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昔ながらの木桶仕込みにこだわった「コトヨ醤油醸造元」の醤油づくり。

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昔ながらの木桶仕込みにこだわった「コトヨ醤油醸造元」の醤油づくり。

その土地で長く親しまれ続けてきた郷土料理は「ソウルフード」と呼ばれますが、今回紹介するのは「ソウルシーズニング」と呼びたい阿賀野市の醤油です。笹神地域で江戸時代から176年続いてきた「コトヨ醤油醸造元」では、昔ながらの天然酵母を使った木桶仕込みで醤油を作っています。もろみの香りが漂う醸造蔵を案内してもらいながら、10代目当主の小林さんにお話を聞いてきました。

有限会社 コトヨ醤油醸造元

小林 丈将 Takenobu Kobayashi

1978年阿賀野市(旧笹神村)生まれ。東京の飲食店で働いた後、新潟に戻って家業の「コトヨ醤油醸造元」で働きはじめ10代目当主に就任。小学生時代から野球を続けてきて、現在は高校の野球部で頑張る息子を応援している。

蔵や木桶に住み着いた酵母菌による、天然熟成。

——大きな木桶がたくさん並んでいますね。ここで醤油の元になるもろみが発酵するわけですね。

小林さん:これはすべて6尺の杉桶になります。日によって状態が違うし、桶ごとに癖も違うんです。癖のある桶は手が掛かってなかなか大変なんですよ(笑)。今日の発酵具合はとってもいい感じですね。

——昔ながらの自然まかせな製法で、醤油を作っているんですよね?

小林さん:蔵のなかや木桶に住み着いている酵母菌が、もろみを天然発酵させてくれるんです。柱や梁にある白い斑点が酵母菌なんですよ。祖母からはよく「酵母菌がうちの財産」と言われていました。長い年月を掛けて培ってきた酵母菌が、醤油に深みを与えてくれているんです。

——まるで継ぎ足しながら使っている、秘伝のタレみたいなものですね。この桶はいつ頃から使っているものなんですか?

小林さん:先日解体した際に調べてみたら、桶の板に作った職人の名前と日付が記されていました。それを見ると明治44年に作られたもののようです。今はこういう木桶を作れる職人も少なくなってきているので、大切に使わなければと思っています。

——木桶を使った天然製法だと、完成までに時間がかかりますよね。

小林さん:一般的な醤油は3か月くらいで完成するんですけど、うちは1年から1年半かけてじっくり熟成させています。ですから出荷数にも限りがあるんですよ。

——時間がかかる他に大変なことはありますか?

小林さん:空調を使わずに自然の温度で発酵させていますので、蔵内の温度が夏は暑いし冬は寒いんですよ。特に6月から9月の夏場はサウナ状態になるので、裸になって毎日もろみをかき混ぜています。新潟は春夏秋冬がはっきりしている地域なんですけど、このところ夏場の気温が上がり過ぎて発酵速度が読めなくなっているのが悩みです。

——それでも伝統的な天然製法にこだわり続けるんですね。

小林さん:そうですね。長い年月をかけて受け継がれてきたものですし、蔵で育った酵母菌の作り出す個性がうちの醤油の大きな特徴だと思っていますので。

江戸時代から続く老舗の醸造元を受け継ぐ。

——そもそも、こちらはいつ頃から続く醸造元なんですか?

小林さん:嘉永元年に初代小林豊次郎(こばやしとよじろう)が創業し、「小林」の「小」と「豊次郎」の「豊」をとって「コトヨ醤油醸造元」と名付けられました。当主は代々「小林豊次郎」の名を襲名してきたんです。

——江戸時代から続いてきたんですね。小林さんは何代目のご主人になるんでしょうか?

小林さん:僕で10代目になります。ただ最初は継ぐ気なんてなかったんですけどね(笑)

——それはどうして?

小林さん:歴史ある老舗ということで、周囲からのプレッシャーが大きかったんですよ。若いときはそのプレッシャーから逃げるように上京して、飲食店でサービス業をやりながら過ごしていました。祖母や両親は自分たちが苦労してきたので「跡を継げ」とはまったく言わなかったんですけどね。

——それなのに「コトヨ醤油醸造元」で働きはじめたのはどうしてなんでしょう?

小林さん:中途半端な生活に区切りをつけて新潟に戻ったんです。そのときに祖母から「醸造の仕事をやってみて、どうしても嫌ならやめればいい」と言われたことで、醸造の手伝いをするようになったんです。それでも跡を継ぐ気はなかったんですよね。

——跡を継ごうと腹をくくったのは、何かきっかけがあったんですか?

