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いま振り返る在任1年と現政権の動き

TBSラジオ

昨年10月からおよそ1年間、内閣総理大臣を務めた石破茂氏の退任から1ヶ月。物価高対策、選択的夫婦別姓、戦後80年談話など在任中の取り組みと残された課題、そして退任後に急浮上した「議員定数削減」の議論や高市総理の「台湾有事」をめぐる発言など、石破前総理に在任1年と現政権の動きついて聞きました。

在任1年の総括「集大成が戦後80年所感」

――総理を務めたこの1年間をどのように振り返り、何ができて何ができなかったと総括されていますか?

1年で全部できれば誰も苦労しません。まして少数与党でもありました。しかし、できたこともあります。例えば防災庁はまだできていませんが、その設立の流れはもう止まらないでしょう。関税交渉は、赤沢さん(経済再生相)をはじめ、みんなよくやってくれた。多くの国の中で一番いい条件で交渉できたんじゃないですかね。

それから、後戻りしそうで怖いですが、米の増産にかじを切ったのは大きかったと思っています。(大阪・関西)万博も、私が総理になった時は「絶対失敗するぜ」「赤字どうするんだ」「誰が責任取るんだ」という話でしたが、終わってみればみんなの努力で、お客様のおかげで大成功と言っていいでしょう。最低賃金の引き上げや地方創生もそうです。

結局、1年間、それぞれの大臣、それぞれの官庁、地方の方々と共に、もちろん私の能力不足はあるが、これ以上のことはできなかったよねという思いはあります。その集大成が(戦後)80年所感ということかな。

高市総理の「働いて、働いて…」発言への受け止め

――発足当初から株価が大きく変動する一方で、最低賃金の引き上げに尽力されました。日本経済にとって石破政権とはどうだったと振り返りますか?

日本経済のピークは1994年だったと思っています。GDPで18%を占めていましたが、今は4%を切ってしまっている。ドルベースで換算すると30%マイナスです。これはコストカット型の経済で、賃金が上がらず、関連会社に十分にお金が払われず、設備投資もできないからです。これではGDPが上がるはずはありません。

やはり、きちんと賃金が上がり、関連会社にお金を払い、投資にお金を使う、そういう付加価値創造型の経済に変えないと、一時期うまくいっても経済そのものは強くならない。それは華やかではないし、バーンと株価が上がったりはしません。だけども、そういう着実なものをやっていかないと、日本経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は変わらない。それは着実にやれたと思っています。

――賃上げが実質賃金に追いついていくか、今が要のタイミングです。賃上げ上昇の流れを作るために、石破政権はどのような役割を果たしたとお考えですか?

2010年代だけ見ると、企業の売上は7%上がりましたが、配当や経営者の報酬は2倍以上になっているのに、賃金は3%しか上がっていません。企業は経営者と株主だけのものじゃない。そこに働く労働者、家族、地域のためのものであり、労働分配率を上げていくことは大事なことだったと思います。

ただ、防御的賃上げしかできない企業さんもたくさんあるので、そういうところにどう手当てを行うかを組み合わせる必要がありました。最低賃金の近く(の賃金)で暮らす人が700万人もいるというのはおかしいでしょう。そういう人たちは結婚に踏み切れない方も多く、お子さんもできないということが起こる。これを放置していいのかと問いたかった。最低賃金をあれだけ引き上げ、もちろん実質賃金の上昇と物価上昇の時間的ズレがあるが、着実に上がっていくことは不可逆的になったと思っています。

――高市総理は、労働規制の緩和の方向に指示を出しました。新政権のスタートをどう見ていますか?

