20年目だけどフレッシュで、今の自分たちを示せる1枚になったーー9mm Parabellum Bullet・菅原卓郎が語るアルバム制作
9mm Parabellum Bulletが今年結成20周年を迎え、通算10枚目のアルバム『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』をリリースした。9年ぶりの日本武道館公演や「9」日と「19」日にライブやYouTube配信を行うなど、お祝いムードで走ってきた昨年の結成19周年から続く20周年。7月にはファン投票によるデジタルベストアルバムをリリース、ライブ活動もいつものように精力的に行ってきた。一見多忙のように思えるが、菅原卓郎(Vo.&Gt)は「バンドにとって良いペースでやれてます。全部楽しい」と笑顔を見せる。今回は、キャリアを重ねてもなお面白く向き合い、作詞の真髄をも掴んだというアルバムの制作話を語ってもらった。
●コロナ禍を抜けて気付き直したこと
ーー今作は20周年で10枚目のアルバムで、不思議と新鮮さも感じる1枚でした。アルバム制作中のインタビューで「こういうことができるんだ」が、まだできているとおっしゃっていましたが、ご自分でも新鮮さを感じておられるところはあるんですか?
そうですね。風通しが良いなと思って。良いものを作るために試行錯誤はしたけど、アルバム作業が難航することはなくて。20年分の経験や、自分たちが自然に力を発揮できるやり方を見つけられてきたなと去年ぐらいから思っていました。今作を作ってる時もそこがスムーズにできたので、肩の力が抜けて、20年目だけどフレッシュなアルバムに繋がってるんじゃないですかね。
ーー去年気付きがあったんですね。
コロナが明けて、去年の5月ぐらいから、やっと国の基準関係なく「もうマスクしなくてもいいよ、歌っていいよ」とオープンになりましたよね。そこから皆の声がライブでもばっちり聞こえるようになったことは大きい気がします。「前にライブしてた時ってこんな感じだったよね」ということが、時間を置いてもう一度始まったことで、「これって本当はこんなふうに感じていた経験だったんだ」というものを見つけ直して感じることが多かったのかな。いつも通りやりたい活動をできるようになって見つけたことや、感じたことのような気もします。
ーーこういうアルバムにしたいという構想はありましたか?
「10枚目だから」ということはあまりなくて、いつも9mmは「前のアルバムがこうだったからこうしよう」という方が大きいですね。前作『TIGHTROPE(2022年)』はコロナ禍に作った曲や、コロナがだんだん明けて、少しずつ元の活動や自分たちの思うことができるようになったかなと変わりゆく頃の気持ちで作ったアルバムだったので、やっぱりちょっとダークで。自分でもまだカラッと明るい元気な曲を聴きたいと思わないし、ファンの皆やこれから9mmに会う人たちも、そういうものを聴きたいわけじゃないんじゃないかなと思って。だから当時の自分たちなりに「ここが共通項だよね」と思えるものとして作ったんですよね。そこから今は「どんな気持ちも共有できるよね」という状態になったから、作品もフレッシュなものになった。そういうのが結構素直に表れるバンドなんだなと(笑)。
ーーそれで「自由」がタイトルに入っているんですか?
