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外出不安のある息子が通信制高校を受験!児童精神科医アドバイスを活かした対策、試験当日までの道のり

LITALICO発達ナビ

外出不安のある息子が通信制高校を受験!児童精神科医アドバイスを活かした対策、試験当日までの道のり

監修:初川久美子

臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち

どちらを選ぶ?通信制高校選び、そして決断へ

通信制高校に進路を決めた息子のために、合同説明会や個別相談へとあちこち奔走してきましたが、ようやくA高校とB高校の二校に志望校を絞り、それぞれの学校の特色をしっかりと息子に話した上で、両校に見学に行くことになりました。

まず直近でオープンスクールが開催されるB高校へ。B高校には私だけ事前に個別相談に行っていたのですが、対応も細やかで特別支援の資格のある先生も常駐しており、障害のある生徒も広く受け入れているとのことでした。息子も楽しみにしていたのですが、冒頭の説明を聞いたところで教室から動けなくなり、その後のプログラムに参加できなくなってしまいました。仕方なく落ち着くのを待って個別相談へと移らせてもらい、授業内容やコース説明、学習環境などをお伺いしました。息子も自分でも気になったことを都度質問していました。この時点では「B高校いいな……。もう一つの学校、見学行かなくてもいいかも?」と言っていました。

その後、A高校へ。A高校は、合同説明会ですでにお話を聞いていたところで、以前に個別相談に伺った別の通信制高校でも「息子くんの状況ならこちらはどうでしょうか?」とオススメいただいた学校でもありました。A高校はB高校よりも設備や制度が整っている…という訳でもなかったのですが、ただ一つ明らかにほかの学校と違うところがありました。先生方の熱意です。こちら側が何か質問をすると、必ず息子の目を見て、息子自身に語りかけてくれます。これまで支援児ということで過剰に子ども扱いされたり、一人の人間としても見てもらえないと感じていた息子には、とても大きな出来事でした。A高校との面談のあと、帰ってきてすぐ息子が私に言ったのは……。

「A高校にする!A高校やったら行けるかもしれん!」

という言葉でした。私も、同じ気持ちでした。

願書提出…この奇跡がどうか最後まで続きますように

こうしてA高校へと進路が決まりました。外に出ることが難しい子にとって、受験は大きな難関です。特に、願書の提出は本人にとって大きな負担となります。多くの高校では本人が直接提出することが求められますが、今回私たちが選んだA高校は、どうしても本人が無理なら保護者だけでの提出も可能でした。受験に全力を注ぎたかった私たちには本当にありがたかったです。

願書受付当日、特別支援学校に朝イチで書類を取りに行き、そのまま通信制高校に私一人で願書提出しにいきました。学校の方はあたたかく受け入れてくださり、その際に面談でもお話しておいた「別室受験をしたいこと」「精神障害があり人の多いところが苦手なこと」の2点を改めてお伝えしました。別室受験についてはその場で確認を取ってくださり、当日の不安が少しでも少なく済むようにしてくださいました。

願書提出後、近くの神社で合格を祈願しました。通信制高校の場合、希望者はほぼ入学できると言われてきましたが、最近は希望者が増加していて入学できないことがあるという話を聞いたからです。ずっと外に出ていなかった息子が「高校に行きたい」「受験をする」と言ったこと自体が奇跡なので、その奇跡をどうか叶えてあげたいと必死の思いでした。お守りを購入して、受験当日に背負うリュックにぶら下げました。

「書く」ことが苦手な息子。作文はどうすればいい?

願書提出を終え、次は受験対策本格始動です!特に作文の指導方法については、先生も私もかなり悩みました。「書く」ということに激しいストレスを感じてしまう息子は、中学生の間はほぼ文字を書くということがありませんでした。しかし、パソコンのタイピングは大人よりも速いです。不登校の間に覚えたパソコンは、いつのまにか息子の大きな力となっていました。テーマは事前通知されていたので、パソコンで手早く文章を作成。おそらく15分程度で完成したと思います。パソコンでは文章を組み立てることはできるのですが、いざ紙と鉛筆を前にするとダメになってしまうので、この文章を手書きで何度も書き写して暗記する方式にすることにしました。

まず、息子が作成した文章を、作文用紙に書き起こします。そこから覚えられる文量まで削り、それを再度作文用紙に書き起こして、清書することにしました。児童精神科の先生からは「この清書作業にはお母さんは関わらないように」と言われました。なぜなら受験当日は私が側にいないからです。受験当日の空気をつくるために、私はなるべく姿を隠し、清書作業は特別支援学校の先生か、週2回来ていただいているヘルパーさんにお願いしました。

作文というと、原稿用紙全て埋めなければいけないのでは?と思いがちですが、その点はあらかじめ学校に確認しておきました。「原稿用紙一枚埋めることができなくても、たった一行でも、テーマに沿っていてこの学校に入りたい!という思いが伝われば充分ですよ」というお言葉をいただいていたので、息子の思いが伝わる渾身の文章を、負担にならない程度に練習し続けました。メンタルケアも当然怠らず、あとは本番を待つのみです!

