ぼくの、わたしの夢を乗せたラッピング電車が武蔵野を行く 西武鉄道に「みらい絵トレイン」登場(埼玉県所沢市)【コラム】
鉄道会社にとって、子どもたちは未来に向けた大切なお客さま。そんな子どもの夢を乗せたラッピング電車が、西武鉄道に登場しました。西武グループが2025年2月23日から運転を始めた「ぼくのわたしのみらい絵トレイン」。
話題のラッピング電車、西武ホールディングス(HD)と西武鉄道が2024年秋に募集した「ぼくのわたしのみらい絵コンクール」に寄せられた、ぬり絵・絵画コンクールから約150作品を車体両サイドに掲出します。
ラッピング電車に選ばれたのは、10両編成の30000系電車です。愛称名は「スマイルトレイン」。そして西武がみらい絵トレインに託すのは「多くの皆さまに夢と感動、ほほえみ届ける列車」の思い。「ほほえみを届けるスマイルトレイン」というわけです。
筆者は、運転初日に埼玉県所沢市の狭山線西武球場前駅で行われた出発式を取材。サイドストーリーとしてスマイルトレイン、さらに、かつての多摩湖(村山貯水池)観光の足から、球場アクセスへと性格を変えた西武狭山線のミニヒストリーをお届けします。
「でかける人を、ほほえむ人へ。」
原点は2010年スタートの「こども応援プロジェクト」。スローガンは「でかける人を、ほほえむ人へ。」。鉄道、バス、ホテル、レジャー、流通と多くの事業を手掛ける西武グループで、すべての事業に共通するのが「お出かけ」です。
みらい絵トレインも、子どもたちやファミリーが見てみたい、乗ってみたいと思う列車を走らせ、沿線観光やレジャーに誘います。
西武HDと西武鉄道は2024年9~10月、未就学児はぬり絵の「こんなでんしゃがあったらいいな!」、小学生は自由テーマの「西武グループでこんなおでかけ・こんなあそびができたらいいな!」の2テーマで作品を募集しました。
〝赤電時代〟からレモンイエローに
西武カラー、戦後しばらくは黄色と茶色、その後はローズレッドとベージュの〝赤電時代〟続きましたが、1969年デビューの(旧)101系からレモンイエローが基調色に。現在は、カラフルな特別塗装車も走ります。
もう一つの流れが、101系と同年登場の「レッドアロー」(5000系)に始まる特急車両。1993年の「ニューレッドアロー(NRA)」を経て、2019年には「001系 Laview(ラビュー)」がデビュー。ラビューは、鉄道友の会のブルーリボン賞を受賞しました。
「ジップラインが動き出した!」
西武球場前駅での出発式には、みらい絵トレインの絵を描いた子どもたちが招待され、自分たちの作品とご対面。東京都練馬区からお母さんと一緒にやってきた幼稚園児は、「がんばって描いた絵が電車になってうれしかった」と話してくれました。
続くセレモニーでは、西武HDの原田武夫上席執行役員・経営企画本部長があいさつ。子どもたちの代表4人が、西武鉄道鉄道本部運輸部の山本徳之所沢管区長とともに出発合図を送り、列車は動き出しました。
代表4人の1人が練馬区の小学生・松本陽花(はるか)さん。作品はワイヤーロープで滑り降りるアウトドアアクティビティ、ジップラインで、「ジップラインが本当に動きだしたよう」と笑顔をみせてくれました。
鉄道車両初の「キッズデザイン賞」
西武は筆者コラムに初登場。ここから、スマイルトレインと西武球場駅のミニヒストリーです。
2008年にデビューの30000系は、「Smile Train~人にやさしく、みんなの笑顔をつくりだす車両~」がコンセプトです。鉄道にあまり関心ない方も、「ほかの電車とはどこか違う」と直感できるはずです。
車両のジャンルは「地上専用次世代型通勤汎用車」とか。東京メトロ有楽町線や副都心線には乗り入れず、主に池袋線と新宿線で運用されます。
西武がスマイルトレインに託したのは、「西武グループのイメージ刷新」。車両デザイン時は、鉄道セクション以外の女性社員の意見も反映させました。
その成果として、2009年度のキッズデザイン賞を鉄道車両として初受賞。西武は、後継の40000系電車も2017年度のキッズデザイン賞で、最優秀賞の内閣総理大臣賞を受賞しています。
開業時は山口線、狭山線として復活
最後は出発式会場になった西武球場前駅が所属する狭山線の小史。プロ野球ファンには、「西武が野球観戦客のために開設した駅」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、開業は昭和初期の1929年。最初の駅名は村山公園駅でした。
西武の前身の一つ、武蔵野鉄道は多摩湖を訪れる花見客などを当てこんで西所沢から分岐線を延ばし、駅を開設しました。
駅名は戦前のうちに村山貯水池際駅、村山駅に。終戦間近の1944年には、不要不急線として営業休止になったことも。戦後は狭山湖駅を経て、1979年3月から現在の西武球場前駅になりました。
狭山線のプロフィール、西所沢~西武球場前4.2キロで全線単線。駅は両端あわせて3駅だけで、中間の下山口駅で行き違いできます。多摩湖近隣には、西武球場前のほか多摩湖線多摩湖、西武園線西武園の両駅もあり、一大観光地だったことがうかがえます。
西武球場前駅の狭山線ホームは3面6線。普段はのんびりした駅ですが、プロ野球の試合がある日は全ホームが列車で埋まることも。
西武には「野球ダイヤ」と呼ばれる臨時列車の〝スジ〟が存在。試合展開や試合終了時刻に応じて、複数の運行パターンから臨機応変にダイヤを直前決定します。
西武球場前駅の隠れた利用法が鉄道のイベント。試合のある日以外はホームが空いているので、イベントスペース確保に苦労しません。2020年10月のLaviewブルーリボン賞受賞式も同駅で行われました。
西武鉄道は、みらい絵トレインを2026年2月10日まで運行予定。西武広報課によると、みらい絵トレインがどこを走っているかは「西武線アプリ」で確認できます。西武ファンの皆さまは、ぜひチェックしてみてください。
記事:上里夏生