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40周年!サザンオールスターズ「KAMAKURA」原由子が寝室でレコーディングした曲も?

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1985年09月14日 サザンオールスターズのアルバム「KAMAKURA」発売日

今からちょうど40年前にリリースされた「KAMAKURA」


1985年9月14日、サザンオールスターズの2枚組アルバム『KAMAKURA』がリリースされた。40年前、初めてこのアルバムを耳にした際の衝撃は、今も鮮烈に記憶に残っている。

それまでサザンは1978年のデビュー以来、年1枚のペースでアルバムを発表してきた。ジャズ、ブルース、R&B要素の強い1981年の『ステレオ太陽族』や、シンセサイザーを多用しニューウェーブ色を強めた1983年の『綺麗』など、サウンド面で個性を強く打ち出したアルバムもあるが、基本はバンドサウンドによるロックである。ところが『KAMAKURA』は当時最先端のデジタルサウンドを駆使した、先鋭的でアグレッシブな内容だった。明らかにそれまでのアルバムとは肌触りが違ったのである。

サザンの作品にしては異例すぎた音のコラージュ


2枚組全20曲のうち、ベースの関口和之作の「最後の日射病」以外はすべて桑田佳祐の作詞作曲。1曲目の「Computer Children」からして、生演奏での再現を前提にしていないように思えるアレンジも、サザンの作品にしては異例すぎた。エンジニアの池村昌彦の証言によると “いろいろな音が入ったけれど、着地点が見えなくてこの曲のミックスだけで2、3日はかかりました” とのことである。もう冒頭から凝りに凝った音のコラージュなのだ。

さらに2曲目「真昼の情景(このせまい野原いっぱい)」のアフリカンサウンド。変拍子を用いた3曲目「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」と、冒頭3曲はいずれも従来のサザンのイメージを覆す攻めた音作りになっている。シンセドラムなど電子楽器の使用、プログラミングに関しては、YMOのアシスタントを務めた藤井丈史を起用し、先鋭的なデジタルサウンドへの挑戦を可能にしたのだ。

他にもスクリッティ・ポリッティの影響大といわれる「Happy Birthday」。サウンドエフェクトを多用したハードロックナンバー「怪物君の空」。多重録音による追っかけのコーラスを試みた「Long-haired Lady」など、実験色の濃い作品が並んでいる。サザンは前々作『綺麗』(1983年)からデジタルサウンドにアプローチしているが、この『KAMAKURA』はそれが前面に出た作品となった。

前衛と定番を両立させた新しいサザンの世界


もちろん、従来のサザンらしい曲調や世界観もふんだんに織り込まれている。原由子がリードボーカルの「鎌倉物語」はその典型的な作品だ。原は産休に入っていたが、自宅にレコーディングの機材車を横付けし、寝室にマイクを持ち込んで録音したという。尖った曲が多い『KAMAKURA』の中で、ほっこりした原坊のボーカルは一服の清涼剤のような役割を果たしている。

先行シングルとなった「Bye Bye Me Love(U are the one)」と「メロディ(Melody)」は、どちらも甲乙つけ難い美メロを持つ哀愁ナンバー。ダブルミーニングによるエロティシズム全開のファンクナンバー「Brown Cherry」や、桑田佳祐の高校時代の思い出を歌ったメランコリックな「夕陽に別れを告げて〜メリーゴーランド」など、いつものサザンらしい曲調も、随所に顔をのぞかせる。

サザンのアルバムでは、敬愛するアーティストにリスペクトを捧げる楽曲がお馴染みだが、今回は2枚組とあってか、いつもより増量。「吉田拓郎の唄」「星空のビリー・ホリデイ」に加え、「Please!」ではアウトロにクリームの「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」のイントロを使用している。ーーといった具合に、2枚組20曲の大作ながら、豊富な楽曲のアイデアと凝ったアレンジと演奏で、最後までまったく飽きさせない。前衛と定番を両立させ、新しいサザンの世界を見せてくれたことにも驚かされるのだ。

トータル1,800時間を費やしたレコーディング


デジタル萌芽時代のサウンドは、今聴くと "時代の音 "にしか聴こえないことが多いが、40年が経過した今、このアルバムを改めて聴き直しても、当時と変わらず新鮮で先鋭的であることに驚かされる。今も古びない理由は、アイデアの多彩さに加え、トータル1,800時間を費やしたというレコーディングにあるのではないか。

“デジタルと格闘した” というよりは、“デジタルでできること” の可能性の広がりが、桑田佳祐及びメンバー各人のアイデアと結びついて、分厚く濃密な音を生むためにこれだけの時間を要したのだろう。ことに、冒頭の3曲や「怪物君の空」のみっちりと音の詰まった攻撃的なサウンドには、デジタルである必然性を強く感じさせる。

逆に、従来のサザンらしい楽曲では、控えめな音作りになっている。その結果、実験性と大衆性の両方を兼ね備えた稀有な完成度のアルバムになっているのだ。歌詞に込められたメッセージも興味深い。テレビゲームに熱中し外で遊ばなくなった子供達を憂う「Computer Children」や、フォークランド紛争を題材にしたという「怪物君の空」で歌われる内容は、現代に通じるものがあり、2020年代に聴くとよりリアリティが増すのだ。

40年の時を経ても色褪せない名作


当時、このアルバムを引っ提げてのスタジアムツアー『KAMAKURA TO SENEGAL SOUTHERN ALL STARS avec TOURÉ KUNDA』が、1985年9月21日から10月5日まで、全国4か所の8公演が開催された。筆者は横浜スタジアムでの公演を鑑賞したが、『KAMAKURA』のナンバーから約2/3を披露。デジタルの音が見事にバンドサウンドと融合して演奏されていたことに驚かされた。また、同ツアーはアフリカのバンド、トゥレ・クンダとの共演で、聴き慣れないアフリカンミュージックと、サザンの楽曲を並列して聴かせる趣向も、1985年においてはかなり攻めた企画である。

サザンとしては一度、すべてをやり尽くした感があったのだろう。この後、バンドは3年間の活動休止期間に入り、桑田佳祐はKUWATA BANDを始動するなど、メンバーはソロ活動に入った。1曲ごとにすべて違う表情を見せる、多彩なアイデアの博覧会『KAMAKURA』は、2枚組だからこそ成し得た快挙だ。40年の時を経ても色褪せない名作である。

参考資料:『サザンオールスターズ 公式データブック 1978-2019』(リットーミュージック)

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