小林さん:苦労して「コトヨ醤油醸造元」を守ってきた祖母が亡くなったときに、「自分もこの蔵を守っていこう」と決心したんです。

——それでこのたび10代目に就任したんですね。

小林さん:代替わりをすると「味が変わった」と言われることが多いじゃないですか。あれが嫌だったので、6年ほど前からこっそり代替わりをしていたんです。でも何も言われなかったので上手く代替わりできたと思っています(笑)

伝統を受け継ぐ製品から、新しい発想の製品まで。

——こちらには、どんな製品があるのか教えてください。

小林さん:元々作っていたのは松、竹、梅の3種類だったんですけど、竹と梅の生産がなくなって本醸造醤油の松だけが残ったんです。こちらは地元の学校給食で使っていただいています。

——市販されている製品にはどんなものがあるんですか?

小林さん:まず「笹神喜昜(ささがみきあげ)」があります。こちらは「絞りたての、生娘のような醤油」という意味で「生揚げ(きあげ)」と名付けられたんですが、完全に生醤油ではないということから「生揚げ」の文字を使うのは遠慮してほしいと言われたので、「喜昜」という文字を当てた製品名となりました。

——難しい名前だと思ったら、そんな紆余曲折を経たものだったんですね。

小林さん:そうなんですよ。あと「笹神延喜(ささがみえんぎ)」があります。これは刺身に合う醤油を作ろうということで、伊勢丹研究所と共に開発した濃口醤油です。「喜昜」の「喜」をとって「延喜」と名付けました。

——どちらも製品名に「喜」という文字が使われているんですね。こちらの醤油は、もしかして「和院」と書いて「ワイン」と読むんじゃ……。

小林さん:その通りです。こちらは弊社で作っているだし醤油なんですよ。僕は甘いだし醤油が苦手だったのでみりんを控えめにして、代わりに白ワインを使っているんです。そのおかげで素材の味を邪魔しない、寿司にも合うだし醤油を作ることができました。

——それで「和院」なんですね(笑)。ちなみに小林さんが開発を手がけた製品はあるんでしょうか?

小林さん:「かければ燻製」と「柿酢と佐渡レモンの和院しょうゆポン酢」のふたつです。コロナ禍の影響で工場がストップした時期があったんですよ。そのときに「県産食品新市場開拓支援事業」というものがあることを知って、新潟県産の農林水産物を使った製品開発に挑戦してみたんです。

——そのときに生まれた製品なんですね。開発にあたって苦労はありました?

小林さん:「かければ燻製」は醤油に燻煙を入れる過程で、ベタベタして酸っぱくなってしまうことで苦労しましたね。木が燃える際に発生する木酢液が原因だとわかったので、フィルターを通して木酢液を除去する方法を考案しました。

——「柿酢と佐渡レモンの和院しょうゆポン酢」でも苦労したんでしょうか?

小林さん:僕自身酸っぱいものが実は苦手なんですよ(笑)。だから、なかなか上手くいかなかったんです。最後は開き直ってとことん酸っぱいポン酢を作ってみたら、それが良かったみたいで今までにないポン酢が完成しました。

笹神地域から全国に、伝統の味を届けたい。

——「笹神喜昜」や「笹神延喜」は、あんまり店頭で売られているのを見ないような気がします。

小林さん:天然製法のため生産数にも限りがありますし、郷土料理と同じように地元の醤油を作っていきたいという思いから、ずっと笹神地域のみで販売してきたんです。でも時代の流れと共に地元の商店も減ってきたので、市外での販売をおこなうようになりました。近頃は県外の百貨店でも出張販売しています。

——じゃあ、県外での知名度も上がってきているんでしょうね。

小林さん:人気グルメ漫画のなかでうちの醤油が紹介されたり、元キャンディーズの伊藤蘭(いとうらん)さんやジャーナリストの安藤優子(あんどうゆうこ)さんがSNSで紹介してくださったりしたおかげで、ファンの方々からの注文が増えました。とてもありがたく思っています。

——それはすごい。

小林さん:これからも地元を大切にしながら、笹神地域を代表する製品として醤油づくりに取り組んでいきたいですね。

有限会社 コトヨ醤油醸造元

阿賀野市笹岡1119

0250-62-2416

9:00-17:00

土日祝日休

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