馬車馬のように働いて、働いて、働いて、働いて、働きまくるんだと総理が決意を述べる。それはそれでいいことなのでしょう。しかし、過労死が問題になったのはついこの間の話だったじゃないですか。いわゆるブラック企業のように労働者の人権を無視するようなことが復活するということがあっちゃいけない。

また、ワークライフバランスというのは美辞麗句を言ってるわけじゃなく、きちんと確保しないと、女性の負担が過度なものになってしまう。男性の育児参加は大事なことで、ワークライフバランスを無視するようなことがあると、この少子化の構造、婚姻率が低いという構造は変わりません。最低賃金の問題も、ワークライフバランスの問題も、一体のものとして我々は進めてきました。総理の心意気と、国民全体の暮らしのあり方は、必ずしも一致するものではないと思います。

参政党「侮るべからずだと思っています」

――石破政権下で衆参の選挙があり、少数与党となりました。選挙の総括はどのようにされていますか?

保守だけれども、よりエッジの効いた政策を訴える、例えば参政党さんのような、今までであれば自民党を支持していた人が、カギカッコつきで「保守的な」ところへいきますよね。自民党に飽き足らない人たちが。そうするとそれだけ自民党の議席は減っていきます。

今までも保守色を強く出した政党というのはあったわけですよね。「たちあがれ日本」とか「次世代の党」とかね。ただ、参政党さんのやり方はちょっと違いますよね。

参政党のやり方は、地方議員を確保し、首長選挙に影響力を持って勢力を拡大していくというもので、かつての自民党のやり方に似ている。それにSNSを駆使するのが乗っかっている。これは侮るべからずだと思っています。

――なぜ自民党は保守のなかでもエクストリームな層(極右)を手放すということになったとお考えですか?

どうでしょう。「保守」と言われるものに偏った時に、「リベラルな」と仮にいうとすれば、そういう層は自民党から離れていくのではないでしょうか。自民党は本当に中道を目指すべきであって、右に偏っても左に偏ってもいけない。

ただ、そういう中道的な政策はなかなかエッジが効かないので、かなり先鋭的な考え方をする政党にある程度は行ってしまう。これはなかなか止めにくいところはあります。「もっと自民党が保守に偏ればいいんだ」という意見もありますが、それが国家のあり方として正しいのかという検証は別途やらないといけません。

自民党派閥の裏金事件「国民が得心するに至っていない」

――選挙で厳しい声が出た要因の一つに「政治とカネ」の問題があります。まず、裏金・不記載問題への対応について、石破政権時代をどう振り返りますか?

不記載だったものをきちんと記載し、収支報告書を訂正するということを、関わった議員たちはみんなやりました。修正もしたし、選挙の洗礼も受けた。不記載が実際にミスだったのか、故意に基づくものだったのかはそれぞれの事情が違うでしょうが、それを明らかにした上で選挙の洗礼を受け、主権者たる国民から議席を頂いたということは、評価されてしかるべきだと思っています。

ただ、なぜ不記載に至ったのか、一体誰が指示をしたんだということに、まだ得心がいっていない国民の方々がおられるのでしょう。司法がきちんと判断を示しているので、我々としてそれ以上のことができるかというと、本当に粘り強く丁寧に国民の皆様にご説明していくことに尽きるのではないでしょうか。

――自民党でしか説明できない部分、例えば旧安倍派の中で還流の仕組みがいつ始まり、誰の指示だったのかという点が宙吊りのまま、個々の議員の選挙の当落という話に矮小化された印象もあります。

国民が得心するに至っていないということです。「誰の指示だったの」ということが未だによく分からない。ただ、そこで「私が指示しました」という人が出てこないのですから。自民党としても可能な限りの調査はしましたが、強制的な捜査権限を持っているわけではありません。

(裏金問題に)関わった方々が公認されない。私も無所属で2回選挙をやったことがあるけど、公認されないって本当にものすごくつらいですよ。そのなかでも、有権者の支持を得てきたということは、一つの評価だと思ってきました。ただ、有権者の方々が得心しておられないということは率直に認めなければいけません。

――各議員や各地方に調査やアンケートへの協力を求めるなど、協力性を担保することは可能だったのではないでしょうか?

そこもできる限りやったつもりですが、「つもり」じゃしょうがない。「全然納得していない」という方が多いので、じゃあどうしますかね、ということはあったと思います。もっとやるべきことはあったのかもしれません。

官房機密費「公開は国益にかなうとも限らない」

――官房機密費について、総理になられてみて、どういった役割を果たし、どういった実態だったのか、語れる範囲でいかがでしょうか?

