【頂ファイナル】奇跡と感動に満ちたラストステージ!静岡県の吉田公園に集った音楽ファンに届けられたメッセージとは?2日間の興奮をリポート!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「頂ファイナル」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年6月5日放送)
(山田)今日は全国的にも有名な野外音楽フェスティバル「頂(いただき)」の話題ですね。先日ファイナルと銘打って終わったわけですが。
(橋爪)6月1、2の両日、静岡県吉田町の県営吉田公園で行われました。「最高の音楽を最高のシチュエーションで」とのコンセプトで2008年に始まった同フェスは今回で幕を閉じました。 歴史と社会への影響については、3月にこのコーナーでお話したので省いて、今日は頂のファイナルで見た名場面を三つ、ご報告したいと思います。
全部で25組出たんですが、このうちの20組を見ました。その中で…名場面その1。「13年前の感動再び」!
(山田)いや、それだけ言われてもわからないです。
「13年前の感動再び」。復活劇語るGOMAさんに会場が涙!
(橋爪)なんか、リアクションしてほしいと思いまして(笑)。もう一度行きます。「13年前の感動再び」!
(山田)ジャジャ〜ン!
(橋爪)初日の午後4時半からGOMA&The Jungle Rhythm Sectionが出演しました。オーストラリア先住民の木管楽器「ディジュリドゥ」の奏者GOMAさんと3人の打楽器奏者からなるバンドなんですが、凄まじいテンションの演奏でした。
ここからちょっと時間が後戻りしますよ。GOMAさんは、2008年の頂の初開催からほぼ毎年出演しています。
(山田)そうですね。
(橋爪)ご存知でしょ。
(山田)もちろん。
(橋爪)このフェスの「顔」の1人なんです。
(山田)そうですよね。GOMAさん、いろいろありましたから。
(橋爪)その「いろいろ」を今からお話しようと思います。GOMAさんは頂の歴史の中で1年だけ出演していません。それが2010年なんですが、実は2009年11月に交通事故にあって、外傷性脳損傷と診断されていたんです。記憶の一部をなくして、新しい記憶も少しずつ失われていくという難しい症状だったんです。
(山田)そうなんですよね。
(橋爪)そんな状態から少しずつ回復して行く中で、事故後、初めてフェスで演奏する機会となったのが13年前の2011年6月の「頂」でした。この時、私も生で見ていたんですけど、初日、2日目ともに出演しました。
特に2日目は事前発表されていなかったバンド形式で出ました。ただ、ご本人はまだ記憶障害が残っていたので、ほぼ本能でディジュリドゥを吹いていたような状態でした。
(山田)過去にも頂に出ていたこともそれほど覚えていなかったんですね。
(橋爪)スタッフの顔も全然覚えていなかったそうです。それを象徴するかのように、後から映像で見ると、譜面台に「今、静岡でLIVE中」と記されていました。
(山田)自分が何してるか忘れないように。
(橋爪)そうなんです。過去の記憶が残らないからふとした瞬間に自分が何をしているか分からなくなってしまう状態だったんです。後にGOMAさんへのインタビューで当時のことを聞いてみると、「このときは体が反応するままにやれる曲をやるしかなかった」と話しています。だから、いわゆるセットリストもなかったそうです。
(山田)そうなんですね。
(橋爪)「吹いた曲に他の3人のメンバーが合わせてくれた」と言っています。
(山田)へえー。伝説のライブですね。
(橋爪)本当に伝説のライブです。そんな過去があったということを踏まえて時間を現在に戻します。
今回の頂ファイナルのステージでは、GOMAさんは「ここは2回目の音楽人生が始まった場所」とMCで語って号泣したんです。2011年のことも話して、「ちゃんと演奏できるか分からない僕のために、貴重なフェスの時間を割いてくれた」と感謝の言葉を述べて、本当に感極まっていました。
頂のお客さんはGOMAさんのこの復活劇を知っている人が多いから、みんな泣いていましたね。本当に感動的でした。ここで演奏していること自体が奇跡に思えたのだと思います。
(山田)僕は頂フェスでGOMAさんのことを知りました。
(橋爪)そういう方は多いと思います。
(山田)ディジュリドゥという楽器も、そのプロ奏者がいることも頂で知りました。
「天気とシンクロ」。雨と日差し、虹が生んだ奇跡の”演出”
(橋爪)では、名場面その2。「天気とシンクロ」!
(山田)シュンドゥーン!
(橋爪)2日目の話をします。この日は当初の予報では午前中から雨模様でしたが、蓋を開けてみたら、午後にぱらぱらっと降ったぐらいでした。その中で、午後2時半からHOME GROWNがバックを務めるスペシャルレゲエセッションがあったんです。ボーカリストが次々登場し3〜4曲ずつ歌うスタイルでした。
始まったころには小雨がぱらついていました。4人目のボーカリストとして出てきたのが焼津市が世界に誇るラスタマン、PAPA U-Geeさん。「POSITIVE VIBERATION」という曲を歌い始めました。「明るい未来の光の方に」という歌詞があるんですが、そこにさしかかったら、なんと雨がやみました!雲間から強い日差しが降り注いだんです。こんなことあるのかと。さっきまでの曇り空が嘘のように。太陽を呼ぶ男、PAPA UーGeeですよ。
(山田)フェスマジックがあったわけですね。
(橋爪)次に出てきたのはPUSHIMさんでした。そうしたら、雨。古来から雨乞いには女性の力が活用されてきたとされていますが、本当に巫女さんのようでした。
(山田)会場の雰囲気はどうだったんですか。
(橋爪)まったく雨とか気にしてないですよね。演奏をひたすら楽しむという感じです。PUSHIMさんはステージを去るときに「この後やむよ」と宣言したんです。そうしたら…、雨がやみました。
(山田)フェスには何かありますよね、そういうマジックというかパワーみたいなものがね。
(橋爪)次は大橋トリオだったんですが、PUSHIMさんが言ったとおり、始まった途端に雨が弱まって。晴れ間が広がりました。びっくりしたのは1曲目の「Emerald」を歌っている時でした。「七つの音(ね)響かせて 虹の橋渡り行く」という歌詞があるんですけど、この曲の途中で本当に吉田公園に虹がかかったんです!
