「芸術家の生き様の断片」「ある種、危険な作品」北野武“だから撮れた”巨匠のセルフパロディ『Broken Rage』
昭和バイブス満載のキタノ映画最新作『Broken Rage』
映画監督・北野武の最新作にして“セルフパロディ”を謳う『Broken Rage』がPrime Videoで独占配信中だ。浅野忠信に大森南朋、中村獅童、白竜など新旧の常連俳優が豪華出演する本作は、“キタノ映画”を自ら解体、パロディ化して見せるのに十分な舞台である。
トータル1時間ちょっとの本作だが前後編の2部構成で、前半でいわゆる“アウトレイジ”的サスペンスを見せ、後半でそれをひっくり返すようなドラマを見せる。しかし、パロディであるはずの後半の強烈にナンセンスなコメディぶりにこそ、北野監督の狙いが込められているのではないかと勘ぐらせる。
主人公はたけし自身が演じる老殺し屋、通称ねずみ。前半パートは地味かつ殺伐とした殺し屋稼業がは淡々と描かれ、たしかにキタノ映画的なバイブスが充満している。とはいえ昭和のマンガ的なムチャ設定で駆け足的に見せるため、まるで“なろう系”作品かと思うほどリアリティは放棄している。
シュールすぎて怖い? はたしてどちらが“パロディ”か
あっという間に<Spin Off>のテロップと共に後半に移ると、ベタなコント番組のような展開に。しかし行われていることは前半以上に残酷で、ベタであるはずのお笑い演出もそのブラックさが強く印象に残る。ヨボヨボの殺し屋ねずみは独居老人の日常を垣間見るかのようだし、豪華キャストの過剰な熱演が逆に恐怖を感じさせる。
劇団ひとりや鈴木もぐらなど芸人キャスト陣は蝋人形のような奇妙な存在感だが、思わず笑ってしまう白竜やアドリブをまんま見せる恫喝演技に、かろうじて人間味が乗っかってくる。『アウトレイジ』世界に「モンティ・パイソン」や『裸の銃を持つ男』シリーズ、初期ジム・キャリー作品の風味をまぶしたような、我々がテレビで見てきた“ビートたけし”も顔をのぞかせる、シュールかつバカバカしい面白さだ。
本作を観てからキタノ映画を順繰りに観ていくという楽しみ方もできるのではないかとすら思わせる、なんとも不思議な魅力あふれる『Broken Rage』。もはや北野監督にしか作れない作品でることは間違いなく、とにかく監督自身が楽しんで撮ったであろうことがひしひしと伝わってくる映画だ。
『Broken Rage』はPrime Videoで独占配信中