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sumika 命と相対し、見つけ出したハッピーエンドへの道「好きな人と好きなことをやる。こんなに強いことはないよ」

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sumika

sumika Live Tour 2025 Vermillion's
2025.06.29(SUN)埼玉・さいたまスーパーアリーナ

《ドキドキすることをしていたいよ》《悲劇だろうと 喜劇だろうと 愛せるから来いよ》と歌う「Vermillion」で幕を上げ、《今はちゃんと言える 同じ色に染まる 同じ家に帰りたいと》と刻む「‘s -エス-」でドアを閉じたこと。2025年6月29日(日)、sumikaが埼玉・さいたまスーパーアリーナにて迎えた『Live Tour 2025 Vermillion's』ツアーファイナル。5thアルバム『Vermillion’s』を携え、全33公演を展開した本ツアーの意味は、何よりもその構成に凝縮されていた。

アルバムのアートワークとも結びつく巨大な時計や街灯、メトロノーム、招き猫などのオブジェクトが配された華やかなステージに登場すると、片岡健太(Vo,Gt)の歌声と小川貴之(Key,Cho)の音色が即座に会場を包む。そこへ間髪入れず力を添えるのは、荒井智之(Dr,Cho)の軽快なビート。3人のミニマムな演奏によって土台が形成される「Vermillion」がツアーファイナルの号砲を鳴らしたこと、そもそもアルバム『Vermillion’s』の1ページ目がこの楽曲で捲られることからも、今のsumikaにとって3人で新たな一歩を踏み出すことがどれほど重要だったのかは明白だろう。ライブ中盤に荒井が語った言葉を借りれば“sumikaの最小単位”でキックオフしたからこそ、続けざまに重なるサポートメンバーたちの弾けるアンサンブルも、2万人のクラップも、より美しく耳を震わせる。3人でリスタートした物語が仲間たちと目の前にいるあなたの力を借りて何倍にも増幅されていく様は、まさしく私と僕のトキメキを分かち合う光景にほかならない。

“いつよりも最高のライブ、しちゃって良いか? 全部をかけて歌います。だって今日は、そういう運命の日ですから!”、“こんなもんじゃツアー終われねぇよ!”と連打した「運命」や「ふっかつのじゅもん」、色気たっぷりに次から次へと情動に満ちた台詞が吐き捨てられた「リビドー」を経て届けられた「「伝言歌」」では、片岡が“とっくのとうに俺の半分はあなたでできていた気がする!”と咆えた。片岡が口火を切る「「伝言歌」」と小川と荒井のセッションから突入する「惰星のマーチ」を連ねたこのブロックも、やはり3人で今のsumikaなのだと告げている。しかし、決して彼らはクローズドな音楽を響かせているわけではない。肌と肌が触れ合うほどの距離にいたことで自らの大半を愛する人の存在が埋め尽くしていたと「「伝言歌」」で伝えているように、何よりも周囲との交歓を、縁を抱きしめている。メンバーの血中にはオーディエンスの存在が流れているゆえに、筆舌に尽くし難い空白を抱え、その寂寞をポジティブなエネルギーへ変換する現在のsumikaのミュージックは揺るぎないのだ。

一段と温もりを増した片岡の声に穏やかな空気が流れた「Love Later」を終えると、小川へとスポットライトが注ぐ。そう、「シリウス」である。浮遊感漂う幻想的なギターとバンドの背後に広がる満点の星空に彩られ、冷たい夜の匂いと共に小川のファルセットが響き渡り、時を超えてもくたびれない思い出の輝きと咀嚼しきることのない喪失が刻まれていく。ハウリングと眩い光がフロアに充満したところで「透明」へ。《愛している 愛している 愛している あなたを》と高純度の愛を届けるこの楽曲は、「シリウス」からの展開を受け、ラブバラードとしてのみならず、悲しみを受容するためのカギが愛だったと告ぐ一曲へ進化していく。冬の大三角形さえ目に入らない絶望から彼らを引っ張り上げたキッカケは、祈りにも似たオーディエンスからの真っ直ぐな愛情だったはず。だからこそ、命の砂時計が落ちるまで隣で笑いたいと願う「透明」は、ファンへ向けたラブレターとして手元に送られていった。

“いつも一緒にsumikaを作ってくれてありがとうございます! これからもよろしくお願いしますという気持ちを込めて、この3人で、今のsumikaの最小単位で、すっぴんの生まれたばっかりのsumikaのような、まっさらな音楽をお届けしたいと思います”と荒井が語り、3人体制で披露されたのは「雨天決行」。考えれてみれば、《やめない やめないんだよ まだ》と土砂降りの中でも歩みを止めないことを宣誓するこのナンバーは、喜怒哀楽全てを背負い、大団円まで負けずに戦い抜くことを約束する「Vermillion」や「Dang Ding Dong」といった最新の楽曲群とも共鳴している。くしゃくしゃになった地図を幾度も広げ、その六弦で、白と黒の鍵盤で、あるいはシンバルとドラムで画用紙に思いきりペンキを垂らし、狼煙を上げ続けてきたのがsumikaというバンドだろう。スクリーンに3分割で映し出されたメンバーの晴れ晴れとした表情や、楽曲を終えて2人と拳を交わした片岡の姿は、いかなる出来事に見舞われても手を取ることを辞めなかった彼らの血と汗の結晶だった。「雨天決行」でバンドの足跡を辿ったところで“後半戦、飛ばしちゃっても良いですか! あなたの声も大事な楽器”と「Starting Over」がプレイされる。すぐさま重なった大合唱は、彼らの楽曲群がもはや3人だけのものではないことの証左だ。いやむしろ、それぞれの人生を照射した肉声という楽器がアンサンブルと混ざり合って煌めいていく、そんな光景をsumikaと呼ぶべきなのか。

