「その人のオリジナルな解釈でいい」井田さんが教える、バレエの楽しみ方
個性豊かな様々なゲストをお迎えして、幼少期のターニングポイントや、やる気スイッチの入った瞬間を深掘りしていきます。
メインパーソナリティの佐藤隆太さんと佐々木舞音アナウンサーの2人でお送りします。
3月10日(月)放送のゲストには、先週に引き続き指揮者の井田勝大さんが登場!
指揮者としてのオーケストラとの向き合い方など、リアルなところを聞いちゃいました!
佐藤:今週も我々の質問攻めになってしまうかもしれませんが…
井田:いえいえ!たくさん聞いてください!(笑)
「結構、根に持つタイプなんです」本番に向けて行う、井田さんのルーティンとは
佐々木:実際に井田さんが公演に向けて行っている準備とかって教えていただけますか?
佐藤:ルーティン的な。
井田:楽譜を勉強するところから覚えていくんですけど、例えば3分の曲を覚えるために10倍かかるんですよ。3分の曲を覚えるには30分かかるんです。バレエとかオペラの曲って、1時間くらいなんです。なので必ず10時間くらい用意して、そこにむけて勉強すると決めてるんです。それでスケジューリングして色んな事考えながら現場に向かっていくという。
佐藤:勉強というのはまずはどういうところから始められるんですか?
井田:全体像を知ることからですね。音楽の形式には色んなものがあるので、A→A→B→サビなのか、A→B→サビとか構成を知って。それでこの曲の一番面白いところがサビなのかつかみなのかを知って、細かく検証していくんです。そこが時間がかかる。
佐藤:検証していくと。
井田:その中で自分のやりたいことを決めて、オーケストラの皆さんに納得していただいて「井田の音を出してみたい」と思わせる根拠を持たないといけないんです。
佐藤:指揮者の方って、個性というか、同じ曲だとしても、どれくらいその色を出していいものなんですか?
井田:同じ音の強さでも、暴力的な強さなのか、押し出すような強さなのか、それで全然変わるんですよ。それって、同じ「強く」の表現の範疇なんですよ。楽譜通りにやってるんだけれども、そのニュアンスって人それぞれだから。色んな指揮者の演奏を観て思いますね。
佐々木:何度も同じ曲を振ることもあるとも思うんですけど、毎勉強はするんですか?
井田:勉強は、2回目以降は時間は短くなりますけど、スコアは必ず見ます。「前回こんなことあったな」とか思い出して、意外と僕、根に持つタイプなんですよ。
佐藤:根に持つタイプ!?
井田:ここグチャッとしちゃったな~とか、ポイントをそれぞれじっくり練習してみたりとか。説明の仕方を変えてみてりとか。いろんな計画をしていきますね。
佐藤:そういう技量も必要ですよね~。普段オーケストラの皆さんとのコミュニケーションとることも多いんですか?
井田:全くほとんど「初めまして」の人もいますし、「どんな人なんだろうこの人…」って目線を感じることもありますし、効率よくリハーサルして、「ちゃんと準備してきたんだな」って思ってもらえるように、まんべんなくやるって言う事が大事ですよね。演奏家がポジティブになることが一番いい音が出ますからね、お互い信用して演奏していくことが、指揮者の大事なことなのかなと思います。
佐藤:ひやひやしちゃうな~!相当、すごい気を張ってやられてそうだな~!
井田:もう慣れちゃったので。(笑)なんか指揮者って、いろんな方向に行きがちで。喋り方が特徴的な人とか多くて、色んな人がいて面白いですよ。
観客の拍手だけではない!達成感を感じる瞬間は、井田さんの根幹にある「想い」に関係することだった
佐々木:小澤征爾さんのアシスタントも務められていたんですよね?どんな指揮者でしたか?
井田:もうほんとにフレンドリーで、いろんな話をしてご飯も一緒に食べて、演奏家みんなと話して、家族みんなでやってるみたいなリハーサルで。もちろん締めるところはみんな小澤さんについていって、それだけみんな小澤さんに惹かれていたし、普段楽しくリハーサルをする雰囲気なんだけど、「この音が欲しい!」っていうときには小澤さんが鬼の形相になってオーケストラが集中してっていう。ほんとに小澤ワールドってこういう事なんだと思ったし、人間力が音楽に現れるんだって一番最初に思ったのは小澤さんがきっかけだったと思いましたね。
佐々木:演奏って、勝ち負けじゃないじゃないですか。数字として表れないから、どういうときに実感を持つんですか?
井田:やっぱり、終わった後のお客さんの反応だったり、オーケストラの反応だったりこれね、「今日、いい本番だったな」って思ったら自然とオーケストラが拍手するんですよ。でもちょっと上手くいかなかったときはみんな下向いて考えちゃったりしてるんです。指揮者としては上手くいったと思っても、オーケストラの反応がいまいちだったときは次の日に向けて色々調整したり、それでだんだん上手くなっていって最終日にみんな笑顔で終われたりすると、良かったと思いますよね。「自分でやり切った」というのと「みんなでやり切った」というのは意味が違うので、なるべく自己満にならないように様子を見るようにしますね。
佐々木:「みんなでやる」、井田さんの根幹にあるものですよね!
井田:そうですね!そこが一番大事だと僕は思ってます。
佐々木:そんな井田さんが音楽監督を務める「K-BALLET TOKYO Spring Tour 2025 『白鳥の湖』」が東京文化会館を皮切りに5月10日から上演予定です!初心者でも楽しめるようなアドバイスってありますか?
井田:バレエって言葉がないじゃないですか。これがね、自由に解釈してもらえればいいし、そこで見えてきたことっていうのは、その人だけのオリジナルで。逆にオペラのほうが歌詞があって、字幕が出て、縛られることが多いんですよ。だから内容を知ってないと、没入できない。逆にバレエは言葉自体がないので、主役の話すことっていうのはその人の世界で解釈してくれたらいいっていうか。
佐藤:なるほど、そういう見方もあるわけか。
井田:だから、なにも用意してこなくていいです!肩肘張らずに来てくれたらいいかもしれないですね。ここで何が起こったんだろう!っていう想像力をね、ぜひ。こういう機会ってなかなかないですからね~。
佐藤:観る側としても、毎回見るたびに感じ方が変わってきて面白いですよね!
(TBSラジオ『やる気スイッチラヂオ アストルム』より抜粋)