コロナ禍は皆すごく不自由でしたよね。選択肢がなくて選べるものが限られてるのが1番苦しいことだなと思ったので、タイトルは「叫び -The Freedom You Need-」の<君が君でいるためには自由が必要だろ>という歌詞から取ったんです。
ーー「叫び -The Freedom You Need-」は、来年春にリリース予定のNintendo Switch向け新作タイトル『レッドベルの慟哭』のOPテーマです。タイアップだけどもアルバムにも入るという点で、制作で意識されたことはありますか。
タイアップのお話があった時にいつも気を付けているのが、タイアップや作品の世界観に100%合ってるけど、100%9mmの曲でもあるということ。どっちが入口になっても、作品の中で楽曲を楽しめるものにしたいということ。9mmの曲とゲームのOPテーマの両立を目指していて。曲を作ってる時ゲームはまだ完成してなかったから、プロットとキャラクター設定、「大きくこんなストーリーになります」という台本に近いものをいただいて書きました。
ーーさらに「朝影 -The Future We Choose-」は同ゲームのEDです。
そうそう。ゲームをほとんどしないので「ゲームにOPとEDってあるの?」と思ったんですけど(笑)。でも僕も滝(善充/Gt.)くんも、お題があると作るのがすごく早いタイプで、その力も借りて作ったら「タイトル出てきちゃった。良い刺激をありがとうございました!」みたいな感じですね(笑)。
ーー「叫び」も「朝影」もストーリー性のある楽曲展開ですね。
そこはやっぱり滝くんが、曲の中にフックを作りたくて入れてるところだと思います。「朝影」はオーダーの中に「色んな経験をくぐり抜けてきたけど、仲間たちと朝の風景を眺めていて、良いことだけじゃなくて悪いこともあったというイメージです」と書いてあって、「そういう歌詞、俺1回書いてる!」と思って(笑)。「The Revolutionary(2010年)」なんですけど、このままじゃダメかな?みたいな(笑)。でも「The Revolutionary」を別の角度から見たらいいんだと思って。だから9mmとすごく関係がある曲で1曲作れたんです。それも面白いですよね。
ーーゲームが未完成の状態で曲を書くって、なかなか大変ですね。
先方は「曲を聴いて絵を描きたい」とおっしゃってて、なるほどと思いました。曲によってアニメーションをどう動かすとか、きっとあるんだと思います。でも完成したゲームのストーリー展開が大きく変わっていなければ、すごくゲームに合ったものになってるはず。実際、制作側から「バッチリの曲をありがとうございます!」ときたので、平気だと思います。
ーー「朝影」は5分29秒と長めですが、EDだからですか?
そうですね。「EDテーマを作る!」と思って書いてました。
ーー尺の指定はなかったんですか。
指定はなかったです。ドラマやアニメとは違うので、ゲームの中に全部おさめられるんでしょうね。9mmにとってもすごく良い楽曲が生まれたので、良かったです。
●ミュージシャン仲間にも大人気の「幻の光」
ーー個人的に「幻の光」が好きなんです。日本人に響く歌謡ロックといいますか。
そうだと思います。「ユーミンみたいな曲な気がするから、ユーミンみたいな歌詞で、歌い方もユーミンみたいにしよう」と言って録ってたら、滝くんが「今まで聴いたことない声で歌ってる」と。ユーミンの声の出方って不思議なストレートさがありますよね。そういうところを気にしてやってみたら面白い結果が出て。エンジニアさんもリバーブ感にすごくこだわって、日本の80’s歌謡曲になる狭間の感じがうまく出ました。日本人にはやっぱりそこが響くのかなという気がします。
ーーDNAに刺さっている感じがします。
実はこの曲、人気あるんですよ。周りのミュージシャン仲間にもすーごい人気者。スペースシャワーTVの20周年特番(10月24日放送)で、UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介(Vo.&Gt)と凛として時雨のピエール中野くん(Dr)、MOROHAのアフロと対談した時、「アルバムで気になる曲は何ですか?」と聞いたら、3人とも「幻の光」で。
ーーそういう時は嬉しいものですか?
嬉しかったですね。その3人は9mmをよく知ってるので、9mmの中のこういう要素が前面に出てる曲が珍しいと感じたんじゃないかな。
ーー名曲ですね。
名曲です。だから色んな人にカバーしてほしくて。女の人が歌うのもいいと思うし。
ーー違う良さが出てきそうですね。ぜひ企画をやってほしいです。
カラオケ企画やろうか(笑)。
●「歌詞を書くとはこういうことだ」という真髄が見えた楽曲
ーー「Domino Domino」も良い曲ですよね。
「Domino Domino」の歌詞を書いてる時に「これ、何すればいいわけ?」とちょっと悩んでたんです。<願いごとを ひとつひとつ 並べていく ドミノにして>という歌い出しなんですけど、ただドミノを並べるんじゃなくて、願いごとをドミノにして並べることが、作詞することの真髄だと思って。つまり、それがどういう状態なのか全く説明できないんですけど、「ただ願いごとを並べて列挙することと、ドミノにして並べるのは歌詞の世界でしか起きないこと。だから歌詞の世界が立ち上がる瞬間って、こういうことを言うんだよ、菅原くん!」って。
ーー自分の中の自分が言うんですか?
