達したとしても、彼はいつも僕の尻を叩いてもっとうまくなれる、上を目指すことができると伝えてくれていたし、毎回、練習に行くといつもポジティブな笑顔で僕たちにエネルギーを与えてくれていた。 NBAオーランド・マジック時代にチームメイトだったDJ・オーガスティンも素晴らしいリーダーで、若かった僕の道標になってくれたし、僕がNBAにいようとGリーグにいようと、彼はいつも僕のベストが出せるような声がけをしてくれたし、彼が培った知識などを惜しみなく教えてくれた。彼は相手がどれだけ偉い人物であろうとそうでなかろうと、いつも同じように敬意を持って接していたし、ポジティブさと楽しさに満ちた人柄で、僕もリーダーとして大いに学びを得られたと感じている。 ここまで記すと、僕がどのような人物なのか、皆さんにも少しは分かっていただけただろうか。両親について少し触れたが、僕がこのような人間になったのも両親の影響がとても大きいと考えている。僕は5人きょうだいの末っ子だったのだけど、両親は僕たち全員を育てるにあたって教育や人生でなにが本当に重要なのかを説いてくれた。 僕はノースウエスタン大学へ行き、バスケットボールをプレーしたのも両親の影響だと言える。ノースウエスタン以外ではハーバード大やスタンフォード大、バージニア・コモンウェルス大といったところからもリクルーティングを受けた。最終的には地元の近くにいることがいいだろうということでノースウエスタンにしたのだけど、いずれの学校もスポーツだけでなく学業にも優れたところだったのは、教育も重視していた両親の教えのおかげだ。 だから僕は、スポーツだけでなく学業にも同じように力を入れていた。ノースウエスタン大学では心理学とコンサルティングの2つを専攻したし、その後にはスポーツマネジメントで修士の学位も取った。実は、婚約者との結婚式が終わったら国際ビジネス専攻で博士号を取得することを予定してもいるんだ。なぜわざわざそんなことをするのかと思うかもしれないけど、バスケットボール選手でいられる時間には限りがある。引退後の自分に可能性を広げておくためには当然のことだと思っている。 学びの年となった昨シーズンを経て、今年はずっと良くなると先に記した。ここまでまだ試合数は少ないとはいえ、実際にプレーをしていて今季のチームは昨季とは違うものだと感じている。昨季はもっと1対1をしかける場面が多かったけど、今季はよりボールが動いて、より多くの選手がプレーに関わっているから、チームとして戦っている感触がある。新加入の選手も多いし、当然のことながらまだまだ改善をしていく必要はあるけれど、プレーをしていて楽しいし、これから良くなっていく実感がある。ここから多くの勝ち星を積み上げていくことができるのではないかと思っている。
僕も自分自身の万能さを発揮して、チームの力になりたい。よく僕の選手としての特徴や強みについて聞かれるのだけど、おかしな話、僕にこれという1つの特徴というのはあまり見当たらない。逆に言うと、それくらいオフェンスでもディフェンスでも異なるポジションでプレーができていろんなことができるという万能さが、僕の最大の特徴だと言えるかもしれない。 とりわけディフェンス面で、僕は河村勇輝(現:NBAメンフィス・グリズリーズ)のような小柄な選手からジャック・クーリーのようなセンターについたことがあるほど、いかなるポジションの選手も守ることができる。ジェッツでもキングスでも、コーチたちは僕のディフェンスをとても信頼してくれていた。
オフェンスでも、内外でプレーができる僕が味方にズレを作ってあげる役割を果たせる。ドリブルでボールを運ぶこともできるから、岸本(隆一)にかかる重荷を軽減してもあげられる。ジェッツのパトリックHCもそうだったけど、コーチ・ダイ(桶谷大ヘッドコーチ)も、中でも外でもプレーのできる僕を使っていろんなことを試そうとしているし、それによってプレーにクリエイティブさが生まれることが僕にとっても楽しい。 僕個人のことでいえば、日本に来てから毎年、ファイナルでプレーをするという幸運に恵まれてきた。それを当たり前のことだとは思わないが、神のご加護があって、健康でありさえすれば、良いところまで行けると信じている。
僕は、大きな試合でプレーをするのが好きだ。つまりそれは、より大きなものが懸かった試合ということだ。そういった試合では自分たちを高めてくれる、より強い相手たちと対峙することになる。 日本に来てからの3年でも毎年、僕と同じフォワードのポジションに強敵が現れて、「俺はお前よりもいいプレーができるぞ」などと言ってきたりもする。そんな選手たちとやり合うのは気持ちがあがるし、今シーズンは自分の能力を思う存分発揮してキングスの仲間たちと共に、キングスの存在をアピールしたいと思っている。