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転んだ時に手が付けない、サッカーするうえでもベースとなる運動が正しくできていない......、子どもの運動能力低下の原因と課題

サカイク

近年子どもの運動能力が落ちているというニュースを目にすることがあります。実際スポーツの現場ではどう感じているのでしょうか。

「現代の子どもの運動能力」について、サカイクキャンプの菊池健太コーチと「タニラダー講習会」でおなじみ、谷真一郎さんの対談をお届けします。

お二人とも、日々、子どもたちと向き合っていますが、コロナ禍や運動する場所や時間の減少もあり、年々、運動能力の低下は見過ごせないレベルになってきていると感じているそうです。

子どもの運動能力を高めるために、指導者や保護者はどのようにアプローチをすればいいのか。お二人と一緒に考えていきましょう。
(構成・文:鈴木智之)

 

(写真は少年サッカーのイメージです)

  

関連記事:子どものコンディショニングに関する保護者の疑問に谷真一郎さんが回答

 

■転んだ時に手が付けない、サッカーするうえでもベースとなる運動が正しくできていない

菊池健太(以下 菊池):今、子どもの運動能力低下が社会問題になっていますよね。以前と比べて外遊びの機会が減少し、「時間」「空間」「仲間」の環境が大きく変化しています。インドアで遊べる機会が増え、スマホ一つで友達とオンラインゲームができる便利さがある一方で、ジャングルジムに登るような遊びは減っています。

さらに場所的な制約もあります。昔はボール一つあれば公園でサッカーができましたが、現在は公園でのボール使用が禁止されているケースも多いです。こうした要因が重なり、学校の体力測定でも数値の低下が見られています。

私たちが保育園を訪問した際、保育士さんから「転んだときに手がつけなくて、顔から突っ込んでしまう子がいる」という話を聞いて驚きました。様々な動きを経験していない子が増えていることは、サカイクキャンプやシンキングサッカースクールで接する子どもたちの様子からも実感します。

 

谷真一郎(以下 谷):ベースとしての運動能力、細かく言うと姿勢や走り方、腕の振りなどが正しくできない中で、サッカーの技術的トレーニングばかりしていても、はたして上達するのだろうか? というのが私の考えです。

人の体はトレーニングしたことに適応します。スピードを上げるためには、スピード向上のためのトレーニングが不可欠です。サッカーをプレーする中で、「速く走れない」「うまくターンできない」「1対1の対応ができない」といった課題があれば、その部分を重点的にトレーニングするしかありません。

今の子どもたちは外遊びや運動の機会が減少していて、特にコロナ禍を経て、運動能力の低下を肌で感じます。今まで見られなかった動きや「どうしてそうなっちゃうの?」と思うような状況も増えています。それでもサッカーのトレーニングだけで、サッカーを上手くしようとしている。

そこが重要なポイントで、走る、ターンするという動きも、サッカーの技術の一つとして捉えてほしい。そして、そのためのトレーニングをすることで、うまくいかない状況を改善するという考え方を持ってもらえると、子どもたちの成長につながるのではないでしょうか。

 

■二極化する子どもたちの運動能力 サッカーの現場で感じること

(写真は少年サッカーのイメージです)

 

菊池:サカイクキャンプで子どもたちの様子を見ていると、いろいろな動きや遊びを経験している子は、鬼ごっこでも身体が素早く反応し、相手の動きを予測して逆を取るような動きができます。一方で苦手な子はずっと鬼のままの状況や、そもそも「鬼ごっこは嫌だ」と言うこともあります。

サッカーにおいても二極化が進んでいて、本格的に取り組む子と習い事感覚でやる子に分かれています。後者は自己肯定感が低く、可能性を狭めてしまっているケースが多いです。

昔は中堅層が厚くて、トップを目指す意欲のある子が多かったように思いますが、今はそこが減ってきている。これは大きな問題だと感じています。

 

谷:その傾向はたしかにありますね。上手な子には、さらに運動能力を高めるトレーニングをしてあげたいし、苦手意識を持つ子たちには「こう動かすといいよ」というアドバイスを通じて「こうすればいいんだ」「前より上手にできた」という成功体験が必要です。

 

菊池:そう思います。たとえば、子どもたちに「ヨーイドン」で20mを走らせると、右手と右足が同時に前に出る子や、20mほどの距離でも走りきれずに転んでしまう子もいます。

谷さんのような体の動かし方のプロから指導を受けることや、我々指導者が知識を身につけて、正しく指導することの重要性を痛感しています。

そうすることで、子どもたちの苦手意識が少しでも解消され、自己肯定感が高まり、チャレンジ精神や「もっと良くなるにはどうしたらいいだろう」という探究心が生まれるきっかけになればと思います。

