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一見普通の一軒家、流山・源正寺で「阿弥陀さまってどんな仏さま?」を味わう真宗入門講座

さんたつ

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今回お伺いした千葉県流山市の源正寺さんは、2002年に開かれた新しいお寺です。誰でもウェルカムだという「真宗入門講座」を、コロナ禍以来久しぶりに再開されたとお聞きし、お参りしました。ご住職の不二門至浄(ふじかど・しじょう)さんは「お茶を飲みに行くような気持ちで気軽に来てほしい」と話します。

流山開教所 宝樹山 源正寺(ながれやまかいきょうしょ ほうじゅさん げんしょうじ)

ライブハウスでの法話からお寺へ

「真宗入門講座」の“真宗”とは、浄土真宗のこと。どんな人も救うという阿弥陀如来(あみだにょらい)の教えを大切にする宗派の一つです。

初心者には難しい講座や、信仰が前提になっている場もあったりしますが、源正寺さんの真宗入門講座は本当にどんな人でも迎えてくださるそう。「仏教のことを知りたい!」という気持ちひとつを携えてお伺いしました。

迎えてくださるのは、ご住職の不二門至浄さん(右)。そして、息子であり僧侶の不二門遊生(ふじかど・ゆうき)さん(左)です。三重県出身の至浄さんは、実家でもある三重県の源正寺さんの住職を兼務し、東西を行き来する日々を送っています。

源正寺さんが立つのは、流山市の住宅地。一見普通の一軒家ですが、玄関の脇に「流山開教所」の札が掛けられています。お寺の風景としておなじみの掲示板も。

毎月変わるという掲示板の言葉に励まされます。過去には浄土真宗の中興の祖・蓮如上人(れんにょしょうにん)の言葉もあれば、現代を生きる有名人や、『ドラえもん』ののび太の言葉なども。

至浄さんは、25年前より仏教情報センター相談員として活動されているほか、大阪発祥の「坊主バー」の設立者から声をかけられ、現在四ツ谷にある坊主バーにも出資。お店の立ち上げに関わり、カウンターに立たれたご経験もあるのだとか。

2002年にお寺を開くまで、お寺の幼稚園でお仕事をされているとき、先輩僧侶から浄土真宗寺院がない流山市での布教活動を勧められ、1999年から喫茶店やライブハウスなどの場を借りて法座を開かれていたといいます。そこで出会った人やご近所の方から「あそこだったら場所を貸してくれるよ」と教えてもらいながら活動されてきたそうです。

現在も、「スローナイト」と題してレストランなどに僧侶の方を招いてお話を聞き、参加者も交えて語らう会を主宰(写真提供=源正寺)。
至浄さんと共に、こまやかな心遣いで接してくださる遊生さん。僧侶になる前は介護の仕事をされていた。「お寺は、年齢も今までやってきたことも違う人たちが集って、辛さや悲しみを共有して話せる場」と話す。

そんなご経歴もあって、至浄さんがお寺を開いたのは「場を開きたい」という思いから。ご自身が教えを伝えたいというより、いろいろな方をお招きし、参加したみなさんと共に学び、語り合い、聞き合える場を作りたいという思いがあったのだそうです。

誰でもウエルカム!な仏教講座

そしていよいよ、講座当日。今回お越しになったみなさんは浄土真宗の信仰をお持ちの方々でしたが、不思議と全く気後れすることなく過ごすことができました。

講座と聞くと、前に先生が立っていて、後ろで生徒が聞く学校のような感じをイメージしますが、このようにお茶を囲みながらの輪読会という形式をとられています。

使用するテキストは、『真宗児童聖典』という書籍と「正信偈(しょうしんげ)」です。

まずは御本尊の阿弥陀さまを前に、声を合わせて正信偈をとなえます。

正信偈は、お釈迦さまが説いたお経ではなく、浄土真宗の開祖、親鸞聖人(しんらんしょうにん)の著書に収められた歌です。「ひと昔前、田舎ではお念仏や和讃などの歌を口ずさみながら農作業をされておったと聞きます」と至浄さん。

読み方を教わらなくても、みなさんと声の調子を合わせながら、自然に導かれる感じでついていくことができます。漢文と現代語訳の対訳になっていて、音楽と国語と外国語と道徳の授業を同時に受けているような楽しさがありました!

続いて、『真宗児童聖典』の輪読会に移ります。この本は、100年ほど前にお経の言葉を子供向けに訳したものを、現代の人たちが読みやすい言葉でまとめ直したものだそうです。浄土真宗だけでなく、浄土宗など他の宗派でも広く読まれている「浄土三部経」と呼ばれる3つのお経と、さきほどの「正信偈」が収められています。阿弥陀さまとはどういう仏さまなのか、極楽浄土とはいったいどんなところなのか。そんなことが物語形式で綴られています。

開くと、まず「君たちへ」という言葉から始まるページが。参加者全員で声を合わせて読みました。

3行目の「君はつらく悲しいことにも出会うかもしれない」という言葉に、大人から子供たちへのあたたかなメッセージを感じて、思いがけず目に涙が。大人になると音読をする機会はほとんどありませんが、こうしてみんなで声を合わせて読むと、目で読む以上に染み入るものがあるのかもしれません。

