「朝から晩までよく喋る」自閉症息子との夏休みに辟易!?「究極の2択」に振り回されて
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
楽しみだった夏休み
ASD(自閉スペクトラム症)のあるスバルの困りごとのほとんどが集団の中で起こります。細かく言えばもっとありますが、メインの困りごとは人とのコミュニケーションの難しさと、DCD(発達性協調運動症)によるスーパー不器用です。
それでもスバル本人の努力や学習、周囲のサポートで日々できる事が増え、目に見える成長をしています。それと同時に年齢が上がるにつれて求められる「年相応の能力」も高くなるため、成長しても成長しても常に「難あり」状態なのです。スバルは小学校が大好きで行き渋りはありませんが、それでも毎日のように「自分だけできない」を目の当たりすることで心が疲れて自信をなくしてしまうのでした。
逆に言えば家での困りごとはそんなにありません。不器用によるできないことはありますが、まあ家ですし。友達と比べて落ち込む必要もないですし。スバルにとってはノンストレスな空間です。
そもそも2歳の春にプレ幼稚園に入園し、集団の中での困りごとが露見するまでは「言葉が遅い以外に困りごとはない」と思っていたくらいなので、スバルとおうち時間の相性は良いのです。小学校生活最初の夏休みは、感染症対策で外出自粛が呼びかけられていました。
元気が有り余る小学生が1日中家にいる状況に周囲は戦々恐々としていましたが、わが家は夏休みドンと来い!なのです。
……そう思っていました。夏休みが始まるまでは。
一日中「お母さん」の夏休み
「朝から晩までよく喋るな……」
夏休み中、目が覚めた瞬間から寝る瞬間までスバルが喋り続けているのです。もともとスバルはよく喋る子で、3歳で言葉が溢れてから今までずっと喋っています。話す内容はその時ハマっているものの丸暗記した知識のアウトプットだったり、一人ごっこ遊びだったりしました。
小学生になってもそれは変わらないのですが、この夏休みはなぜがほんの少しだけ変化がありました。話す文章と文章の間に「お母さん」を挟んでくるのです。
「OEM車なんだけどね、お母さん。他社と共同で開発した車でね、お母さん」
「ブーン『海までドライブに行くぜ』お母さん。『楽しみだわ』お母さん」
1日中喋っているのはいつものことなのに、「お母さん」を挟まれるだけでここまでストレスになるのかと思いました。いつもは右耳から左耳へふわっと抜けて行く言葉たちが「お母さん」の部分で急ブレーキを踏み、頭の中にとどまるイメージです。
なぜ「お母さん」を挟むのかは分かっていません。
学校の友達と会えなくて寂しいのかな?と思いましたが「そうでもない」とのこと。どうしても私に話の内容を聞いてほしいのかな?と思いましたが「別に聞いていなくていい」とのことです。私が同じ部屋にいなくても始めた話は終わりまで喋り続けています。結局対処法も分からないまま、最初の夏を乗り切りました。
2学期が始まった時の開放感といったら!「小学生の子のお母さんやってるわ!」と思いました。
一日中バスに乗る夏休み
外出自粛ではなくなった年の夏休みはスバルはバスに興味を持ちあっという間にバスマニアになっていました。路線図を穴が開くほど読み込んで、市内のバス停のほとんどを暗記していました。そうなると「どこに行きたい?」の質問に当たり前のように「バスに乗りに行きたい」と答えます。
私にとってバスは移動手段であり、スバルのようにレジャーとしてバスに乗る感覚にはイマイチ共感できません。しかし家で「お母さん」を浴び続けるよりマシかと出かけることにしました。
家からバスを乗り継いで、市内の端のバス営業所まで行き始発のバス停から終点まで乗車。その場所からまた別の僻地のバス停へ。家の近くを通り過ぎてまた遠くのバス停へ。スバルはバスに乗る事を楽しんでいますが、私はバスに乗っている間「無」の時間なのです。
家で「お母さん」を浴び続けるか、バスで「無」を味わうか究極の2択。なんとかバランスを取りながら、それでもものすごい数のバスに乗った夏休みでした。
あれから数年後の夏休み
今でも「お母さん」を挟むしバスにも乗りに行きます。
ただある時「本当にお母さんに用事があるときは良いんだけど、私が仕事をしている時に『お母さん』って言われると気になって仕事が進まなくなっちゃうから用事がないときには言わないことってできるかな?」とお願いしたところ、「お母さん」を挟まずに喋ってくれるようになりました。おそらく最初の年には同じお願いをしてもコントロールできなかったと思います。
ソファに並んでくつろいでいる時には「今年入った新型のバスなんだけどね、お母さん。未発表だけど〇〇営業所の所属になる気がするよ、お母さん」と話していますが、やはり聞いていても聞いていなくても良いそうです。
最近のバスの乗り方は、今年導入されたばかりの新型車が通りそうなバス停で朝から待ち伏せし、予想通り新型車がきたら乗る。予想が外れ来ないと踏んだら、別の候補地へ移動してまた待ち伏せする。そんな遊びをしています。まだ今年導入された新型車を制覇していないので、今年の夏、私たちはどこかのバス停で新型車を待ち伏せしている事でしょう。
執筆/星あかり
(監修:新美先生より)
面白大変すぎる夏休みのエピソードを聞かせてくれてありがとうございます。自分がその立場だったらけっこう疲れるだろうなと思うものの、めちゃめちゃかわいくて面白すぎるエピソードに昇華されてる星さん素敵です。多少の苦労もかわいいわが子の面白ネタに昇華できるのって才能ですね。わたし自身も自分のことも家族のこともそんな感じで乗り切るようにしているので共感して読ませていただきました。
集団生活自体がメインの困りごとの場合、学校ある時期に必死にサポートしていて、長期休みになるとほっとして、普段できない緩やかな時間が過ごせるのがすごく貴重な時間だったりしますよね。スバル君の興味に合わせて、無になりながらおしゃべりに付き合ったり、バスの趣味に付き合ったりする星さん、ステキなお母さんだなぁと尊敬します。十分に本人の興味につきあってくれるようなお母さんだからこそ、数年後には理由を説明してお願いすれば、お母さんの言い分も受け入れて折り合いをつけられるようにもなったんだろうなとも思いました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。