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令和の時代に「エースで4番」を体現した甲子園のスター│山田陽翔(2021・2022年、近江)

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令和の時代に「エースで4番」を体現した甲子園のスター│山田陽翔(2021・2022年、近江)

今シーズン4月3日に1軍デビューを果たすと、初勝利・初ホールド・初セーブを記録し、存在感を放っている西武の高卒3年目リリーバー・山田陽翔(はると)。プロで成長を遂げる彼の原点は、近江高校(滋賀)時代の濃密な経験にある。エースで4番として苦境を乗り越え、甲子園で観客の心をつかんだその歩みを、『データで読む甲子園の怪物たち』(ゴジキ著:集英社刊)より紹介する。

甲子園に3季連続出場し計11勝

 令和の時代に「エースで4番」として活躍した山田陽翔(現・埼玉西武ライオンズ)は、近江を夏の甲子園で2年連続ベスト4、春は準優勝に導いた。山田自身も計11勝を記録したのだ。そんな山田だが、兄は名門大阪桐蔭に通っていた。

 しかし、山田自身は近江に進学した。山田は1年からその実力でベンチ入りし、秋の大会では主力になっていった。しかし、山田は1年生エースとして苦しい時期もあった。秋の近畿大会の初戦の神戸国際大附戦は2対5で敗れ、センバツ出場が極めて厳しくなった。その試合で決勝打を打たれたのは山田だった。さらに翌春の県大会3回戦で立命館守山に敗れ、夏のシード権を逃したときも痛打を浴びたのは山田だった。

 山田の1学年上の岩佐直哉が「普段から堂々としていて強気なヤツなのに、あの頃は何かが違っていました。自分が3年生になって山田が2年生になったばかりの頃も調子が上がらない時期が続いて、正直〝山田はもう無理なのかな〟とか思ったこともあったんです。表には出さないけれど、そばで見ていて苦しそうな雰囲気は感じました」と発言するほどだったそうだ。しかし、その後はさらに成長し2年夏の県大会では4試合21イニングを投げ1失点。打者としても2本塁打を放つなど、投打で圧倒的な数字を残し、夏の甲子園出場を決めたのだ。

 2年の夏の甲子園では、1学年上の岩佐とダブルエースで挑む。初戦は山田の投打にわたる活躍で勝利し、2回戦の相手は大阪桐蔭。初回こそ先制を許すが山田は6回まで粘りのピッチングを見せる。試合終盤にかけてジリジリと追い上げて逆転。リリーフの岩佐は3イニングをほぼ完璧に抑え勝利する。3回戦の相手は強打の盛岡大附だが、山田のピッチングが冴え渡る。速い変化球を上手く活かし、6回89球を投げて強力打線から10奪三振・2失点の好投を見せた。この試合は3番に一つ打順が繰り上がったが、先制タイムリーを含む2安打の活躍を見せた。岩佐が大阪桐蔭戦で見せたピッチングが山田に刺激を与え、二人で15安打を浴びながらも勝利する。

 準々決勝の神戸国際大附戦では山田に甲子園初ホームランが出て、最後までもつれた試合だったがなんとか勝利しベスト4に入る。準決勝で優勝した智辯和歌山に敗れたものの、この試合では唯一の得点となるタイムリーを記録。山田の甲子園はこの年だけでは終わらなかった。

神戸国際大付戦で本塁打。投打二刀流で才能を見せた

 山田の肘は限界がきており、秋季大会は登板なしに終わる。新チームは近畿大会ベスト8にまで勝ち上がるが、甲子園出場とはならなかった。しかし、新型コロナウイルスの影響で京都国際の代わりに緊急出場となる。この話題も追い風となり、前年夏に活躍を見せた「近江・山田」はこの年の甲子園の主人公になるのだ。

 山田がいた世代は、山田のワンマンチームだったため「投げさせすぎ」が議論されセンバツでも賛否が分かれた。ただ、このときの山田はまさに投げて打って走って守れることを見せつけ、「甲子園の主人公」ともいうべき雰囲気を醸し出していた。