 

■子どもの自己肯定感を高めることで自信がつき、スポーツの記録が伸びた子も

(写真は少年サッカーのイメージです)

 

谷:自己肯定感は子どもに不可欠なもので、人を大きく変えることがあります。以前、タニラダー講習会に来た女の子で、しっかり立てず、走る時に右手と右足を同時に動かしてしまう子がいました。

初めは「この子、大丈夫かな」と思ったのですが、勘が良かったのか、たった1回のトレーニングで何かをつかんだようで動きが変わり、家に帰ってから自主練習をするようになったそうです。

その結果、最初は自信がなく消極的だった子が、スピードが上がってくると表情が変わり、自分から話しかけるようになってきたのです。お母さんも「性格が変わってしまったみたい」と驚いていました。

最初に会った時は小学4年生で伏し目がちだった子が、今は中学2年生になって、陸上の800mに取り組み、県大会で6位に入るまでになりました。自信なさげでふにゃふにゃだった子が、スピードが上がることでこんなに雰囲気が変わるんです。こういった効果が出てくると、自己肯定感の強い子が増えて、チームの雰囲気も変わってくると思います。

 

菊池:サカイクキャンプでも「探究心」が一つのキーワードになっています。自分で考えて取り組んでうまくいったとき、さらに「どうすれば良いだろう?」と興味を持つもの。子どものそのパワーは本当にすごいと思います。

サッカーの技術の前に、自分で体を動かすことが好きになり、得意になることで探究心が生まれてくるのは、谷さんのお話を聞いていて強く感じました。

 

谷:そこから二極化の問題が出てくるんです。気づきを得て、より良くなりたいという子がいる一方で、なんとなく『サッカー塾』に通っているけれど、うまくいかず、どうすればいいのかわからないという子や親御さんもいます。

私たちのタニラダー講習会のようなスピードアップトレーニングでも、対象が二つに分かれます。「0.1秒を縮めたい、より上を目指したい人」と「動きを改善したいけど、何をすればいいかわからない人」です。

その現状を踏まえて、私はトップを引き上げ、ボトムの底上げをする。この両方にアプローチしています。

  

■身体を適切に動かすことができるとサッカーのパフォーマンスが変わる

(オンライン対談の様子)

 

菊池:何事もそうですが「やったことないからできない」「やる前からできない」「どうせ自分なんて......」と思っている子は多いですよね。

なので、サカイクキャンプでも最初は「自信を持って、自分の得意なプレーを見せてね」というところから始めます。「できたね、そこがすごいね」と認めてあげると、さらに伸びていきます。

現状の環境はすぐには変えられません。公園に遊具を増やしたり、ボール遊びOKにするのは簡単ではありません。その中で、我々指導者は子どもたちにとって、どうすればより良い環境を作ってあげられるかを考えることが使命だと思っています。

 

谷:私が甲府で月2回開催している「アジラン(アジリティランニング講習会)」に、小学3年生の頃から通い続けている子がいます。5年生になってサッカーを始めたそうですが、「移動スピードが速く、いつもボールのあるところにいる。粘り強いプレーができる」という評価を受けています。

今までの話と重なりますが、「身体を適切に動かす」というベースの上でプレーすることで、サッカーのパフォーマンスは変わるのです。

小学生を見ていると、ほとんどの子が良い姿勢で立てていません。ふにゃふにゃしていたり、腕を振れない、片足で立つとグラグラする。その状態でボールを蹴っても、当然パスミスは起こります。

速く走れない、転ぶ、そこには理由があります。その部分を改善し、向上させることで、サッカーがもっと上手くなるということを伝えていきたいです。

 

谷真一郎(ヴァンフォーレ甲府・フィットネスダイレクター)
 
愛知県立西春高校から筑波大学に進学し、蹴球部に在籍。在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年よりヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務める。 『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』2020年よりヴァンフォーレ甲府のフィットネスに関わる活動に携わるフィットネスダイレクターに就任、現在に至る。また一般社団法人タニラダー協会の代表として体の動かし方に特化した講習会などの活動を全国で行っている。

【取得資格】
筑波大学大学院コーチ学修士
日本サッカー協会認定A級ライセンス
AFCフィットネスコーチ レベル2
日本サッカー協会認定キッズリーダー

 

菊池健太(サカイクキャンプヘッドコーチ、シンキングサッカースクールコーチ)
 
【経歴】
VERDY花巻ユース 日本クラブユース選手権出場(全国大会)
中央学院大学 千葉県選手権 優勝
千葉県1部リーグ 優勝

【資格】
日本サッカー協会 C級
JFA公認キッズリーダー
キッズコーディネーショントレーナー
佐倉市立井野中学校サッカー部外部指導員

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