【倉敷市】【11/30(土)開催】「大橋家のもうひとつの顔、」手話ガイドツアー ~ 申込み受付中!音のない世界で暮らす大橋家の子孫、大橋弘枝さんと手話で歴史を味わおう
秋の行楽シーズン。倉敷美観地区は、日々多くの観光客でにぎわっていますね。
日本人観光客はもちろんのこと、最近はヨーロッパをはじめとした海外からのお客さんも多く見かけるようになり、英語でのガイドも始まっているのだとか。
倉敷美観地区は歴史のある街なので、歴史的な暮らしで使われる専門用語などをお客さんが理解できる言語で伝える必要度もあがってきているようにも感じます。
2024年9月に岡山県内すべての自治体で「手話言語法」が施行され、各所では手話による観光ガイドも少しずつ始まってきているようです。
倉敷美観地区でも2024年11月に、大橋家住宅において手話によるガイドが開催されます。どのような内容なのでしょうか。
大橋家住宅とは
大原家とともに「新禄」と呼ばれる新興勢力を形成していた大橋家は、水田・塩田を開発して大地主となり、金融業も営んで大きな財を成しました。
大橋家住宅は、倉敷町屋の典型が見られる格式高い邸宅で、国の重要文化財に指定されている町屋建築です。「倉敷窓」「倉敷格子」「なまこ壁」といった倉敷独特の建築方式が見られることも特色のひとつです。
手話言語とは
全日本ろうあ連盟のホームページによると、手話については以下のように定義されています。
手話言語とは
「手話言語」は手の形、位置、動きをもとに、表情も活用する独自の文法体系をもった、音声言語と対等な言語です。障害者権利条約の定義に手話が「言語」として位置づけられ、日本においても改正障害者基本法で初めて「言語(手話を含む)」と明記されたことで手話が言語として法的に認知されました。
倉敷市では令和3年(2021年)12月に手話言語条例が、岡山県では令和5年(2023年)3月に岡山県手話言語の普及及び聴覚障害、視覚障害その他の障害の特性に応じた意思疎通手段の利用促進に関する条例が制定されました。
令和6年(2024年)9月に早島町で手話言語条例が制定されたことにより、岡山県は全国で初めて全自治体で手話言語条例が制定された県になっており、これからさまざまな分野で手話でのサービス提供の検討が求められています。
「大橋家のもうひとつの顔、」手話ガイドツアー とは
「大橋家のもうひとつの顔、」手話ガイドツアーは、2024年11月30日に倉敷美観地区にある大橋家住宅で開催されるツアーです。
主催者の大橋弘枝(おおはし ひろえ)さんは聴覚障がいがあり、手話で生活しています。今回のツアーは、午前10時30分から開始する回と午後1時30分から開始する回があり、どちらも40分程度のプログラムが手話によって展開。音声通訳は付きませんが、俳優の大窪みこえ(おおくぼ みこえ)さんによる音声通訳サポートが用意されています。
参加を希望する人は、申し込みフォームから予約しましょう。
詳細は、以下の画像を確認してください。
主催者、大橋弘枝さんへのインタビュー
「大橋家のもうひとつの顔、」手話ガイドツアー発起人の大橋弘枝さんに、大橋さんと大橋家住宅の関係や手話ガイドツアー構想のきっかけについてお話を聞きました。
本インタビューは手話でおこないました。大橋さん本人に日本語翻訳内容の確認をしてもらい、掲載しています。
──現在は東京在住の大橋さんが、倉敷にある大橋家でガイドツアーをしようと思ったきっかけを教えてください。
大橋(敬称略)──
8年ほど前(2016年)に、自分のルーツをたどろうと思って親戚と家系図を見ていると倉敷市の大橋家の存在が浮かび上がったんです。私も両親も関東在住なので、岡山県の倉敷市に自分のルーツがあるとは不思議だなと思い、実際に倉敷美観地区を訪れました。
倉敷美観地区の古い街並みや街の真ん中に川が流れる風景など、情緒あふれる雰囲気に魅了されるなか家族とともにガイドを受けました。ガイドでは倉敷の街並みの歴史についていろいろと教えてもらったのですが、大橋家の話題がまったく出てこなかったんですよ。
自分自身で大橋家の歴史を解き明かしていくと、おもしろいエピソードがたくさん出てきました。そこで、大橋家の建物をきっかけに、私の高祖父(祖父(母)の祖父)に当たる大橋敬之助(おおはし けいのすけ)の功績について私自身がガイドしよう!と思って今回の企画を立ち上げました。