「主人公力」が決め手でセンバツ決勝へ

 初戦の長崎日大戦からいきなり延長13回165球を投げきり決勝打をあげ、甲子園の主人公にふさわしく華々しい勝利で飾る。2回戦の聖光学院戦では試合序盤こそ不安定だったが、前の試合の球数を考慮し、力を抑えながらも球数も軽減するピッチングを披露。87球で完投勝利をあげる。準々決勝では前年秋に敗れた金光大阪にも勝利した。

 しかし、準決勝の浦和学院戦は序盤から球が高めに浮いていた。そのため、低めに落ちるボールを多投する傾向が見られたものの、疲れの影響もあってか、ストレートは130㎞/h後半のままで変化球も高めに浮いてしまう。苦しいピッチングが続くなか、5回裏に山田は足に死球を食らってしまう。筆者が映像で見ていても、非常に大きな音が聞こえたため、重大な怪我なのではないかと思わされる場面だった。山田は、臨時代走を出す形で一度ベンチに下がることになるも次の回も足を引きずりながら、引き続きマウンドに上がった。足をかばっている影響か変化球は5回よりもさらにキレが悪くなっていたものの、なんとか無失点に抑えた。

 この投球によって山田は球場の雰囲気に味方につけ、調子を取り戻していき、8回裏には145㎞/hを計測。9回も浦和学院打線を抑え、延長戦に突入した。最終的には近江は11回裏に疲れが見えはじめた金田優太(現・千葉ロッテマリーンズ)を攻め立て、最後は山田とバッテリーを組んだ大橋大翔とがサヨナラスリーランホームランを放ちゲームセット。近江は、一人のエース頼りなのが不安材料だったものの、打撃陣の勝負強さと守備陣の奮起が山田の力投を盛り立て、それが球場をも味方につけた。足を引きずる山田を投げさせた近江を手放しで称賛することも、エースの宮城を温存した浦和学院の采配を間違いとも言いきれないが、一つだけ言えるとしたら山田の「主人公力」が決め手になった試合だった。

 決勝の大阪桐蔭戦の山田は今大会初めて4番ではなく「9番・投手」として出場。この打順変更からは、山田を早めに降板させるつもりだったことがうかがえる。準決勝まで全試合完投し、昨日の準決勝でデッドボールを受けて足に不安が残る山田は、明らかにベストなコンディションではなかった。山田は序盤でマウンドを降り、チームも準優勝に終わった。ただ、この大会は山田の活躍が大きく報道され、「二刀流」としての知名度を上げ、甲子園の主人公として夏も期待された。

大阪桐蔭とのセンバツ決勝。松尾汐恩(現DeNA)に本塁打を打たれる。

打たれる姿も華やかな山田

 順調に勝ち上がった近江は夏の甲子園も出場を決める。山田の150㎞/h近いストレートとスプリットなどの速い変化球が中心の投球スタイルは、高い奪三振率を誇った。初戦の鳴門戦は先制を許すものの、毎回の13奪三振を記録するピッチングを見せ、打っては2安打・1打点の活躍で上々のスタートを見せた。次の鶴岡東戦も立ち上がりが不安定で一時はリードを許すが、4回以降は立ち直り12奪三振を記録。この試合も打点をあげた。3回戦の海星戦もリードを許すが、山田の満塁ホームランなどで勝利する。ここまでは投打ともに高いレベルの活躍を見せた。

 準々決勝は世代ナンバー1スラッガーの浅野翔吾を擁する高松商との対戦になり、注目度が非常に高い試合になった。初回に山田のタイムリーで先制するが、3回に浅野がバックスクリーンにホームランを放つ。実力としては浅野が一つ二つ上なのがわかる勝負だった。それもあり、終盤の7回に浅野を敬遠するのだ。チームの勝利を優先したがゆえの選択だろう。

