「スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド」は『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』遅延中に登場した新たなる傑作アニメだ
ソニー・ピクチャーズさん大変ですよ!『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』の公開が遅れている間に、マーベル・スタジオ・アニメーションの方で傑作スパイダーマンアニメが作られてしまったんですから!
というわけで配信のアニメシリーズ「スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド」全10話が配信されたわけだが、これが驚くほど夢中になれる良シリーズ。すでにシーズン3までが決定している。スケジュールは未発表だが、今すぐにでも続編を求めたい。
Peter Parker/Spider-Man (Hudson Thames) in Marvel Animation's YOUR FRIENDLY NEIGHBORHOOD SPIDER-MAN, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Marvel Animation. © 2025 MARVEL. All Rights Reserved.
科学オタクの高校生ピーター・パーカーが、遺伝子操作されたクモに噛まれ、クモの超パワーを持つヒーローに目覚める……という、何度も繰り返されてきた伝説的オリジンを改めて映像化したわけだが、アッと驚くひねりが加えられており新鮮だ。スパイダーマンの誕生と覚醒を何通りも目撃してきたファンでも、「なるほど、そうきたか!」と膝を打つ。
往年のコミックアートを再現したアニメーションも斬新。アニメ作品にありがちな軽さや子ども向けっぽさは感じられず、それよりもアート的な魅力がある。音楽にはまったりとしたLo-Fi ヒップホップが組み合わされており(興味深いことに、劇中でLo-Fi ヒップホップへの言及すらある)、レトロな温もりを帯びている。
Peter Parker/Spider-Man (Hudson Thames) in Marvel Animation's YOUR FRIENDLY NEIGHBORHOOD SPIDER-MAN, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Marvel Animation. © 2025 MARVEL. All Rights Reserved.
本作の原題が当初「スパイダーマン:フレッシュマン・イヤー」であったように、スパイダーマンになったばかりのピーター・パーカーの初々しい奮闘を描く。意外なことにスパイダーマンの宿敵グリーンゴブリンとして知られる天才実業家ノーマン・オズボーンがピーターのメンターとなり、ハイテクスーツの開発提供や父親代わりの指導を行う。よく知られた設定を逆手に取り、先の読めない物語に仕上げた。
の他作品や、ゲーム版も含む過去の『スパイダーマン』作品へのオマージュも忍ばせ、ファンを退屈させない。アイアンマンがカメオ登場すれば、ユニバースの豊かさが巧みに示唆される。ドクター・オクトパスやスコーピオンといった宿敵たちもコミックに忠実な姿で登場。スーツ姿のデアデビルとの共演まで実現させた。
Tony Stark / Iron Man (Mick Wingert) in Marvel Animation's YOUR FRIENDLY NEIGHBORHOOD SPIDER-MAN, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Marvel Animation. © 2025 MARVEL. All Rights Reserved.
これだけのお楽しみがありながらも、本シリーズは小ネタやギミックに頼りすぎず、共感できるキャラクターの成長譚としての基礎的な魅力を大切にしている。ピーター・パーカーは"親愛なる隣人"スパイダーマンとして人助けに奔走するが、トラウマを植え付けられるほどの強大な敵に敗れ、自分では人々の期待に応えることができないと思い悩む。
もう一人の主人公となるのは年上のロニー・リンカーン。貧しい家庭で育つ心優しいロニーは弟を助けるためにギャングに加入してしまい、良心の咎めを感じながらも独自の成長を遂げていく。このキャラクターはコミックでトゥームストーンと呼ばれるヴィランになるため、今後に大きなドラマを抱えているはずだ。
Lonnie Lincoln (Eugene Byrd) in Marvel Animation's YOUR FRIENDLY NEIGHBORHOOD SPIDER-MAN, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Marvel Animation. © 2025 MARVEL. All Rights Reserved.
このシリーズが特別なものになると筆者が確信できたのは、第1話「アメイジング・ファンタジー」序盤に登場するシーンだ。寝坊したピーターが電車を逃してしまい、手製のスパイダーマンスーツで街をスイングしながら通学する。まだ少々ぎごちないスパイダーマンはうまく糸が出せずに落下しかけるのだが、すぐに態勢を立て直し、「大丈夫、へーきへーき!」と調子づく。並走する電車内からは、その姿を小さな子どもが両手と頬を窓に張り付けて見ており、目を輝かせる。「わぁ……、ママ!」スパイダーマンの物語は、街に認知され、子どもに憧れられた時こそ素晴らしいものになる。
トム・ホランド版ピーター・パーカーが活躍する世界とは別ユニバースで描かれる独自の世界観だが、シーズン1ではすでにMCUに合流するための下地も準備されている。ソニー・ピクチャーズ製作の『スパイダーバース』に対し、「フレンドリー・ネイバーフッド」はマーベル・スタジオが直に製作するタイトル。仮に『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』や『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』につながるのなら、この「フレンドリー・ネイバーフッド」版スパイダーマンの方が彼らにとって動かしやすい。実写世界にカートゥーン・キャラクターが紛れ込む『スペース・ジャム』のようなユニークな映像が見られるかもしれない。
(Center) Peter Parker/Spider-Man (Hudson Thames) in Marvel Animation's YOUR FRIENDLY NEIGHBORHOOD SPIDER-MAN, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Marvel Animation. © 2025 MARVEL. All Rights Reserved.
さてソニー・ピクチャーズは、『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』製作遅延中に登場したこのシリーズを意識するだろう。『スパイダーバース』の主人公はあくまでも別キャラクターであるマイルズ・モラレスだが、もちろん共通点も多い。"大いなる責任"に戸惑う若きスパイダーマン、異世界からやってきた先輩ヒーロー、コミックを表現した個性的なアニメーション。映画シリーズ2作目『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は2023年6月に公開されたが、クリフハンガーの続編『ビヨンド』は遅延を重ねて公開目処がいまだ立たず。ややもすれば「フレンドリー・ネイバーフッド」シーズン2の方が先に登場して、その世界観と人気をさらに拡大することもあり得る。
『スパイダーバース』は独自の作風を誇るが、次の『ビヨンド』では「フレンドリー・ネイバーフッド」との比較を免れないということだ。もちろん両シリーズには全く別の魅力があり、優劣をつけるつもりはない。スパイダーマンの世界を相互に盛り上げてくれるのは喜ばしいことだ。
Peter Parker/Spider-Man (Hudson Thames) in Marvel Animation's YOUR FRIENDLY NEIGHBORHOOD SPIDER-MAN, exclusively on Disney+. Photo courtesy of Marvel Animation. © 2025 MARVEL. All Rights Reserved.
「スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド」は国内であまり宣伝されていないように見えるのが悔しく感じるほど。これは「ホワット・イフ…?」のようなオムニバスではなく、連続的で、将来的な可能性も大きく秘めた新シリーズだ。マーベル・スタジオがアース616とは別に進める、もう一つのスパイダーマン物語。原作などに対する習熟度に関わらず、誰が観てもキャラクターのことが大好きになる。吹替版でカジュアルに観るのも楽しい。1話あたり実質25分ほどの全10話でディズニープラス配信中。