通称“モッズコート”。M-51パーカーは米陸軍が開発したレイヤードできる極めて優れた防寒衣料だ。
ファッションシーンでは通称“モッズコート” と呼ばれるM-51 パーカー。その通り名は、朝鮮戦争後にM-51 パーカーの余剰ストックをアメリカ陸軍が市場放出したことにより、英国のモッズたちが目を付け、スーツの上から羽織ったことに起因する。今もなお根強い人気を誇るモッズコートの歴史と、愛される理由を紐解こう。
「M-51 PARKA」米陸軍が開発した軽量でフレキシブルなレイヤードコート。
アメリカ陸軍に於ける防寒衣料の歴史は、その源流を辿ると第二次世界大戦にまで遡る。1939年9月にポーランド侵攻を皮切りに、ドイツ軍はヨーロッパ全域に勢力圏を拡大。これに対しイギリスとフランスが宣戦布告を行い第二次世界大戦が勃発する。
その頃はまだアメリカは参戦しておらず(参戦は1941年12月、日本の真珠湾攻撃から)であったが、実はポーランド侵攻から約2年もの間、アメリカ軍は可能な限りの軍備を整えていたという。機甲師団や山岳部隊なども新設し、専用の衣類や装備を開発していたのだ。例えば陸軍全体であればレイヤードシステムを落とし込んだM‒43フィールドジャケット、機甲師団であればタンカースジャケット、山岳部隊であればマウンテンジャケットやプルオーバー型のスノーパーカーといった具合に。
1945年に連合軍の勝利で第二次世界大戦は集結するが、それは新しい戦争の始まりでもあった。アメリカを中心とした資本主義陣営と、旧ソビエトを中心とした共産主義陣営との対立。所謂1950年6月から始まった朝鮮戦争である。真冬の朝鮮半島は零下30℃まで気温が下がるため、かつて経験したことのない極寒地での戦いに対応するため、第二次世界大戦時に採用していたスノーパーカーをベースに、プルオーバー型からスナップボタンとジッパーを使った前開き型のシェルパーカーを開発するに至る。
様々なテストサンプルを製作して極寒地での試験導入を行い、最終的に完成させたのが1951年3月に正式採用となったM‒51パーカーである。膝下まであるロングレングスと背面の特徴的なフィッシュテール、そして防風撥水加工がなされたコットンナイロン素材をアウターシェルに使い、気象条件に合わせてパイル地のライナーとコヨーテの毛皮が付いたフードを組み合わせて使用した、極めて優れた防寒衣料であった。
[M-51 PARKA 歴史年表]
1939年 第二次世界大戦に突入。ヨーロッパ戦域など季節によって戦闘防寒装備が必要となり、M-41フィールドジャケットやM-43フィールドジャケットが誕生。レイヤード(重ね着)システムの概念が生まれる
1941~1942年 ヨーロッパ戦域における山岳戦のシナリオを想定し、リバーシブルタイプの通称スノーパーカーを山岳部隊に支給。これはM-43フィールドジャケットの上に着用していた
第二次世界大戦後(1945年~) かつて経験したことのない極寒地(朝鮮半島)での戦いに備え、米陸軍では軽量でフレキシブルなレイヤード(重ね着)コートをさらに研究する
1947~1948年 Experimental(実験)モデルとしてEX-48パーカーを開発。南極などで試験導入し、後にM-48パーカーとして陸軍の一部に支給。さらにレイヤードシステムの熟成を図るため、Experimental(実験)モデルのEX-50パーカーを試験導入する
1950年初頭 朝鮮戦争勃発後、厳しい朝鮮半島の冬を迎えるが初期の頃は防寒装備の数が足らず、第二次世界大戦中のM-43フィールドジャケットやタンカースジャケット、スノーパーカーなどの防寒衣料をかき集めて支給していた
1951年 EX-50パーカーなどの試験モデルのテスト結果をフィードバックし開発されたM-51パーカーを、1951年3月に米陸軍が正式採用する
EX-48 (TEST SAMPLE)|M-48パーカーの試験モデルであるEX-48パーカー。グラスファイバーを混紡したライナーを使用。フードは固定式。左袖にはシガレットポケットがデザインされる
EX-50 (TEST SAMPLE)|M-51パーカーの試験モデルであるEX-50パーカー。前身のM-48パーカーと同様にシガレットポケットをデザイン(M-51では省略)。シェルはコットンナイロン、フードは別体式、ライナーはパイル地となっており、M-51パーカーに引き継がれていく
【銘品】PARKA SHELL M-1951
フードと2つ大きなポケット、背面のフィッシュテールが特徴。1960年代に英国モッズたちがオーバーコートとして使い始めた事により、このデザインはファッションの世界に影響を与え、深く浸透していく。今日でも様々なブランドが参考にする銘品である。
ライナーとフードを装着させ防寒性能を高めたM-51パーカー。EX-50の試験モデルではライナーにも内ポケットがデザインされていたが、コストダウンによるものなのか省略されている。このデザインは後にM-65パーカーで進化していく。
ライナーは薄手のパイル地と、画像の厚手のパイル地の2種類が存在する。後者の方は防寒性能が高いが、厚みの分だけ嵩張る。
コットンナイロンのシェルにウールの内張り、コヨーテファートリムが施された別体式フード。これはM-51フィールドジャケットにも装着可能である。
【N-3B Column】正式採用まで紆余曲折!? Experimental(実験)モデルの謎。
試験モデルを作り正式採用されたM-51パーカーだが、右ページで紹介したモデル以外にも様々な試作デザインが存在する。右はEX-50の別バージョンで、フィールドジャケットのように4つポケットをデザイン。左は名称不明だがプルオーバー型のデザインが興味深い。