表に出せない色々なものってあるんですよね。海外の情報とか。それを明らかにしたら、もう二度とそういうことはできなくなります。その使い方は、情報収集やコミュニケーションの作り方であって、明らかにできないから「機密費」なのです。使い方はある程度許容されてしかるべきものだと思います。

――機密費はいずれ公開されるべきだ、検証できる仕組みが欲しいという声についてはどうお考えですか?

何年か経つと明らかになるとなれば、その国との関係はずっと続くわけですから、本当に国益にかなうかというと、必ずしもそうでもないのではないでしょうか。

(国会対策については)言えることと言えないことがあります。世の中はきれいごとだけで動いているわけじゃないですから。ただ、そのお金によって政治の公正性が歪められることがないように、常に使い方には気をつけてきました。

米の増産「消費量を増やす方法はもっとあるはず」

――米の増産について「後戻りしそう」というお話がありました。新しい鈴木農水大臣が増産に後ろ向きな発言をするなど、石破内閣の方針を変えようという動きが出ています。政府の対応をどうみていますか?

米に限らず、穀物という商品は、多少の需給の変動で価格がものすごく乱高下するという特性を持っています。それは保存がきかないっていうことがあるんだけれども。「令和の米騒動」という人もいたが、今年なぜ価格が4000円以上になったのかを考えた時に、供給がギリギリでやっていることが底流にあるはずです。

世界ではどの国も農地を増やし、農業生産を増やしているのに、日本だけが耕作放棄地が増え、農業従事者が減っていく。日本だけがそういう政策をとり、カロリーベースの自給率が38%というのを、かなり異様だと思わない方がおかしいのではないでしょうか。

「作り過ぎたら価格が落ちるじゃないか」という反論は必ず出ますが、パリやニューヨークではおにぎり屋さんが長蛇の列です。プロダクトアウトではなく、マーケットインの形で米の需要ってもっとあるでしょう。国内でも、グルテンフリーのラーメンやパンなど、お米の消費量を増やす方法はもっとあるはずです。ご飯をもう一杯おかわりしましょうって話じゃなくて。

クマがたくさん出るようになったのは、あちこち耕作放棄地が増えたからだからね。だから、水源涵養とか、中山間地の保全やコストダウンなど、国の利益に資する形でお米を作った人が、価格が下がったことで継続できなくならないようにするのは、また別の政策です。それを直接所得補償っていう形にひとくくりにするから変なことになるんであって、どういう努力をした人に対して税金を使って所得を維持するのか、そういう細かい政策の集大成が農政なんです。

同性婚「ひとりひとりの権利の実現のために政府は努力すべき」

――選択的夫婦別姓の実現に向けて、自民党のなかで何が一番大きな障害になっているのでしょうか?(リスナーからの質問)

「絶対ダメ」という人がいるからです。「選択的であろうと何であろうと、夫婦別姓にすると家族が壊れる、家庭が壊れる」と。本当にそうですかね、というところはあるのですが、絶対そうだと言われちゃうと、話がそこから先に進まない。「選択的じゃないですか」と言っても「それはダメ」という方が一定数いらっしゃいました。

「親と子の名前が違うと郵便配達の人が困るのでは」という意見もありますが、外国ではちゃんと届いていますよね。とにかく「絶対ダメ」という理屈を展開される方が大勢いらっしゃって、党議拘束を外すかという議論もありましたが、自由民主党の一体性を保つために努力しようということで、結局まとまらなかったということです。

――同性婚についてはいかがですか? 来年にも最高裁で判断がなされそうです。

これは(同性婚に対して)好きとか嫌いとかいう話ではなく、私も当事者の方とある程度お話しさせていただいて、「それでないと自分は生きていけないんだ」というのはその人の権利なのでしょう。

