2024年シーズンのジュビロ磐田を総括。かつての名門はJ1基準に達していなかったのか
【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジュビロ磐田の戦いは1年での降格という結果に終わった。横内昭展監督が“最低目標”としていた勝ち点40に満たず、得失点差は−21。細かい問題点を挙げたらキリはないが、総合的に見ればチームの基準が、J1のそれを下回っていたということだ。
もちろん、その差が最終的に残留を決めたチームとかけ離れていたわけではなく、38試合を振り返れば「ここを切り抜けていれば」「ここで、この選手の欠場が無ければ」と思い当たるものはある。夏に移籍した選手が磐田に留まっていたら、後半戦のヒーローになっていたかもしれない。
命運をかけた2試合
5月6日に行われたアウェーの東京ヴェルディ戦ではエースのジャーメイン良が頭部を負傷。PK失敗の後にリカルド・グラッサが一発退場、そして後半アディショナルタイムに勝ち越しゴールを許し、2−3で敗れた。その後、数試合でジャーメインを欠くことになり、磐田とともにJ2降格となるサガン鳥栖、北海道コンサドーレ札幌に連敗を喫してしまう流れになった。
もう一つ、命運を変えた大きな出来事が7月14日のアウェー湘南ベルマーレ戦だ。前半20分にリカルド・グラッサのルキアンに対するファウルでPKを献上。さらにVARの介入から主審のオンフィールドレビューにより、一発退場に変更されてしまったのだ。
いわゆる「PK」「退場」「出場停止」の“三重罰”であり、ここから0−5というシーズン最大級の大敗につながってしまった。続く京都サンガとの試合でも、リカルド・グラッサの欠場がホームでの逆転負けという結果に少なからず影響を与えたことは疑いない。
5項目で“J1基準”を検証
ただ、そうしたエクスキューズは上位でフィニッシュしたチームも含めて、少なからずあることだ。
磐田はJ1基準に達していなかったのか。チームのスタイルや特徴の違いがあるので、横内監督が掲げてきた戦い方をベースに、筆者なりに大きく5つの項目にまとめてみた。
①ビルドアップの設計力とクオリティー
②セカンドボールの回収力
③カウンターや二次攻撃に対する耐久力
④失点後のゲームマネージメント
⑤セットプレーのディフェンス
効果的なボール運びできず…
①の「ビルドアップの設計力とクオリティー」に関しては基本プレッシャーが厳しいJ1のディフェンスに対して、安定してボールを保持しながら、プレス回避の出口を探す効果的なボール運びがなかなかうまくいかなかった。
試合を重ねるにつれて、自陣でのボールロストが減った代わりに、バックパスからGKのロングキックに逃げるケースが多くなり、ジャーメインや空中戦に特長のあるマテウス・ペイショットも無理な競り合いを強いられた。
ビルドアップにも色々な方法がある中で、磐田もボランチをセンターバックの間に落として枚数を増やす形や、ボランチがセンターバックの脇に入る形など、可変的な立ち位置を取り入れている。ただ、そうした方法もなぜやるのか、いつやるのか、どうやるのかがチームで共有されていないと、局面的なパターンにしかならない。
ワンタッチ、ツータッチとキープの使い分けも曖昧だった。中村駿や山田大記など、個人戦術が高い選手は多少そこで解決できるが、チーム設計の甘さというのはシーズンを通して見られた。
強引なロングボールが増えて…
②の「セカンドボールの回収力」に関しては、J1全体で特別に低かった訳ではないが、①がうまくいかなかったことに少なからずリンクしている。ロングボールという選択は決して悪手ではないが、割合が増えるほど相手は対応しやすくなるし、①がうまくいかない状況で、強引なロングボールが増えるのであればなおさらだ。
セカンドボールの回収で最終的に勝負を分けるのは、横内監督も重視してきたデュエルだが、前提として良いポジションを取れていなければ、そこに持ち込むこともできず相手ボールとなってしまう。クリアが相手ボールに渡った結果、二次攻撃で後手を踏む傾向は特に上位との試合で顕著だった。