息つく暇もない展開でレッドゾーン越えのどんちゃん騒ぎを演出したメドレーを終え、片岡は“2年半ぶりのアルバム。この2年半の中で、人生で1番しんどいことがありました。4人でやっていたバンドが3人になりました。人生で1番しんどい瞬間でした。このタイミングでバンドを辞めたって誰も怒らないだろうなと思いました。もう限界かなと思いました”と語り、こんな言葉を続けた。

“だけど、後ろ向きなことばかり考えている自分のことを好きになれませんでした。悲しいことは十二分に承知した上で、それでも俺は楽しいと言える人生を送りたい。だから、自分の意志で音楽を続けたいと思いました。俺にとっては、音楽をやるのが何よりも幸せだからです。でも、俺はメンバーが減ったからといって「それでもバンド続けようよ」とは言いませんでした。全員孤独なんだよ。1人で考えて、1人で答えを出した。だから、今sumikaが続いている。自分の好きを自分で決めて“じゃあ、俺たち肩組めるよな”ってもう一回始まったから、今のsumikaが今までのいつよりも強いんです。好きな人と好きな人とやる。こんなに強いことはないよ。もう一回言おうか。好きな人と好きなことをやる! こんなに心強いこと、ないよ”。

自分自身の行き先を他でもない自らで決断すること、胸の高鳴りが詰まった好きを選び通すこと。アルバムで、ツアーで、そしてsumikaの生き様で体現してきたメッセージを叫び、さらにこう口にする。

“あなたはあなたの好きを守り通してください。あなたに好きなものはちゃんとあるから。分かんなくなったら思い出してください。今日のライブのこと、今話したこと、sumikaのこと、メンバーのこと、sumika以外のアーティストのこと、音楽のこと。好きなものが心の中に思い浮かべば、あなたは絶望の中にいても大丈夫。そんな好きを持ち合っていたら、俺たちは必ずまた会える気がするよ。俺はそういう瞬間を楽しみにしながら、明日も生きていきたいと思っています。好きと好きを掛け合わて、最高に楽しい瞬間を味わいながら長生きしていきましょう。“あぁいい人生だったな”って言って、お互い死にましょう。あと少しだけ、音楽を鳴らさせてください”。

生と死という逃れられない定めにとことん対峙した結果見つけ出した、シンプルで、何よりも強靭な答え。誰に傷つけられても譲れないものを余すところなく愛し抜き、それを持ち寄る日々やこの場所を幸福と呼ぶこと。遠くない未来でそれぞれの幸せを追求した日々が再び交わることを願い、“辛い時に暗い顔しているよりも笑っている自分の方が好きだから。俺はやっぱり明るい歌を歌う。あなたと一緒に!”と「Dang Ding Dong」が捧げられる。“明るい歌”と片岡は語っていたけれど、この歌の背後にはいくつもの悲しみが積もっているはず。それでも。強がって、泣きじゃくって、“明るくいたい”と、“楽しくありたい”と願った3人が轟かせるから、「Dang Ding Dong」は幸せを告げるファンファーレとして客席に降り注いでいく。荒井が刻むたくましいマーチングビートで進む先は未来だ。“こんなに愛おしい記憶をくれてありがとうございました”とエンディングを飾ったのは「’s -エス-」。最後の最後、3人だけで曲が紡がれていく中、アリーナは朱色に染まっていく。Vermillion――朱色。一色になった会場は、私たちが同じ感動に浸っていたことを伝えていた。

アンコールでは、特大の夏を連れてくるサマーチューン「マイリッチサマーブルース」と「Lovers」を届け、3人が思い思いの感謝を告げる。

“一緒に記憶を作ってくれてありがとう。生きがいをくれてありがとう。sumikaを好きになってくれてありがとう!”(小川)

“鬼みたいに楽しかった!これからも楽しいことをやっていきましょう”(荒井)

“最後の一曲は、明日の俺たちのことを歌えたら良いなと思います。俺たち何度でも始めよう!”と、それぞれの好きが待ち受けている方向へ進んでいこうと旗を掲げる「10時の方角」で終止符を打つ。エンドロールの後、スクリーンに“To be continued”の文字が映し出されると、片岡が再び登場。“sumikaというバンドはまだまだ続いていきます!”という台詞を残し、舞台上に残された扉を開け放って、ステージを去った。ありとあらゆる感情にハグをして、お守りみたいな思い出たちを生み出すsumika。彼らが築き上げるホームは、いつでも私たちの帰りを待っている。

取材・文=横堀つばさ
撮影=後藤壮太郎、山川哲矢

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