「いや、自分はそういうの苦手だよね」っていう話とは別で、男性と男性が、女性と女性が、その人を配偶者として生きていかなければいけないという状況。あるいは、相続の問題など法的な問題と、その人の権利というものを両方勘案した時に、私は、好き嫌いの問題は別として、冷静に考えたときにひとりひとりの権利の実現のために政府は努力すべきじゃないかなと思っています。しかし、これまた「絶対ダメだ」という方は一定数いらっしゃいました。

――また議会でも、性的マイノリティへの理解増進や権利の拡充に対して、参政党のようにより批判的な議席も増えてますね。

一定数そういう方がいらっしゃるわけですから、そこにフォーカスして政策を訴えれば、そういう支持は得られるわけです。だけど、じゃあそういうことで全て決めていいですかと。

それによって個人の人権というものが妨げられてる人たちはどうするんですかという話も合わせてしないと、バランスは取れないでしょう。人権を単に多数決で決めていいのかと思いますね。

「納税者の代表が減っていくことはそんなに素晴らしいことですか」

――議員定数削減については? 地方創生の面から考えると、人口減の激しい地方の声がますます届きづらくなる問題をはらんでいると思います。(リスナーからの質問)

定数全体の問題、そして仮に減らすことを是とすれば、「比例区だけ減らす」という問題と、2つの議論があります。

定数を減らすべきだという話は、突き詰めると「少なければ少ないほどいい」という話になりそうです。「身を切る改革」として。しかし、主権者たる国民の代表、納税者の代表が減っていくことは、そんなに素晴らしいことですか、ということだと思います。

だからそれぞれの議員が、主権者や納税者の利益を反映して議会で議論をしているか。ちゃんと議論をしていれば、納税者の代表が少なければ少ないほどいいっていうのは議論としてなんか変だなと私は思っています。日本の国会議員の数は諸外国に比べて決して多くありません。問題は、それぞれの議員が納税者の代表としてどれだけ活動しているか、ということがもっと分かるようにすることです。

小選挙区制を導入する際に比例代表を併用させたのは、小選挙区で49対51(という接戦で)勝ったならば、49の負けた方の意見をどうするのか、ということがあったからです。これも議論がありますが、復活当選という形で議席が得られることもある。政党が議席をとったら、小選挙区の得票は少なくても当選するということになる。少数意見の反映ということで比例代表を並立させたんだけど、そのやり方でなければ少数意見は反映できませんでしたか、と。

小選挙区に変えたのはもう30年くらい前のことになっていて、当時のことを覚えてない人がいっぱいいます。「中選挙区制に戻すんだ」っていう人もいるけれど、あの中選挙区の血の雨が降るような選挙が本当に良かったですかということになるわけで。今の小選挙区の問題点はずいぶん指摘されているが、じゃあ元の中選挙区に戻しますかっていうことにはならない。中選挙区で複数人自民党が出馬するとなると、自民党同士がめちゃくちゃ仲が悪くなる。地域が分断される。もう一回あれをやりたいですか、ということです。

石破氏の画像用いたAI画像「見ていた」

――総理の時、SNSはご覧になっていましたか? 石破さんをAIで「いじる」ような動画が流布していました。

見ますよ。「へぇ、ほぉ」みたいなのがあります。私が何かに化けて歌っていたり、トランプさんやプーチンさんと一緒に歌っていたり。なかなかいろんなものがあるなと思いますが、これって使い方によっては怖いよね、と思いながら見ていました。

――AIに対するルール作りには、どういった課題を感じましたか?

