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「一度きりの意味を俺達が問う」ーーBRAHMANが4時間全75曲の壮絶なライブでみせた業と30周年の新たな扉

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『六梵全書 Six full albums of all songs』

『六梵全書 Six full albums of all songs』2024.11.4(MON)神奈川・横浜BUNTAI

BRAHMANが来年2025年の2月26日(水)に8作目となるニューアルバム『viraha』をリリースし、3月18日(火)からは全28都市28公演に及ぶツアー『BRAHMAN tour viraha』をスタートさせることが発表されている。

来年30周年イヤーを迎えるBRAHMAN。そのアニバーサリーを飾るアルバムとツアーのインフォメーションが解禁されたのは、去る11月4日(火)に神奈川・横浜BUNTAIにて行われたワンマンライブ『六梵全書 Six full albums of all songs』の本編後のことだった。後述するが約4時間全75曲に及んだライブの後、メンバーが去ったステージのスクリーンに、新曲「順風満帆」のミュージックビデオが流れた。それは、その力強くも抜けの良いオープンマインドな曲調も相まって、30周年イヤーに突入するBRAHMANが自ら放った誇らしくも頼もしい号砲のようだった。

本稿では来年への期待に思いを馳せながら、改めて『六梵全書 Six full albums of all songs』の模様を駆け足で振り返りつつ、このライブの意義を再考してみたい。

そもそも『六梵全書 Six full albums of all songs』のコンセプトはBRAHMANが過去にリリースした6枚のフルアルバムの収録曲全72曲を4時間に渡って演奏するというものだった。この内容は事前に告知され、チケットはアリーナ・スタンディング・スタンド席の全券種が完売していた。開演前の会場周辺とその場内で確認することのできたオーディエンスの情景からは、このあまりに特別なライブに参加するオーディエンスの高揚感や共闘意識が感じられた。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

やがて開演を目前にした客席の随所で、声援や雄叫びが聞こえ始める。ほどなくオープニングSE「Molih ta, majcho i molih」が流れ、ステージ後方の大型ビジョンにバンドのヒストリー歴史が映し出されると30周年のロゴが出現。怒号のような歓声のなか、ステージ上に姿を現した4人が最初に披露したのは2018年リリースのアルバム『梵唄』の1曲目「真善美」だった。通常、彼らのライブのセットリストでは比較的終盤にプレイされることが多いこの曲、〈さあ 幕が開くとは/終わりが来ることだ/一度きりの意味を/お前が問う番だ〉というリリックが、この日は未踏の領域に踏み込む道行(みちゆき)を共にするオーディエンスと自分たちを鼓舞する言葉のように響く。

TOSHI-LOWは改めて前述のリリックを繰り返すと、「一度きりの人生のなかでまだ“終わる”ってことを俺たちは知らない。だから誰よりも、高く高く飛ぼうと思ってやってきた。深く深く、みっともなくても、這いずり回ってもやってきた」と、この日最初のMCでオーディエンスに語りかける。

「30年は30年という塊じゃない」「今日やるライブ4時間72曲っていうのは72曲の塊じゃない。1曲1曲の大事な物語だ」「4時間後、ここに立っているかどうかはわからねえ。あんたらもそうだ」「けどそんなのは知ったこっちゃねえ。ずっと全力でやってきたんだ」「一度きりの意味を俺達が問う。『六梵全書』、30年分のBRAHMAN、始めます!」。ライブの意義が、彼らの意志が、あまりに熱く且つ明瞭に語られたMCにオーディエンスが歓声で応える。そこから曲は「雷同」、「EVERMORE FOREVER MORE」と続き、現時点での最新作『梵唄』をアルバムの収録順通りにプレイ。アリーナではモッシュが起きてはダイブに身を投じるオーディエンスがステージ前方へと転がっていく。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

無論、彼らのライブは激しさだけではない。「今夜」で歌詞を<横浜に行こう>と変えて歌うTOSHI-LOWのメロウな歌声からは優しさが、また「ナミノウタゲ」やソウル・フラワー・ユニオン/HEATWAVEのカバー「満月の夕」からは、震災で被災した人たちや場所への思いが改めて立ち上(のぼ)ってくる。スクリーンにリアルタイムのステージの映像が映し出され、4人のパフォーマンスが克明に届けられる。

ステージ上は楽器類とTOSHI-LOW、KOHKI(Gt)、MAKOTO(Ba)とRONZI(Dr)の4人のみ。演出も基本的には大型スクリーンと照明のみなのだが、パフォーマンスの熱狂とは対象的に、実にクールに計算されている点に感心させられた。スクリーンを使ってリアルタイムで映像を流す曲のセレクトといい、その映像を曲に応じて1面から2面、3面分割にするスクリーンのアレンジといい、ステージ背面の左右を2色で分割するカラーリング、背後から4人を逆光で浮き立たせるスポットや光彩が流れるように連射されるライティングの妙といい、後から振り返っても“演出らしさ”を全く感じさせない全てが見事最適解として機能していたように思う。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

