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「DV彼氏にフォークで鼻を刺された話」をSNSに投稿したら、憧れの漫画家になれた話。

スタジオパーソル

SNSに投稿した、20代のころの経験を綴ったコミックエッセイ『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』(KADOKAWA)がバズり、会社員からフリーランスの漫画家へと転身した前田シェリーかりんこさん。

幼い頃から絵を描くのが好きだったかりんこさんが、描く仕事に憧れるのは自然の流れでしたが、ある理由でその夢を断念することに。しかしその後、趣味でSNSに投稿した漫画をきっかけに、運命の歯車が大きく動き出します。

先生から「お前の絵は下手だ」と言われ、一度は諦めた絵の道

──現在、漫画家として活躍しているかりんこさん。漫画を描くのは、昔から好きだったのでしょうか?

はい。小さいころから絵を描くのが好きで、高校生のときには美術部の部長もしていたんですよ。「漫画家になりたい」と、漫画学部のある大学への進学を考えていた時期もあります。でも、調べれば調べるほど漫画家になるハードルがとんでもなく高いことが分かって。

当時は商業誌デビューしか道がなかったし、デビューできたとしても、漫画で生きていける人はほんの一握り。しかもその人たちは、学生時代にデビューしてヒット作を飛ばしているんですよ。自分がその域に到達できるイメージがまったく湧かず、もっと現実的に絵で生きる道に進むために、大学は絵を学ぶ芸術学部に進学しました。

でも、私のデッサンを見た先生から、「なんでこの学部に来たか分からないぐらい、お前の絵は下手だ」と言われて(笑)。

──ええ!そのときの心境は・・・・・・?

ショックというよりも、思わず反抗心で絵画専攻から美術史専攻にコース替えしちゃいました。絵を描く以外の道を選んだんですよ。やりたいことがなくなって、なんだか気が抜けましたね。

就活の時期になってもやる気が起きず、同級生がインターンに行ったり、面接対策をしたりしている姿を、「まぁ、なんとかなるでしょ」と楽観的に見ていました。大学卒業後もはたらかず、しばらくはアルバイトで生計を立てていましたね。

でも、あるときにふと、夢も目標も感情もなく、ただただアルバイトをして過ごす日々に、「私、この生活をいつまで続けるんだろう」って虚しくなったんです。「漫画家になりたい!」と夢を見ていた熱い私はどこに行ったんだ、と。

そこで初めて、「やりたいことはないけれど、何かしなきゃ!」と就職活動を始めました。外回りの営業、法務、広報、秘書、SNS運用と、何社か会社を転々としながら、いろんな仕事を経験しました。

「迫力がヤバすぎて一生思い出に残りそう」壮絶な体験漫画が大バズり

──その後、どのような流れでもう一度絵を描こうと思ったんですか。

娘が生まれて、育休中に情報収集のためにSNSで育児アカウントを始めたことがきっかけでした。そこで、自分の育児体験を面白おかしく漫画にしている人たちを見かけて。最初はいろんな漫画を見て、「面白いなぁ」と思っているだけだったのですが、あるときに「そういえば、私もともと絵を描いていたじゃん!」と気が付いて、大学生ぶりに描いてみることにしたんです。

──学生時代、先生から「お前の絵は下手だ」と言われて辞めた経験がありましたが、再び絵を書き始めることに不安や葛藤はなかったのでしょうか。

先生からすると「下手だから向いていない」と思ったのかもしれないけど、本当に向いていないかどうかは、やってみないと分からなくない? と思ったんですよ。

まさか、バズって書籍化されるとまではまったく思っていませんでしたが・・・・・・。

コミックエッセイ『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』(KADOKAWA)より

──SNSに投稿していた『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』は、タイトルも含めてすごくインパクトのあるお話でしたね。

今思えばとんでもない体験ですよね(笑)。20代のころ、私は「メンヘラ製造機」と呼ばれていて。当時付き合っていた彼氏も例外なくメンヘラだったのですが、まさかフォークを鼻に刺されるとは思いませんでした。とはいえ、世の中にはもっと壮絶な体験を投稿している人がたくさんいる中で、私の体験に読み物としての需要があるとは思っていなくて。