AIが選挙に影響を与えているのは間違いない事実です。それが外国勢力であろうがなかろうがです。不正確な情報によって有権者の判断が変わることは、民主主義の根幹に関わることです。有権者に提供される情報は可能な限り正確でなければいけないという、当たり前のところに戻って考えなければならない。

また、AIを使って情報を流布し、労力をかけずに情報戦で戦争に勝つ、ということも可能になっていく。新しい戦い方にこれが用いられないような国際的なルールが必要です。

もう一つは、手塚治虫先生が『鉄腕アトム』のなかで昭和20年代に提唱した「ロボット法」のような、AIがいかなる役割を果たすか、どうAIを開発し、どう使うかという法的に未整備な部分がものすごくある。基本法も含めてAI社会のあり方を考える法整備はものすごく急ぐべきだと私は思っています。

「保守はイデオロギーではない。保守の本質は寛容」

――参院選中に社会に排外主義的な主張が広がったことについて、どう感じていますか?(リスナーからの質問)

排外主義になっていくということは、寛容性が失われているということだと思います。「対立と分断」よりも「協調と寛容」って、選挙のスローガンみたいだけど、世界中「対立と分断」になってしまっている。

保守の本質は寛容だと思っているんですよ。他者の意見に謙虚に耳を傾けないと、それを保守とは言わない。保守ってイデオロギーじゃないんで。保守って一種の感覚だからね。

自分と違う他者や他国を排除して優越感に浸る社会に、寛容性も発展性もないのではないでしょうか。私はそういうのは全く受け入れられません。

――戦後80年の所感は、談話にすることは難しかったのでしょうか?

戦後50年の村山談話、60年の小泉談話、70年の安倍談話は、それぞれ閣議決定を経ています。今回はかなり早い時点から「もういらない」「70年談話で済んでいる」「これ以上何を上書きするんだ」という意見がありました。出すこと自体がけしからん、と。

談話にすると閣議決定が必要で、全ての閣僚と与党の了解がいる。そうなると、各段階で「これはダメだ」「あれはダメだ」という話になるだろうと。形式とか時期ではなくて、中身なんだろうなと私は思いました。「なんで閣議決定を経なかった」ということになるんだけれど、参院選もあり、その後の政治の流れを見ていくと、そのことに議論が収斂していくのはあまり生産的ではないと思ったので、所感という形にしました。

続投していたら公明党の政権離脱は防げたか?

――高市氏が総裁になった際に、公明党が高市氏に「外国人政策」について注文をつけるという場面がありました。石破さんが続投していたらそうしたことはなかったと思いますか?

少なくとも、「寛容と協調」といったことはもっと言ったと思いますね。もちろん犯罪を犯す、日本のルールを守らないなどは決していいことではないんですが、外国人の方が日本に来るときに、かなり難解な日本語をどうやって理解をしてもらうか、あるいは宗教観が違うなかで社会における同調性は難しいところがある。

台湾や韓国の給料が高いなかで、日本を選んでもらおうと思ったら、日本語や日本の文化を日本の負担において会得してもらうってことも私は必要なことだったと思ってますし、これから先もそうだと思います。

――公明党が連立政権を離脱しましたが、石破さんが続投していたら防げたのでしょうか?

どうでしょうね。(公明党の)斉藤代表が「石破政権だったら離脱しなかった」と言っていたと新聞の見出しになっていましたが、全部お話を聞いたわけではないので軽々な判断はできません。

ただ、外国人政策にしても「政治とカネ」にしても、例えば企業団体献金を「廃止しろ」という話ですが、世の中は自然人と法人で成り立っています。自然人は18歳から投票権があるけど、法人には投票権がないので、社会の構成員たる法人がいかにして意思を表明するかというと、それは企業団体献金なのでしょう。

ただ、どの企業が誰にいくら出したか、ある議員はどこからいくらもらっていたか、という透明性を上げていかないと、有権者の分からないところで企業・団体が政治を支配しかねない。ですから、「禁止よりも公開」ということを私はずっと言ってきましたのは、法人の企業・団体献金の社会におかえる影響力行使をどう考えますかっていう根本論なんです。全然うけないですけどね、この議論。

自民党のそういう団体の数が7000くらいあって「多いじゃないか」と言われるけれども、全国に1720ぐらい市町村があり、そこにひとつずつ自民党の支部があるので、そんなにおかしなことではない。

また我々の党籍をもっている地方議員さん、都道府県会議員さんに限っても、何千人といるわけでしょう。そういう方々が都道府県単位で一本化しますということになると、仮に千代田区の自民党にお金を使ってほしくて献金したのに、東京都連で分配するとなると自分の意思と違うということが起こってしまう。

