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かわいいだけじゃないムーミン展。トーベの創作の源泉に迫る ― 「トーベとムーミン展」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

80年にわたり世界中で愛されるムーミン。その生みの親であるトーベ・ヤンソン(1914–2001)の創作の軌跡をたどる展覧会が、森アーツセンターギャラリーで開催中です。

絵本やコミックスの原画をはじめ、貴重な私物や映像資料も公開。ムーミン谷の物語を軸に、画家・作家・風刺画家としての多彩な顔が紹介されています。


森アーツセンターギャラリー「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」会場入口


芸術家の家庭に生まれたトーベは、幼い頃から画家を志し、ストックホルムやヘルシンキで学びました。やがて助成を得てヨーロッパ各地を巡り、1943年に初個展、翌年には「ムーミン」シリーズをスタートさせます。

油彩画の分野でも旺盛に制作を続け、初期には光や色彩を重視した印象派風の作風を見せました。のちに筆づかいは大胆さを増し、フォルムを簡潔にした抽象的なスタイルへと展開していきました。


森アーツセンターギャラリー「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」会場より


15歳で挿絵画家としてデビューしたトーベは、風刺雑誌『ガルム』で約500点の挿絵と100点の表紙を手がけました。風刺画を通して反戦のメッセージを訴えたほか、ムーミントロールの原型となるキャラクター「スノーク」もこの頃に誕生しています。


森アーツセンターギャラリー「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」会場より


戦後は、公共施設の壁画制作を多数手がけ、フィンランド各地を巡って制作を行いました。トーベの壁画には、童話のようなモチーフやムーミンたちが登場し、戦後の癒しと平和への願いが込められています。


《遊び1~3》(アウロラ病院小児病棟の壁画のためのコンペティション用スケッチ)1955 ヘルシンキ市立美術館


なかでもフィンランド・コトカ市の保育園のために制作された「フェアリーティル・パノラマ」は、約7メートルに及ぶ大作。幻想的な構図の中をムーミンたちや空想の生き物たちが行進します。フレスコ・セッコ技法に加え、金箔や輝石も用いられています。

この壁画は会場で映像化され、スケッチから完成までを追うように描かれた演出を通して、作品に込められた物語を体感できます。


《フェアリーティル・パノラマ》オリジナル:1949 フィンランド・コトカ市


さらに、「ムーミン」小説に登場する挿絵を元にした約3分45秒の没入映像も上映中。原画の繊細さを活かしつつ、印象的な場面が動き出し、来場者を物語の世界へと引き込みます。


「ムーミン」小説・挿絵没入映像エリア


ムーミンの物語は、ヤンソンが10代の頃に描いた空想の生き物や、叔父から聞いたおばけの話をもとに生まれました。1945年の第一作以降、小説や絵本、舞台などへ展開し、自然や多様性、自由といった彼女の価値観が色濃く反映されています。

登場するキャラクターの多くには、家族や友人をモデルにしたものもあり、ムーミン谷を描くことは、トーベ自身の人生や内面を描くことでもありました。


森アーツセンターギャラリー「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」会場より


『たのしいムーミン一家』では、ムーミントロールたちが山で拾った不思議な帽子が騒動を巻き起こし、最後には皆の願いが叶って幕を閉じます。シリーズの中でもとくにのどかで幸福感に満ちた物語です。


森アーツセンターギャラリー「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」会場より


1950年に英訳されたことでムーミンは国際的な人気を得ました。1954年からはロンドンの「イブニング・ニュース」紙でコミックス連載が始まり、最盛期には世界40カ国・120紙で掲載。1959年までトーベが執筆を続け、その後は弟ラルスに引き継がれました。


森アーツセンターギャラリー「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」会場より


絵本『ムーミン谷へのふしぎな旅』では、魔法のめがねを手に入れた少女スサンナが、不思議な世界へと旅立ちます。仲間たちとの冒険の末、熱気球でムーミン谷に帰還。この作品は『ムーミン谷の十一月』の7年後に刊行された、トーベが手がけた最後の絵本です。


森アーツセンターギャラリー「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」会場より


本展はヘルシンキ市立美術館の全面協力のもと、同館のヘリ・ハルニ氏がメインキュレーターを務めています。

トーベ・ヤンソンの繊細で力強い表現の数々が、ムーミンの世界をより豊かに感じさせてくれる展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年7月15日 ]

©Moomin Characters™ ©Tove Jansson Estate

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