──手話によるガイドは、大橋家以外でも経験があるのですか。
大橋──
はい。2015年に東京の浅草で手話ガイドツアーを開催したことがあります。ガイドツアーをするには自分自身も歴史を深く知る必要があるので、とても学びになりました。
今回の大橋家でのガイドツアーは、私にとって二度目の手話ガイドツアーです。
──大橋さんは普段どのようなお仕事をされているのですか。
大橋──
普段は、俳優やプロデューサーの仕事をしています。現在は特にダイアログ イン サイレンスという、ボディーランゲージなど音や声を出さずに互いにコミュニケーションをとる方法を発見していくエンターテインメントのアテンド役としての活動に注力を入れています。
私を含め、アテンド役は全員手話が第一言語の人たちなんですよ。
──今回の手話ガイドツアーには、音声通訳ではなく音声通訳サポートが付いているとのこと。この二つの違いを教えてください。
大橋──
音声通訳は手話でのガイド内容をすべて音声で通訳することを指します。一方で今回提供する音声通訳サポートは、手話を一語一句通訳するのではなく、音声通訳サポート用の台本を読んでいくんです。そのため、手話ガイドの途中での質疑応答などの通訳は保障していません。
今回は大橋家住宅で開催する初めての手話ガイドツアーなので、ある程度手話でのやりとりが可能なかたを対象としています。
──手話でガイドツアーをする意義を教えてください。
大橋──
冒頭で倉敷美観地区でガイドを受けたとお話ししましたが、それは音声によるものだったので、聴覚障がいのある私は同行者にかいつまんで通訳してもらいました。倉敷美観地区を歩いていると手話をしている観光客グループを何組か見かけたのに、手話による通訳がないのはもったいないと思いました。
英語圏の人に対して英語ガイドをするのに都度日本語通訳者は付かないし、中国人に対して中国語ガイドをするときにも中国語のみで進行していますよね。英語ガイドは英語がわかる人だから体験できるガイドで、中国語ガイドは中国語がわかる人だからこそ体験できるガイドです。
それと同じように、手話でガイドをするんだったら手話だけでガイドを進行する。ろう者(聴覚障がい者)だからこそ参加できるプログラムを、みんなが当たり前に思ってくれるような社会になってほしいと思っています。
今回はろう者や手話学習者を対象とした手話によるガイドですが、いずれは視覚障がい者や高齢者を対象としたガイドにも挑戦したいですね。私が普段東京で活動しているダイアログ イン サイレンスも、視覚障がい者や高齢者の目線に立ったプログラムがあるんですよ。
ダイアログ イン サイレンスは日本では始まったばかりですが、ドイツでは20年以上の実績がある取り組みなんです。日本でも、障がいのある当事者の視点に立った体験がもっともっと広まってほしいです。今回の「大橋家のもうひとつの顔、」手話ガイドツアーは、そのためのはじめの一歩だと思っています。
──手話ガイドツアーでは、どのようなお話を予定していますか。
大橋──
大橋家住宅は歴史のある建物なので、家の作りかたからそこでどのようなものを食べて、どうやって暮らしていたのかといった、暮らしにフォーカスを当てたお話を予定しています。
また、私の高祖父に当たる大橋敬之助をめぐるおもしろいエピソードがたくさんありますので、彼の魅力を参加者のみなさんに伝えたいです。
──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大橋──
歴史といえば本で学ぶのが主流かもしれませんが、今回は参加者に江戸時代からの歴史が残る大橋家住宅に実際に足を運んで歴史を味わってもらいます。その空気を自身の五感を活用して味わっていただける機会を提供したいと思っていますので楽しみにしていてください。
倉敷で暮らすみなさまと交流できることを、とても楽しみにしています。
おわりに
私自身も聴覚障がいがあるので、きこえる人を対象としたガイドツアーはきこえる人と同じように情報を得られないだろうと諦めていました。そのため、大橋さんとの話に出てきた「ろう者だからこそ参加できるガイドツアーがあってもいいのではないか」という課題提起にハッとさせられました。
倉敷にルーツのある大橋さんによる「どのような人も参加できるガイドツアー」への挑戦のはじめの一歩を、味わいに行ってみてはいかがでしょうか。