厚労省の「年金給付底上げ案」が増税を引き起こす可能性
11月26日の「おはよう寺ちゃん」(文化放送)では、火曜コメンテーターで上武大学教授の田中秀臣氏と番組パーソナリティーの寺島尚正アナウンサーが、厚生労働省による年金の給付水準引き上げについて意見を交わした。
経済運営が20年間ぜったい失敗しない前提じゃないと全部崩壊します
厚生労働省は11月25日、厚生年金の積立金を基礎年金(国民年金)の底上げに活用し、基礎年金の給付水準を3割程度引き上げる案を示した。「1階部分」の基礎年金の給付額を増やすことで、「2階部分」の厚生年金を受け取る人の大半も、年金の総額は増えることになる。
厚生年金の受給者は一定期間の受取額は減るが、厚労省は部会で、1993~2004年頃に就職した「就職氷河期世代」以降の人が年金を受け取る時には、基礎年金を含めると、増額になると説明した。
平均的な賃金で40年間働いた会社員の夫と専業主婦の夫婦2人の世帯の場合、現在30歳の人が年金を受け取れるようになる59年度の年金額は月23・7万円(基礎年金14・0万円、厚生年金9・7万円)で、改革しなかった場合の21・3万円(基礎10・8万円、厚生10・5万円)より多くなる。
基礎年金の財源の半分は国庫負担で賄われるため、追加で40年度に5000億円、50年度に1・7兆円、60年度に2兆円の財源が必要となる見込みだ。
(寺島アナ)「“受け取る年金が増額になる”ということですが、田中さん、この辺りどうお考えでしょう?」
(田中氏)「“受け取る年金が増額になる”と聞くと良いことみたいに思うんでしょうけど、実際には厚労省の年金財政の失敗なんですよ。今の年金制度って今現在働いている現役世代が今現在の引退世代を年金給付っていう形で支えるんです。将来、少子高齢化が進んでいきますよね?だから少ない現役世代でたくさんの引退世代を支えなきゃいけないわけですよ。そうすると現役世代の負担がすごく大きくなるからなるべく年金の受給額を減額しておこう、つまり景気の進展と合わせて将来の年金の負担を減らしておこうという“マクロ経済スライド”を小泉政権のときにやろうとしたんですね」
田中氏はこの“マクロ経済スライド”の問題点を解説。
(田中氏)「“マクロ経済スライド”には重大な欠陥があって、デフレ経済のときには機能しないんです。だから20年間まったくストップしていました。だからこれから再稼働しよう、という話なんですけど、しかし“マクロ経済スライド”は相変わらずデフレになったらストップする制度のままです。だから今、厚労省が言っている“将来的に年金の受け取りが増えるよ”と言っているのは“マクロ経済スライドが順調に機能したら”という前提があるんです。つまり経済運営がこれから20年間ぜったい失敗しない、という前提ですよ。そうじゃないと今言ったシナリオは全部崩壊します」
(寺島アナ)「経済成長し続けて、っていうことですよね」
(田中氏)「“マクロ経済スライド”が、多少景気が悪くても年金受給の減額を毎年しっかりやっていくと設計しないといけないんですが、そういうことはできません。あともう一個、“年金の受給額が増える”と聞くと一瞬喜びますよね?でも、国費の負担=増税をしないといけないんですよ。でも増税のメニューについて厚労省はまったく棚上げです。これは“三党合意”で消費税を上げたときのパターンと全く同じです。あの時も国費の負担部分は増やすんだけど具体的な税項目は丸投げしたんですけど、財務省は民主党政権の末期に電撃的にやりましたよね?ああいったことが今後も議論されて、恐らく所得税・消費税・金融所得課税、ここが草刈り場になる可能性があります」
〈出典〉
厚労省が基礎年金の給付水準3割引き上げ案…厚生年金の積立金を活用、将来は年2兆円規模の財源必要 |読売新聞(https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241125-OYT1T50126/)