「ぽってり」「ぶるぶる」と「とろとろ」「だらだら」の違いは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
オノマトペにみる「阻害音」「有声音」とは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
「ふんわり」「ひらひら」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。
2024年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2025年2月号から、これまでお届けしてきた「阻害音」についての解説の振り返りをお届けします。
阻害音 まとめ
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P、T、K、S、H、B、D、G、Z──これらの子音は何順に並んでいるでしょう? 本連載が辿ってきた順番です。
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これらの阻害音のうち、声帯が震えないP、T、K、S、Hを「無声音」といいます。声帯が震えるB、D、G、Zは「有声音」。喉に指を当てて「さ」と「ざ」の子音SとZを発音してみてください。Zの場合のみ振動が感じられるはずです。これまで「清濁」と呼んできた対立は、正確には無声と有声の対立を指します。阻害音は概して硬く粗い響きを持ちますが、そのうち無声音は弱くて軽く、有声音は強くて重い印象を与えます。
より詳しく復習しましょう。P音には、「ぽってり」とした唇のように張りがあります。このイメージはB音にも共有され、雲雀の「ぶるぶる」と震える体もひどく強張っています。一方、T音とD音には、「とろとろ」という細火や「だらだら」するお母さんのように、どこか緩みが感じられます。K音とG音が表す硬さは、触覚・視覚にとどまらず、オルガンのペダルを踏む「ことこと」や石油缶の「ごぼり」のように聴覚的にも感じられます。S音とZ音が表すのは、梨を剝く「さりさり」や雪崩の「ずずんずずん」のような摩擦。H音の意味は語根の長さによって異なり、一拍語根の場合は「はっ」のように呼気を写し、二拍語根の場合は、春の列車で「はたりはたり」と眠りに落ちる乗客たちのように力のなさを表します。
ところで、これらの子音はどこで発音するでしょう? 図のように、PとBは上唇と下唇を一旦くっつけます。TとDは主に舌先と前歯の後ろ辺りを、KとGは舌の奥と喉ちんこの前辺りをくっつけます。つまり、P、T、KとB、D、Gでは、くっつく場所が口の前から後ろへと移っていくわけです。
これらの閉鎖音(破裂音)と違って、S、Z、Hは摩擦音です。SとZは、主に舌先と前歯の後ろが、くっつかない程度に接近することで空気の摩擦を起こします。Hの摩擦は、主に声門(左右の声帯の隙間)で生じます。やはり口の前から後ろへという順番です。
『NHK俳句』テキストでは、人が「よい」と感じる音の順番などから、オノマトペの特徴について明らかにしていきます。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2025年2月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/『音とことばのふしぎな世界』(川原繁人著・岩波書店)/『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/Topolinski, S. et al. (2014). Oral approach–avoidance. Journal of Personality and Social Psychology, 106.
◆トップ写真:Uncle_K/イメージマート(テキストへの掲載はありません)