相手のカウンターに対応できず…
③の「カウンターや二次攻撃に対する耐久力」には、ビルドアップでボールを失ってからのショートカウンターと、自分たちの攻撃が防がれた直後のロングカウンターという大きく二つの局面がある。
前者はともかく、後者に関しては人が足りていながら、守備者がうまくアプローチできずにフィニッシュに持ちこまれるケースが多かった。これは3バックに変更した終盤戦でも見られた現象であり、最終節の鳥栖戦は象徴的だった。
例えば相手のサイドアタッカーがインサイドを狙ってきた時に、誰がチェックにいくのか優先順位を決めているはずだが、カウンターの局面では守備間の距離も遠くなるので、後ろのカバー範囲も広くなる。終盤に採用した3バックのメリットは左右ウイングバックの選手が攻め上がっても、後ろに三枚残って対応できることだが、カウンターの対応に関しては十分に生かせないシーンが多かった。シーズン終盤に導入したシステムの限界とも言える。
高い位置でのボール奪取やポゼッションをベースにできなかったことで、攻撃の時間が短くなり、攻め上がるために必要なヤードも長くなった。ボールを失った後、それぞれのカバー範囲が広くなり、体力的にもロスが大きくなれば、守備の精度は下がる。そう考えると①の問題は、③にも関わっていることは容易に想定できる。
失点後のヘッドダウン
④の「失点後のゲームマネージメント」は横内監督の2年間に限らず、磐田に見られる課題ではあるが、J1復帰の今年は顕著に出てしまったところがある。
前半戦ではアウェーの東京ヴェルディ戦が象徴的だった。前半35分にPKで失点すると、その6分後にCKから押し込まれて2失点目。そこから一度は追い付いたものの、ジャーメインのPK失敗からリカルド・グラッサの退場劇、そして痛恨の3失点目。前半の2失点は一度ゴールを破られると、しばらく悪いサイクルに入ってしまう磐田の問題点が凝縮されていた。
11月1日のアウェー神戸戦でも、前半はなんとかディフェンスの奮闘で0−0に持ち込みながら、後半の立ち上がりに宮代大聖のゴールで最初の失点を喫すると、その6分後にセットプレーから決められた。
前半45分間での30失点はJ1最多。最初のゴールを奪われた後のヘッドダウンが勝ち点獲得を難しくしたところがある。
⑤の「セットプレーのディフェンス」に関しては、ファンやサポーターからも多くの指摘の声が挙がっている。手元調べでは全体の失点のうち、CKやFKがそのままアシストあるいは1つ前の起点になった失点というのは全体の20%程度だった。これ自体、おそらくJ1の中で特別に多いわけではないが、セカンドボールや二次的な攻撃から起点を作られての失点を加えると、かなりの数字になるはずだ。こうした失点を減らすには対戦相手に応じたセットプレーの明確な守備設計はもちろん、いかに二次攻撃を許さないかが大事になる。
先制許した試合は2勝3分け17敗
①から⑤の問題に加えて、時間軸で見るとやはり“先行力”の不足が目に付く。前半と後半の得失点を見ると、筆者の調べでは前半45分間での得点は13、失点は30だったのに対し、後半45分の得点は34、失点は38だった。
磐田は追いかける試合展開が多くなってしまい、先に失点した試合は2勝3分17敗と大きく負け越した。終盤戦はガンバ大阪、横浜F・マリノスと先制しながら逆転された試合が続いたが、先にリードを奪った試合は7勝2分3敗だった。
J1で相手から主導権を握ることが難しい中で、現実的なサバイバルをしていくには戦力に不足があったことも否めない。
結果的にクラブ史上4度目の降格となった磐田は残念ながら横内監督が辞任。新たな指揮官のもとで再出発を図ることになる。
キャプテンの山田大記が現役引退、得点源だったジャーメインの移籍が決定的と伝えられるなど、戦力の入れ替わりもある中で、J1基準を忘れることなく戦っていけるか。
J2は降格したチームがそのまま圧倒できるほど簡単なリーグではないが、同時に中長期の視野に立った強化をしていかないと、これまでの繰り返しになってしまうだろう。