そうするとやはり大事なのは公開性であり、ひょっとしたら上限規制は検討の余地があったかもしれません。やっぱり「禁止より公開」っていうのはずいぶん我々は心がけてきました。

高市氏の台湾有事めぐる発言「政府が断定することは歴代政権は避けてきた」

――高市総理が台湾有事をめぐって「存立危機事態」と発言しました。これは歴代総理の見解を逸脱しているとの指摘もありますが、どう思われますか?(リスナーからの質問)

それは「台湾有事は日本有事だ」と言っているのにかなり近い話になります。個々のケースを想定して、「この場合は存立危機事態だ」「この場合は防衛出動だ」というのはその時々の状況によって違います。歴代政権は「こういう場合は日本有事である」と限定してきませんでした。

たとえでいえば、私が(防衛庁)長官時代にイラクに自衛隊を派遣しました。もちろん武力行使で出たわけじゃなく、戦闘が終わっているのだから、そこでやったのは人道支援です。ただ、そこに出た日本の自衛隊の部隊そのものを狙って、国または国に準ずる組織が武力攻撃をかけてきたら、それは法的には日本有事ということがありえますよねという話はするんだけど。

じゃあ朝鮮半島において、あるいは中国は内政問題だと言っている台湾の問題について、政府が「この場合はこうだ」と断定することは、歴代政権は避けてきたことだと思っています。

抑止力を高めるために何ができるかを全部言っちゃったら、抑止力にも何もなりません。我々の政権のときに自衛官の処遇改善しましょうねと言ったのは、今、定数が1割足りず、募集しても半分しか来ない。どんなに立派な船や飛行機を持っても、人がいなかったらどうにもならない。抑止力の高め方というのは、一つ一つ地道にやっていくことで、「こういう事態はこうです」と決めつけることは、あまり抑止力の向上にはつながらないのではないでしょうか。

生活保護「本来持っている機能を十分に果たせているか」

――生活保護基準引き下げが違法との最高裁判決が出ました。国への損害賠償請求は棄却するという判決も出ましたが、厚労省の対応についてご意見を伺いたいです。(リスナーからの質問)

国家賠償の対象となるかどうかは、個々の事案によるのだろうと思っています。法律論として、いかなる権利の侵害になり、いかなる賠償の対象になるかは、お一人お一人の事案に即して考えていかなければいけないことでしょう。

最低賃金と生活保護の関係って難しい話なんだけれども、最低賃金の近くで暮らしてらっしゃる方が約700万人おられるわけで、それは生存権の問題にも関わってくると思っています。お一人お一人が暮らしていける水準なのかは、今の物価動向も勘案しながら見ていかなければいけません。

可能であれば就労機会をどう作っていくか、働きたいのに働けない方にどういう手当てをしていくべきか。生活保護そのものを否定するような考え方の人はおそらくいないと思うんだけれども、生活保護が本来持っている機能を十分に果たせているか、という検証は必要でしょうね。

――個々人の救済を個々人で求めると、線引きから必ず振り落とされる方がいます。どこかで政治判断として救済や解決が必要になると思いますが、いかがですか?

政治判断というのはそういうものです。

――長生炭鉱の潜水調査や遺骨収容について、民間任せの現状をどうお考えですか? 国はどう関わりますか?(リスナーからの質問)

技術的に可能であれば、国がやるべきものでしょう。国としてやるからには、携わる人の安全が確保されるかどうかが大前提になります。安全が確保されるということであれば、国の関与は当然認められるべきものだったと思っています。

――安全かどうかの現地調査が最低限できるということですか?

それはどういう手法によって安全が確保されるか、安全だと判断をして仮に事故でも起こったらどうしますか、ということですから、国が関わるからには、安全の確保は最優先されるべきものです。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年11月13日放送「石破茂前総理がスタジオ生出演 政治とカネ、戦後80年所感…在任1年を問う」より)

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