(山田)やばい。
(橋爪)やばいでしょ。大橋さんはMCで「本当に虹がかかってるよ。死ぬかと思いました」と言っていました。
(山田)なんでー。
(橋爪)奇跡が起こったので。実際にかなり大きな虹が海側にかかりましたから。歌詞とシンクロするという。偶然ですが、これはすごい演出ですよ。
(山田)ミュージシャンもしびれながら演奏していたと。
(橋爪)しびれながらやっていたと思います。真正面に虹を見据えながら、虹の歌を歌うという。
(山田)いいですね。
「驚きの選曲」。フェスは最後でも紡いだ「想い」は終わらない!
(橋爪)そして名場面その3!
(山田)ダダン!
(橋爪)いい感じですね(笑)。「驚きの選曲」!。2日目の午後5時55分。夕方の日暮れ前に、最後のバンドとしてフィッシュマンズが登場しました。2023年も出演することがアナウンスされていたんですが、頂は台風の影響で直前に中止になってしまったので2年越し。今回は待望の初出演といってもいいでしょう。
ドラマーの茂木欣一さんが演奏を始める前にMCで「1曲入魂で行きます」と言うんですね。どう受け取りますか?
こちらは30年前からのフィッシュマンズのファンですよ。名曲の数々を気合い入れて演奏するんだろうな、と思うじゃないですか。
(山田)なるほど。
(橋爪)そうしたら…演奏は本当に1曲だけ!
(山田)本当に?
(橋爪)なんと割り当てられている45分のステージを「LONG SEASON」という曲、1曲だけで完結させてしまったんですよ。
(山田)それはそれでスペシャルじゃないですか。
(橋爪)そうなんですよね。フェスでこれをやるのは相当勇気がいると思いますよ。
(山田)そうですね。
(橋爪)私はこれまでいくつもフェスに行っていますけれど、1曲しかやらないバンドって見たことがありません。
(山田)45分音が鳴り止まないと?
(橋爪)ほぼほぼ鳴り止まなかったです。元々この曲は1996年にリリースされています。1999年に急逝したこのバンドのメインソングライターでボーカリストの佐藤伸治さんが作詞作曲した珠玉の名曲。ゆったりとしたビートで3つのコードをループさせる曲で、音源としてリリースされている楽曲は35分16秒あります。
(山田)元々長いんですね。
(橋爪)でもさらに長く演奏したという。しかも、ただ長くしただけでなく、みんなが知っている音源のバージョンを解体し、音の新要素を差し挟み、ディジリドゥ奏者のGOMAさんをゲストに迎え、2024年バージョンとして聴かせました。
(山田)へぇー。会場の反応はどうだったんですか。
(橋爪)ちょっと困惑してましたけど(笑)。でもフィッシュマンズ好きな人は、彼らの心意気を確実に受け取ってたと思います。
フェスはみんなが知っている曲やヒット曲を演奏した方がわかりやすくて良いという考え方があります。これはこれで一つの大事な考え方だと思います。
ただ、彼らはおそらく「フェスだからといってショーケースで終わらせない」という思いがあったのでしょう。それともう一つ、ボーカリストが亡くなっても「このバンドは、この曲は今も生きている」ということを会場にいる人たちに伝えたかったのではないかと。めちゃくちゃ感動しました。
(山田)しかも頂ファイナルでそれをやるという。
(橋爪)そうなんです。象徴的なんです。「終わらないんだ」ということをキーワードとして投げかけられたような気がします。
(山田)なるほど。頂フェスは終わるかもしれないけど、俺たちが作ってきたこの空間は終わらないよ、と。
(橋爪)フィッシュマンズというバンドはメンバーもだいぶ変わったけど、フィッシュマンズはフィッシュマンズであるということと重なりますよね。頂というタイトルは変わるかもしれないけど、頂的なものはこれからも続けてほしいというような意志も感じました。
(山田)ですよね。
受け継がれる遺伝子。「次」の誕生に期待
(橋爪)終わってしまうのが本当に残念なんですよね。今から来年の6月は何を楽しみにしたらいいのだろうかと思うぐらいです。
(山田)本当に終わっちゃうんですか。
(橋爪)今回、ファイナルと銘打ったので終わるのだと思います。ただ、このフェスは「ローカルフェス」のお手本となって、各地に種をまきました。今後は頂の遺伝子を継いだ人たちが各地で、それぞれの色を打ち出したフェスを開催してくれるのではないでしょうか。それを期待したいですね。
(山田)そうですね。最初は静岡市の日本平ホテルの広場から始まり、バイオ燃料やエコにも先駆けて力入れてきましたからね。ついにファイナルになってしまいましたが、この遺伝子みたいなものはね。
(橋爪)確実に受け継がれています。
(山田)それを受け継いで新しいフェスが誕生するのを楽しみに待ちましょう。今日の勉強はこれでおしまい!