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石丸幹二にインタビュー! 「ライフワーク」と語る、音楽劇『ライムライト』に懸ける想いとは

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石丸幹二

チャールズ・チャップリンの晩年の同名傑作映画を原作とした、音楽劇『ライムライト』が2024年8月3日(土)から東京・日比谷シアタークリエで上演される。

2015年の初演、2019年の再演に引き続き、老芸人・カルヴェロ役を演じるのは石丸幹二。どんな思いで舞台に立つのか、石丸に話を聞いた。

ーー今回、3度目の上演となります。改めて今回の上演に向けて、ご自身の中で何か深めていきたいことや、新しく考えていらっしゃることはありますか?

この作品は、チャップリンの映画を音楽劇にして世界初演で上演した作品なんですね。今回が三演目。演じれば演じるほど、本作を重ねて上演していく意味や意義を非常に強く感じます。今、チャップリンの意識にどう近づけていくか、どうアップデートしながらやっていこうか、と、台本と向き合っているところです。

ーーチャップリンの意識にどう近づけていくかとは、具体的にどういうところなのでしょう?

改めて映画を観ていると、私自身、年を重ねたことで、チャップリンが言いたかったことなどがたくさん見えてきたんですね。10年前の初演時の私には想像できなかったような、チャップリンが映像に残した表情の一つひとつから思いが読み取れる……そんなものが今度は表現できるのかなと。

石丸幹二

ーー再演から今回までの間に、『蜘蛛女のキス』や『ハリーポッターと呪いの子』、『ラグタイム』など、さまざまな役を演じられてきました。今回、カルヴェロという男を改めて台本と向き合われて、どのようにお感じになりますか。
多様な役を演じたことで、より客観的に作品とカルヴェロというキャラクターを見ることができますね。前回の再演から5年なんですが、その長さのおかげで『ライムライト』という作品への向き合い方をリセットできる。もう1回新鮮な気持ちで向き合えるんじゃないかと思っています。もう一度生み出すというか、そんな作業ができるなと。

……先日舞台衣裳のフィッティングで、これまでの衣裳を身に着けたんです。すると、「ここにこんなデザインがあったんだ」などと気づいて。それは裏を返せば、これまで気づいてなかったんですよ。そんな余裕がなかったんです。

これって、ひとつの例ですよね。着続けてると気がつかないこと、演じ続けてると麻痺してしまってることがある。改めて何に目が留まるか。それをひとつの手がかりにして、台本を読み解いていく、共演者との演技をもう1度再構築し直してみる。そんな稽古をしたいと思っています。楽しみです、今。
ーーやはり年を重ねて分かることがありますよね。

『ライムライト』は、チャップリンの晩年の作品です。映画を作る際に、きっと人生のいろいろな思いを込めたはず。『チャップリン』というタイトルでもいいぐらいに。中でも特に、できなくなったこと、欠落していったことに向き合う。絶望と向き合って、どう再生していくかってことを、物語っていますよね。

そこで僕がいいなと思ったのは、 後輩たちに託すということ。これって若いうちは思いつかないんですよね。ようやく今、少しそう思えるようになった。おかげで今まで言っていたセリフがちょっと違うニュアンスになるかもしれないな。

石丸幹二

ーーテリー役とネヴィル役は毎回キャストが変わりますが、それはどこか作品の内容にも通じるものを感じます。
この2役に求められているのは、ピュアであることなんですね。未来に向かって一生懸命になっているキャラクター。だからこそ、毎回新しいキャストであることに意味がある気がします。それは僕にとっても刺激になります。
ーーテリーを演じられる朝月希和さん、ネヴィルを演じられる太田基裕さんに対してはどういう印象をお持ちですか?

朝月さんは宝塚歌劇団時代の映像を拝見して、一方的に知っています。どんなアプローチをされるのかとすごく楽しみにしてます。

基裕くんは『スカーレット・ピンパーネル』で一度ご一緒しました。彼は、すごくマイペースで、ポーカフェイスで少し影もあるような役を演じていました。それから、どんどんキャリアを積み上げ、今や、若手のトップの集団に入っている。今回、ネヴィルという素朴なキャラクターをどう演じるのか、楽しみです。

ーーお客様の反応や稽古場での出来事など、初演時や再演時で覚えていらっしゃることはどんなことですか?

初演は、「音楽劇」という括りにこだわってしまい、音楽や歌を表現するのに力を注いでいたんです。あるとき稽古場で、テキストが濃厚なのに気が付き、「ここに書かれている言葉をきっちり理解して、語れているのかな」とちょっと不安になったこともありました。けれど、同年代の共演者たちと共に、日に日にブラッシュアップしていく過程は心強かったですね。周りにいる芸達者なメンバーから学んだ初演でした。

再演では、新たなテリーとネヴィルと向き合いながら、最初の気持ちを忘れないで演じられているかと確認しながら稽古を始めました。彼らは全く違うアプローチで来るので、「ああ、このセリフもこんなに受け方が変わるんだ」と気づけた再演でしたね。
ーー過去にチャップリンのご遺族の方にお会いしたと伺いました。そのときのことは覚えていらっしゃいますか? どんな印象をお持ちですか?

もちろん覚えています。チャップリンのお孫さんに会いました。祖父であるチャップリンをすごく愛し、尊敬されていました。彼自身も俳優で、同じ舞台に立ちながらすごく刺激を受けましたね。

石丸幹二

ーーこの作品はミュージカルではなくて音楽劇ですが、石丸さんとしては音楽にどんな魅力を感じますか?

ほぼチャップリン本人が作曲しています。メロディーメーカーですよね。人の胸に刻み込むようなメロディーです。そこに日本語詞が加わり、皆さんの心にじんわり染みるようになっているんですよね。けれども語りすぎることはない。芝居部分の台詞に託している部分も大きく、ここに「音楽劇」と銘打つ理由があると思います。

そして、バレエシーンにも注目してほしいです。プリマ(テリー)はトゥを履いてワンシーンきっちりと踊るんです。見ごたえもあると思いますね。
ーー改めて石丸さんにとって『ライムライト』とは。
『ライムライト』はライフワークと言いたいです。
カルヴェロ役は、60代前半の役者という設定です。また時を経て4演目もやってみたい。そうすると、チャップリンが実際に演じた年齢を超えるかもしれない。そのときに自分がどう演じるのか。そんなことが楽しみで、僕にとっては未来のある音楽劇です。
ーー当たり役と言われる役を何役もお持ちなのに、このカルヴェロとの対話はご自身も勇気づけられる。

そうですね。『ライムライト』は役者としての私のミラーだと思います。今の自分を映す鏡。だからこそ何度もやってみたいと思うんじゃないかな。
ーー最後に観劇を楽しみにされている皆さんに一言お願いします!

『ライムライト』という言葉は、実はスポットライトとも受け取れるそうです。そのライトを当てられた人たちがどんな人生を歩むのかを、ぜひ劇場でご覧ください。彼らの人生を、しっかり見届けてほしいです。

石丸幹二

ヘアメイク:中島康平
スタイリング:米山裕也

取材・文=五月女菜穂    撮影=池上夢貢

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