この試合で対戦した浅野は「山田から打ったホームランは、会心の当たりでした。バッティング自体もそうですし、配球を読んでアウトコースのストレートを確実に捉えられたことも含めて良かったです。4打席目の敬遠はちょっとびっくりしましたね。山田が敬遠するんか! って思って(笑) 」とコメントし、山田からのホームランにかなりの手ごたえを感じていた。最終的に山田は10奪三振を記録したものの、自責点6。苦しい試合になったが、星野世那の好リリーフもあり、なんとか勝利した。

 準決勝は大阪桐蔭に勝利した下関国際に力負けを喫するも、この年の甲子園は間違いなく山田を擁する近江に注目が集まり続けた。甲子園でのピッチングは、完璧に抑えた上での完封勝利はないものの、打たれる姿を含めて華やかさも兼ね備えている。人気の面を見ても、申し分はないだろう。2022年の甲子園において、「甲子園を味方につける」存在になりつつあった。声援は、試合や大会が進むごとに山田や近江を後押ししていた。中学時代からチームメイトで副将も務めた津田基から「野球においては、ここまで頼りがいのあるやつはいないと思います。いつも何かやってくれそうな雰囲気を持っています。山田がいなかったら3回も甲子園に行けなかったですよ」とコメントされるほど山田頼りなのが不安材料だったものの、打撃陣の勝負強さと守備陣の奮起が山田の力投を盛り立て、それが球場をも味方につけた。相手チームも試合後には近江を手放しで称賛することも含めて、山田の「主人公力」が感じられた甲子園大会だった。

 また、データを見るとトップクラスだとわかる。山田の甲子園通算成績は以下(次ページ)の通りになる。

注目は奪三振数

山田陽翔の甲子園での成績。出場3回とも5試合に登板

15試合 112回 1721球 115奪三振 四死球42 自責点39 防御率3.13 被安打率7.39 奪三振率9.24 四死球率3.38

この成績で注目をしたいのは、奪三振数である。115奪三振は、歴代3位の記録だ。 歴代記録(TOP10)は以下のようになる。

 1位:桑田真澄(PL学園)150
 2位:島袋洋奨(興南)130
 3位:山田陽翔(近江)115
 4位:柴田勲(法政二)113
 4位:石井毅(箕島)113
 6位:斎藤佑樹(早稲田実)104
 7位:尾崎行雄(浪商)102
 7位:田中将大(駒大苫小牧)102
 9位:奥川恭伸(星稜)100
 10位:荒木大輔(早稲田実)97
 10位:松坂大輔(横浜)97

 この成績を見ても、三振を取る能力は歴代的にトップクラスなのがわかる。防御率は3点台と多少高めに見えるが、大会終盤の疲労の影響もあるだろう。分業制がメインになりつつある高校野球において、一人で投げ抜きながら、この成績は非常に素晴らしいものがある。大会を通した力配分を意識して、スプリットなどの速い変化球を主体に組み立てるなど、ピッチングを通してクレバーさも見受けられた。試合のなかで見ても、状況に応じて配球を変えることや判断力・対応力の高さは長いシーズンを戦うプロ野球でも活かすことができるだろう。

 現在の高校野球では、球数制限があるなかでの戦略で、20〜70球前後を3〜4人でつないでいくチームが増えつつある。投手として守られる部分はあるが、山田のような馬力があり、完投能力が高いスーパーエースの存在は、非常に価値が高く魅力的に感じる。球数の多さは賛否両論あったが、スタミナや変化球、フィールディングは高いレベルに達しつつある。球速をもう少し上げることにより、早い段階で1軍でも活躍できるレベルに達することができるのではないだろうか。2025年はリリーフの一角として好投をみせているが、甲子園のスターとして活躍をした山田がプロ野球の世界でも活躍していくことに期待していきたい。

本文は『データで読む甲子園の怪物たち』(ゴジキ著:集英社刊)より。

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