そのあとは、「じゃあ〇〇さん、お願いします」という学校の先生のような至浄さんの合図に従って、数行ずつ順番に1人で音読します。久しぶりに小学生に戻ったような、ピュアで新鮮な気持ちに。

今回読んだ『無量寿経(むりょうじゅきょう)』というお経のページには、昔、ある王様が悟りを開きたいと願い、王の地位を捨てて法蔵(ほうぞう)という名の菩薩となり、さまざまな誓いを立てたという話が書かれていました。その法蔵菩薩がのちに悟りを開き、阿弥陀如来になったのだそうです。

過去の人にも未来の人にも届く阿弥陀さまの願い

休憩を挟んで始まった座談会では、本を傍にお孫さんとの思い出を語る方もいれば、長年続けていた習慣を止めたというお話にみんなで盛り上がる場面も。至浄さんがご覧になった芸人さんの話に感銘を受けたエピソードや、遊生さんが働いていた介護施設でお年寄りが「正信偈」を覚えていて口ずさんでいたという思い出のほか、こんなやりとりもありました。

参加者の方:お経の中に「東方」という言葉が出てきますね。次は南、西、北、その次が下、上。その後ろに仏さまのお名前がいくつも出てきますよね。それぞれの方角にたくさん仏さまがおられるんだなと想像しながら読みました。

至浄さん:そこにグッと引っかかってくださったんですね。これは、東南西北上下とあらゆる世界の仏が 阿弥陀の誓願(仏さまになるために誓ったこと)を褒め称えている様子が表現されているんですね。もっと言うと、阿弥陀さんが誰に向かって届けたいのかを表しているんです。そして東西南北に上と下が加わっているのは、西の人にも、北の人にも、過去の人にも、未来の人にも届いているという証なんですね。

──今のお話をお聞きして思い出したのですが、うれしいことがあったり、自分が成長したなと思えたりすると、過去の嫌だったことや悲しかった思い出の意味が反転するときがありますよね。必要なことだったと納得できたり、相手のことを許せたり。それが、今お聞きした“過去に届いた”ということなんでしょうか。

その通りだと思います。本当に過去が変わるわけではないんですけれども、過去が助かるというか、今にして思えば違って見えてくるという。

「愚者になりて往生す」という法然上人のお言葉を晩年まで大切にした親鸞聖人。

──阿弥陀さまや極楽浄土のことは、普段のご法事などではどのようにお話しされているのでしょうか。

ひとつ印象的だったエピソードがありまして。法事の席で、小学6年生の方から「お坊さんはこれを信じてるんですか」と言われたんです。「僕はね、信じてないとも言えんけれども、『嘘じゃないな』って感じるんだよね」という話をして。数年後の年忌法要で再会した時にその話をしたら、「僕、そんなこと言ってたんですか?」ってめっちゃ忘れてました(笑)。でもこのことがね、今も僕の大事な問いになっているんですよ。仏さまが僕らに「信じなさい」とメッセージを送っているのではなくて、仏さまのほうから僕たちに「信じてるよ」っていうメッセージを送ってきてるんだよ、という話をしましたね。

「胸の前で手を合わせるのは、『自分の弱さやうまくいかなさもちゃんといただきなさい。そこにあなたが在りますよ』という仏さまのメッセージをいただく姿。阿弥陀さんに敬意を表すると同時に、自分自身をいただく。衆生を敬い手を合わせている仏の心をいただくという感じですね」と至浄さん。

至浄さんの柔らかい語り口と、このエピソードがじんわりと心に残っています。入門講座と至浄さんのお話を経て、阿弥陀さまは“絶対に子を見捨てない親”のような存在なのかな、と感じるようになりました。訪れるたびに、ほっとする気持ちがひとすじひとすじ染み込んできそうな“真宗入門講座”。また訪れたいので、みなさんもぜひ!

次回は、東京都新宿区牛込柳町の日蓮宗のお寺、経王寺さんに伺います!

不二門至浄さんプロフィール

1970年三重県生まれ。大谷専修学院卒業。縁あって28歳からお寺づくりに取り組む。真宗大谷派流山開教所代表。真宗大谷派首都圏教化推進本部員、首都圏広報誌『サンガ』編集委員。一社)仏教情報センター相談員。

流山開教所 宝樹山 源正寺(ながれやまかいきょうしょ ほうじゅさん げんしょうじ)
住所:千葉県流山市三輪野山1-1102-3/アクセス:流鉄流山線流山駅から徒歩15分、つくばエクスプレス・JR武蔵野線南流山駅北口から東武バスセントラル「流山おおたかの森駅西口(南流02)」行き13分の「三輪野山」下車3分、またはつくばエクスプレス・東武鉄道東武アーバンパークライン流山おおたかの森駅西口から東武バスセントラル「南流山駅(南流02)」行き8分の「三輪野山」下車3分 ほか

取材・文・撮影=増山かおり

増山かおり
ライター
1984年青森県生まれ。かわいい・レトロ・人間の生きざまが守備範囲。道を極めている人を書くことで応援するのがモットー。著書『東京のちいさなアンティークさんぽレトロ雑貨と喫茶店』(エクスナレッジ)等。

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