こうして『梵唄』の全曲が披露されると、再び「Molih ta, majcho i molih」のSE が挟まれる。暫しのインターバルだが、4人はステージ袖に戻りもしない。ほどなくライブを再開させると、4人は2011年3月11日の東日本大震災を受けて制作した2013年リリースのアルバム『超克』の1曲目「初期衝動」をプレイ。「露命」「JESUS WAS A CROSS MAKER」などを経て、やはりアルバム全曲をプレイすると、3回目のSEを挟んで、2008年発売のアルバム『ANTINOMY』の1曲目「THE ONLY WAY」へ。TOSHI-LOWの声も、3人のサウンドも、4人の動きのキレも絶好調ななか、ハードコアなテイストの色濃い曲が続けざまに披露されていく。結果、近作アルバム3枚が、初出年を遡るように曲順通り全曲プレイされることとなる。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

「HANDAN'S PILLOW」におけるオーディエンスとの大合唱を経て、「CAUSATION」ではTOSHI-LOWが勢いのままにマイクスタンドを折り曲げた。眼前の光景の凄さに思わず笑ってしまうという経験は誰しもあると思うのだが、今更ながら、「マイクスタンドってあんなにサクッと折れ曲がるの?」と笑ってしまったが、それ以外には笑いどころはおろか一点の曇もない。全ての曲が全集中のテンションでプレイされていく。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

こうして『ANTINOMY』のラストナンバー「KAMUY-PIRMA」までを披露し終えると、最後のSEを挟んで2004年リリースのアルバム『THE MIDDLE WAY』の1曲目「THE VOID」へ。次は2曲目の「LOSE ALL」か?と思うと、次曲は何と2001年発表のアルバム『A FORLORN HOPE』収録の「BASIS」が。ここから一転、『THE MIDDLE WAY』『A FORLORN HOPE』、1998年リリースの『A MAN OF THE WORLD』の収録曲をランダムに混ぜた35曲がノンストップでプレイしていくという怒濤の折り返しに突入。言うまでもないかもしれないが、バンドのテンションも、出音の出力も全く落ちていない。むしろ右肩上がりでさえある。オーディエンスは終始彼らの演奏に熱狂し、酔いしれ、喰らいつき、やはりアリーナではひたすらモッシュとダイブが繰り返されている。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

「GOIN' DOWN」ではオーディエンスのジャンプで会場が揺れ、「DEEP」ではアリーナに大漁旗2旗が登場。「時の鐘」、「FROM MY WINDOW」「FAR FROM...」と、深淵かつ重厚なアンサンブルでオーディエンスを魅了していく。この日のTOSHI-LOWによるMCらしいMCは、前述の冒頭の語りかけのみ。あとは4人で全身全霊をかけてひたすら楽曲をプレイしていくのみというストロングスタイルのライブだ。無論、オーディエンスにとってはそのアルバムや曲ごとに思い入れがあるだろうしBRAHMANの4人にとっても同様だろう。しかし、バンドの演奏にノスタルジックな要素は欠片もない。ただただ、全ての曲が明確なディテールと緊張感によって歌い奏でられ、現在進行系の“今ここにある曲”として鳴らされていく。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

「ANSWER FOR…」「ARRIVAL TIME」「FOR ONE'S LIFE」と続き、場内のカオスな興奮状態もピークを迎える。ここで、「TONGFARR」。TOSHI-LOW「ラスト!」とバンドも観客も称えるように腕を広げ、「生きてるか?」とオーディエンスを労う。そこからRONZIがそのままドラムを叩いてまさかの「FLYING SAUCER」へ。TOSHI-LOWも驚き、笑顔を見せる。ここからはセットリストの範疇外、まさに未知の領域に。オーディエンスの歓喜も最高潮だ。さらに「BEYOND THE MOUNTAIN」「ARTMAN」とアルバム外の初期楽曲3曲を続けざまに演奏すると、TOSHI-LOWがマイクを床に投げつけ、KOHKIとMAKOTOも楽器を放り出し、4人は全てを出し切ったといった様子で、颯爽と、清々しくステージを去っていった。

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

一切の中弛み無き、尋常ならざる熱量の約4時間全75曲。とかくSNS上ではリスナーたちの愛情からTOSHI-LOWの“体力オバケ”な一面がネタっぽくフィーチャーしたようなポストを目にもするが、フィジカル的な体力もさることながら、やはり称賛されるべきは4人全員の集中力と精神力だろう。そこがずば抜けているからこそ、あの密度と熱量だったのだと思う。

正直に書くと、筆者は比較的近年にBRAHMANのライブを観始め、インタビューの場でTOSHI-LOWと数度の会話を交わしたことがあるだけの一リスナーに過ぎない。しかし、そんな自分でさえ、このライブが間違いなくBRAHMANのヒストリーにおいて非常に重要なアクトであり、日本のロック史に残るパフォーマンスだったことは十二分に理解することができた。それぐらい明快に壮絶で、破格なライブだった。

時に心を閉ざし葛藤した時期をも経て、人間の喜怒哀楽を、痛みを、現在を、希望を音楽で体現し、アルバム毎に新しい扉を開けてきたBRAHMAN。あくまで推察でしかないが、今回の『六梵全書 Six full albums of all songs』は、「いまこれをやっておくべきなんだ」という、BRAHMANがBRAHMANであるからこその業(ごう)と、おそらくは30周年の新たな扉=次作についてのポジティブなビジョンが背景にあったからこそ実現し、完遂させることができたライブだったのではないだろうか。ニューアルバム『viraha』の2枚組DVD付きの完全生産限定盤には、この日のライブのドキュメンタリーが収録される予定だ。2025年、最大限の期待を込めて、30年目のBRAHMANの勇姿を目撃したい。

取材・文=内田正樹 写真=オフィシャル提供/撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

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