なぜマッチングアプリ界隈で殺人事件まで起こっているのか?某有名マチアプ立ち上げた女性CEOのキャリアが映画化
マチアプ経由の犯罪多すぎ問題
ここ数年、マッチングアプリ(いわゆる“出会い系”サービス)を経由した事件の急増が気になっている人は多いだろう。昔ながらのぼったくり誘導にはじまり、最近では不同意性交/性的暴行などが大きな問題になっているほか、2020年以降だけでも複数の殺人事件が報道されている。
性暴力に関してはインターネット上への画像/映像の共有など二次・三次被害も懸念され、多くのレイプ事件などと同じく被害者が泣き寝入りしている事案も少なくない。殺人事件に関しては突発的なものから計画的な強盗殺人まで様々だが、その発端がマチアプであるという事実は重く受け止めるべきだろう。
マチアプを発端にした事件である以上、本人確認の厳格化や通報機能などの強化は当然として、悪質なユーザーの共有や若年層への注意喚起なども求められる。とはいえ、なぜか海外拠点の詐欺誘導系アカウントが大量に野放しになっていたり、そもそもサービス自体が“課金誘導”体質だったりと、信頼に足るサービスとは言えない根本的問題も多い。
かつて女性ユーザーがプロフィール写真から居住地を割り出された事件もあったため、現在では多くのマチアプが画像をズーム/ダウンロードできない仕様になっていることはご存じの方も多いだろう。もちろん、真剣交際に発展したりマチアプ婚をしたというユーザーも多くいるのだが、女性ユーザーが身体的・精神的に“詐欺られる”ケースなど、いまだに「だって出会い系でしょ?」と揶揄される状況は変わっていない。
“女性優先の”マチアプ誕生! 革命を起こした〈バンブル〉とは
気軽な出会いを求めるサービスといえば、マッチングアプリ先進国であるアメリカ発の〈Tinder(ティンダー)〉が有名だろう。あからさまにセクシーなプロフィール画像を使用しているユーザーも多く、そのうち何割が“ホンモノ”なのか不明ではあるものの、幅広い世代が利用しているマチアプ界の暫定王者だ。
そのティンダーの共同創業者であり、のちにハラスメント被害を訴えて退職すると新たなアプリ〈Bumble(バンブル)〉を立ち上げた女性がホイットニー・ウルフ・ハード。バンブルは“女性主導のマチアプ”を謳って注目を集め、ホイットニーは男性が圧倒的優位のテック業界において最年少ビリオネアの一人となった。
バンブルは、マッチング成立後に女性側からしかメッセージが送れない点が特徴。日本のマチアプは基本的に、男性ユーザーはメッセージ一つ送るためにも高額課金を強いられるが、バンブルは(ティンダーも同様だが)通常使用で自然にマッチするうえでは金銭的な負担がなく、露骨に性的な画像は(ここはティンダーと異なり)絶対NG。これにより男女双方のプレッシャーが軽減され、かつ女性ユーザーが被害を被る確率を減らせるという利点がある。
いざ日本でバンブルを利用してみると国内ユーザーは限られていて、多くが外国籍のユーザーのようだ。ここ2~3年はインバウンドの増加によってその傾向が強まり、相当数のユーザーが真剣交際よりも語学交流やグローバルな友達探しなどに傾いているようにも感じられる。もちろんそうしたユーザー比率には何の問題もなく、実際かなり平和で心地よい環境と言えるだろう。
バンブルには「カラダが目当てならティンダーへどうぞ」などとしっかり記載しているユーザーもいて、バンブルならではのメリットが浸透している模様。2021年あたりからは株価が安定せず不調が報じられているようだが、比較的マジメな出会いを探している人は一度お試しあれ。
マチアプ大国で成功を収めた若き女性CEOのキャリア
そんなバンブルの創業者で元CEO、ホイットニー・ウルフのサクセスストーリーから着想を得た映画『スワイプ:マッチングの法則』が、ディズニープラスで独占配信中。ホイットニー役を『ベイビー・ドライバー』『パム&トミー』のリリー・ジェームズが演じ、ダン・スティーヴンスやクレア・デュヴァル、ジャクソン・ホワイトらが共演に名を連ねる。
本作は、いまやマチアプでは当たり前の機能となった“左右スワイプ”誕生秘話や、若年ユーザーを集める秘策などなど、ティンダー開発の過程を小気味よく描写。リサーチとプロモーションを兼ねて大学を訪れたホイットニーたちが、フラタニティ(男子学生)とソロリティ(女子学生)にアプリを広めていく序盤のシークエンスは、きわめて下世話ながら最高に面白い。
しかしホイットニーをめぐる状況は、いかにもテック系スタートアップらしいあからさまな男尊女卑シチュエーションへと堕ちていく。そこがこの映画の本質でもあるわけで、彼女があらゆる手柄を横取りされ、女性社員や女性ユーザーへの“トキシックな事実”にドン引きし、恋人や男性社員からのモラハラ/セクハラに追い詰められ、ついにティンダーを離脱し(辞めさせられ)てからが本番。リリー・ジェームズの鬼気迫る演技は見事で、最大の見所の一つでもある。
ドラマシリーズでなかったことが勿体なく感じるほど掘りがいのあるテーマだけに、やや性急な展開がちょっと残念ではある(マイハラ・ヘロルド演じるティシャとの絡みはハイライトの一つだ)。逆に言えば配信作品として気軽に観ることができる、ヘビーになりすぎないリベンジものとしての展開は長所でもあるだろう。
『スワイプ:マッチングの法則』はディズニープラスのスターで独占配信中