そうそう。自分で「これどういう歌詞にすればいいわけ?」「ドミノね」「じゃあ何でドミノ並べるんだ?」「願いごとを好きなだけ書いて、それを並べることにしよう」「これ歌詞じゃん」というふうに、歌詞になる瞬間を観測した感じです。
ーードミノの曲にしようというのは?
「ドミノ倒しをして何か起きるような曲かな」とメモにアイデアがあって。「でも何で?」と自分に聞いて書くんですけど「これが歌詞を書くってことだよ!」と自分で言ってました(笑)。この間、a flood of circleの(佐々木)亮介と「歌詞書く時って、毎回ゼロからにならない?」という話をしてたら「わかる」と言ってて。たくさん歌詞を書いてきてるのに、毎回作詞を始めようとすると「どうやって書けばいいんだっけ」となるところがあって。でも「Domino Domino」で「歌詞を書くのは願いごとをドミノにすること」と1つ基準ができて、これからはそれを思い出せばいいやと思いましたね。
ーーサウンド自体は結構シンプルな気がしますが、惹きつけられるフレーズの妙があって。アウトロは面白い展開で終わっていきますね。
レコーディングや歌詞を書く前に、僕と滝くんの中でイメージを掴みやすくするために「これって今まで作った中だとあの曲の仲間だよね」と分けるんですけど、この曲は3枚目のアルバム『Revolutionary(2010年)』の「光の雨が降る夜に」という曲に近いのかなと感じてましたね。
●20年目の名刺代わりになるアルバムになった
ーー最後を締め括るのは「Brand New Day -Album ver.-」ですが、アルバムバージョンにする時に意識したことはありましたか?
演奏部分に少し追加したフレーズがあるだけで、実は大枠は変わらないんです。「カタルシス -Album ver.-」は結構ミックスが違うけど、どちらも録り直していなくて、アルバムバージョンのミックスになっています。
ーー結成19周年にリリースされた「Brand New Day」が最後に入っていることで、20周年のお祝いと、先に進んでいくぞという気持ちが感じられます。
まさにそうで、「Brand New Day」は19年の歴史を歌うつもりで書いたわけじゃないんですけど、結果的に「自分たち頑張ってきたよね。これからも良いことあるといいよな」という歌詞になって。で、ライブで演奏すればするほどエネルギーがある曲だなと感じるようになって。19周年の時に作ったけど、20周年でもそう感じられると思うし、21周年でもその先でも、過去もこれからも祝福できるような曲だなと思ったので、アルバムのエンドロールみたいに聴こえるといいなと思って最後にしました。
ーー本当に地続きですね。今作は9mmの歴史の中でどんな1枚になりましたか。
アルバムを先に聴いた友達が、インディーズの頃の作品と聴き比べて「初めから9mmは9mmだったんだね」と言ってくれて、それがすごく良い褒め言葉だなと思ったんですよね。9mmの良さは初めから出てて、自分たちでもそれをわかっていて、そこをなくさずによりクオリティの高いものを作れた証かなと思って。なので、20年目で「9mmってこういうバンドなんですよ」と聴いてもらうのに良いアルバムになったなと思いますね。
ーー20年目の名刺代わり、素敵ですね。そんなアルバムを提げて11月9日から来年3月17日の結成記念日までツアーが行われます。
9mmは僕が21歳の時に始めたので、9mmをやってる期間が自分が生きてきた人生より長くなっていくんです。9mm Parabellum Bulletのメンバーは4人だけど、9mmというバンド自体はもう4人だけのものじゃないと感じることがすごくあって。「9mm」という人間がいるように感じる。色んな人の一部分にしてもらってるようなものだから、それを21年目、22年目……どう続けていくかはわからないですけど、また一緒に体験できるようにお祝いできる日になればいいなと思いますね。
取材・文=久保田瑛理