いよいよ受験当日!緊張と不安を乗り越えて

受験前日は、学校近くのホテルに泊まりました。これは児童精神科の先生の提案でした。A高校の受験日は、ほかの私立高校と重なっているので、当日の朝、多くの受験生で混雑する電車を避けるためです。遠方の大学受験では宿泊することが一般的ですが、近場のホテルに宿泊するという発想は全くなかったので、目からウロコでした。前夜は緊張のためほぼ眠れないというアクシデントはありましたが、ホテルから徒歩で会場に向かうことができたので、安心して試験に臨むことができました。

試験会場に到着すると、先生が付き添ってくださり、保護者は別の部屋で待つことができました。付き添い受験なんてうちだけではないだろうか……という不安もあったのですが、部屋には既に何家族もいました。お話を聞いてみると、やはりわが家と同じように不登校からの受験で、外出に不安のあるお子さんとのことでした。「うちだけじゃない」そして「同じようにみんな頑張ってるんだ」と思いました。

受験はあっという間に終わり、面接は3分もかからず、作文は暗記していた通りに書けて、むしろ時間が余ったと息子は話してくれました。時間が余ったけれど、それ以上のことをしなかったのは良い判断だったと思います。もし、ここで強引に続きを書こうとして時間が足りなくなってしまったら、焦ってパニックになってしまい、このあとに控えていた面接に落ち着いて臨めなかったかもしれません。今の自分の持っている力で「無理をしないで終わらせる」ことができたのは、今後のためにも大きな経験になりました。全てを終えた息子の表情は達成感というより、疲労困憊一色でした。ふらふらになりながら試験会場を出た息子と私たち家族は電車に乗り込み、すぐに帰宅しました。息子の受験生生活は、ひとまずこれで全て終わりました。

やっと見つけた、息子の「新しい居場所」

通信制高校から、合否の封筒が来た日のことは今も忘れられません。息子ははじめあまり実感がないようでしたが、合格通知書を何度も見ては、喜びを静かにかみしめているように見えました。傍から見ると、「簡単な受験」で「受かりやすい高校」かもしれません。でも、息子はそこに行きたいと心から願って、自分のできる限りの力を振り絞り努力をしました。近年、通信制高校ではあらゆる事情の生徒を広く受け入れています。先生方も生徒の各事情を考慮し、温かく受け入れてくださっています。障害や特性があるからといって、排除という方向に進むのではなく、こうした「居場所」が少しでも増えてほしいと切に願っています。

執筆/花森はな

(監修:初川先生より)
息子くんの通信制高校受験、そして合格エピソードをありがとうございます。通信制高校が昨今注目を集めているので、学校自体も増えているように感じます。それぞれの学校が特色を持っているので、見学や体験、個別相談を通して比較検討されたのはよかったと思います。またA高校の決め手は、先生方の熱意だったとのことですが、そこはパンフレットなどでは分からないことですね。学校に見に行くことの大切さを改めて感じます。
通信制高校のニーズの高まりに合わせて、エリアによっては人気の通信制高校があり、受験に倍率がついている場合があったり、受験での求められるものが高くなった学校、早めに動き出さないと締め切ってしまう学校もあります。そのあたりについても説明会などに参加していただき、どんな準備が必要そうか、受験で問われるものは何かなどご確認ください。
多くの通信制高校では作文・面接が求められます。このあたりは中学校の先生はもちろん、教育支援センターや適応指導教室の先生方、自治体の教育相談なども対策をよくご存知なので学校や地域のリソースをぜひご活用いただき、お子さん本人とそうした先生方とで練習できるといいと思います。花森さんは児童精神科の先生の助言をさまざま活かしてご準備されていましたが、保護者がどこまでお手伝いするか、また、当日はどう会場へ向かうかなどは児童精神科の先生のご助言はさすがだなと感じました。試験会場で頑張るのはお子さん本人なので、当日に近い準備をしておくこと(保護者がそばにいすぎないのも1つ)。そして当日の交通事情も前泊するかどうかはさておき、早めに行く、あるいは同じ時間で向かう練習をしておくなどさまざま備え方はあると思います。
通信制高校や不登校生徒向けの公立学校の受験などでは、志願動機や高校で頑張りたいことを聞かれることが多いです。そうしたことへ受験という形で必要に迫られているからという理由であったとしても、準備をしておく、つまり、自分の未来に思いを馳せてどう頑張りたいかを練り、語ること。そのこと自体がとても中学3年生の子どもたちを成長させるように感じています。これから始まる高校生活のとても大事な準備と思います。確かに“入りやすい受験”の場合もあるかもしれませんが、そのお子さんにとっては人生に数回しかない受験の1つ。しっかり心の準備をして新生活が始まる気配を感じながら受験に臨めるといいと思います。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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