そもそも私は育児アカウントのつもりでSNSをやっていたので、当時は出産時の話を漫画にしていたんですよ。でも、その中にチラッと「出産は痛かったけど、鼻にフォークを刺されたときの方が痛かった」と書いたら、「出産の話よりも、その話が気になる」「それを漫画にしてほしい!」と何件もDMをいただいて。

興味を持ってくれる人がいるなら描いてみるか・・・・・・、と描きはじめたら、投稿するたびにいいね数やフォロワー数が数千単位でどんどん増えていき、完結もしていないうちから書籍化の話をいただき、「いったい何が起きているんだ!?」と驚きました。

──ちなみに、漫画を投稿する際にこだわっていたポイントなどはあるのでしょうか。

とにかく「リアルさ」を意識していました。SNSに投稿されている漫画は、デフォルメしたゆるくて可愛い絵柄のものが多いので、人も背景もできるだけリアルに描こう、と。そしたら、「この人の描いている漫画、なんかほかと違うな」と気になって見てくれる人もいるんじゃないかと思っていたんです。

実際に読者さんからは、「迫力がヤバすぎて一生思い出に残りそう」「緊迫感が伝わってきた」などのコメントをいただきました。

コミックエッセイ『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』(KADOKAWA)より

夢を叶えるために必要なのは、"運"を引き寄せる行動力

──現在、漫画家として活躍中のかりんこさんですが、会社員から漫画家へのキャリアチェンジは、いつから考えるようになったのでしょうか。

書籍化のお話をいただいたときは本当にうれしくて、すぐに引き受けちゃいましたね(笑)。でも、あくまで書籍化は「記念」で、育休が明けたら会社員として職場に復帰するつもりでした。趣味や副業で漫画を書くのはいいけど、家族もいるし、不安定な仕事に就くのは現実的じゃないな、と思っていたんです。

でも次第に「商品のPR漫画を書いてほしい」といった書籍化以外のお仕事もいただけるようになってきて。漫画家としての取引先がどんどん増えて、気がついたら少なくとも半年先くらいまでは、漫画の仕事だけでも、家族みんなでちょっとした贅沢ができるくらいには稼げる土台ができていました。それに、漫画家なら家で仕事ができるし、家族の急な体調不良にも対応しやすい。

会社員よりも漫画家の方が、私にとっては現実的な選択肢になったから、キャリアチェンジを決意できました。

──振り返ってみて、なぜ自分が夢を叶えられたと思うか、教えていただけますか。

一つ言えるのは、「やりたい」と思ったことにはなんでも飛びついてきたから、その結果運を引き寄せられたのかなって。昔から絵を書いていたとか、昔はメンヘラとばっかり付き合っていたとか、そのうちの一人に鼻をフォークで刺されたとか、SNSで漫画を書き始めたとか、書籍化の話に飛びついたとか、どれか一個が欠けても、今の私はいないですからね。

──「やりたい」ことに迷わず飛びつくためには、どうすればいいですか。

死ぬ間際って走馬灯を見るじゃないですか。その走馬灯を、どんな思い出で満たしたいのかを考えるといいと思います。

人間の人生って、あたりまえだけど1回だけ。約80年しか時間がない。さらに、自分がやりたいことのためにお金や時間を使えて、かつ心身ともに健康な時期を考えると、やりたいことに挑戦できる時期ってすごく限られていますよね。

もちろん、挑戦することで嫌な思いや辛い思いをすることもあるかもしれないけれど、失敗しても大抵のことでは死にません。私は、仕事相手に眼の前で名刺を破られたことも、元カレに鼻にフォークを刺されたことすらも、人生を彩る経験になっていますから(笑)。

だからこそ、やりたいことがあるならまずは何事にもチャレンジしてみてほしい。それで、「私の人生、結構無茶してきたな。でも、めちゃくちゃ楽しかったな」と思える走馬灯を、皆さんにも見てほしいなと思っています。

(文:仲奈々 編集・写真:いしかわゆき)

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