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『クレイヴン・ザ・ハンター』は本当にソニー『スパイダーマン』ユニバースの最後作なのか? ─ 「終わった」「終わってない」情報を検証

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『クレイヴン・ザ・ハンター』が、ソニー・ピクチャーズによるスパイダーマン関連映画の最後作になる?不幸なことに『クレイヴン・ザ・ハンター』公開前に登場したこの情報が、同作の興行の足を引っ張ってしまったように思える。

2024年12月13日より日米公開となった『クレイヴン・ザ・ハンター』だが、初週末の興収はなんとわずか1,100万ドル。言うまでもなくソニーのマーベル映画史上最低額だ。アメコミ映画云々を抜きにしても、製作費1億ドル以上の映画の出だしとしては厳しい数字である。

MARVEL and all related character names: © & TM 2024 MARVEL

『クレイヴン・ザ・ハンター』がシリーズの打ち切り最後作になるとの印象をファンに与えたのは、による記事『As ‘Kraven’ Hunts for Audience, Sony’s Marvel Universe Takes Final Bow for Now | Analysis』だ。これは、ブラジル・コミコンでの『クレイヴン・ザ・ハンター』イベントに空席が目立っていたらしいという話題を起点に、これまでソニーが『モービウス』やでいかに辛酸を舐めたかを振り返るコラム。

実は、同記事にシリーズが打ち切られるとの断定的な情報があるかというとそうではなく、「現在は『スパイダーマン4』と『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』、ドラマ『スパイダーノワール』など、ウェブ・スリンガー(=スパイダーマン)を中心とするプロジェクトに傾倒している」との関係者の声が伝えられているだけなのだ。

確かに『モービウス』や『マダム・ウェブ』の不調が続き、最新事例では『クレイヴン・ザ・ハンター』も出だしで大きくつまずいたことを踏まえれば、ソニーのマーベル映画シリーズが打ち切りになったらしいと聞いても、(残念ながら)何ら違和感はないだろう。ただし、話題の出どころとなったThe Wrapの記事で、シリーズの終焉について表現されているのは記事全体の批判的な論調と、「ソニーのマーベル・スピンオフ・フランチャイズの明らかな終了は、中心人物抜きでシェアード・シネマティック・ユニバースを構築するという、ハリウッドで最も野心的でコストのかかる試みの一つを表している」という記事中の推論的な一文、および「クレイヴンが観客を狩る中、ソニーのマーベル・ユニバースはひとまずお別れ(As ‘Kraven’ Hunts for Audience, Sony’s Marvel Universe Takes Final Bow for Now)」との記事タイトルに恣意的に偏っていることについては、注意が必要である。

一方、ソニーの一連の映画シリーズでの試みついては、事実として期待外れに終わった点もとても多い。結局のところ、看板キャラクターのスパイダーマン1人に頼るという性質は2002年以来20年以上にわたって変わらず、『ヴェノム』シリーズもヒット作に数えられるものの、興収としては右肩下がりでにてフィニッシュとなった。

『モービウス』『マダム・ウェブ』の成績や評判にはソニーも頭を抱えたことだろう。彼らはスパイダーマンの悪役たちを単独映画でデビューさせ、将来的にはクロスオーバー映画の製作を見越していたのかもしれないが、肝心の単独作が不発ではどんな計画もうまくいくはずがない。事実として今後の作品予定もないのだから、シリーズ終焉と見られてしまっても仕方がないことだろう。ともかく気の毒なのは、その話題が『クレイヴン』公開前に広まりを見せたことである。このジャンルでは、ファンに見限られてしまうと致命的だ。

こうした風潮に対し、米は新たな記事を公開。「『クレイヴン・ザ・ハンター』や『マダム・ウェブ』があっても、ソニーのマーベル映画は死んではいない」と題した記事では、『クレイヴン』の初週末興収が『モービウス』『マダム・ウェブ』に続く3度目の失敗となったとしながらも、「これはソニーのマーベル・ユニバースの終わりを意味するものではない」と続け、独自の立場からシリーズ終了論に意を唱えている。

<!--nextpage--><!--pagetitle: まだ終わらない、とは? -->

Varietyが唱えている理由は二つ。一つは、元も子もないようではあるが、そもそもソニーはシェアード・ユニバース型の映画作りを重視していなかったということだ。マーベル・スタジオがMCU()を打ち出す一方、メディアやファンの間ではソニーの作品群に対してSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)と呼ぶことになっているが、これはあくまでも俗称であって、正式名称ではない。THE RIVERが関係者筋から得た情報によれば、ソニー・ピクチャーズ内でもこの呼称は用いられていない。

しかしVarieryがそうとは言っても、『モービウス』ではMCU作品『スパイダーマン:ホームカミング』の悪役バルチャー(マイケル・キートン)が登場し、打倒スパイダーマンをモービウスに呼びかけるという、明らかに今後のユニバースへの伏線とするシーンが挿入されていた。また、ヴェノム/エディ・ブロックは一時的にMCU世界に転送され、スパイダーマンとの対決を匂わせたまま元の世界に戻されている。まさに“右往左往”としか言えないこれらのシーンについては、今後作の予定が不明である以上、物語上の行き止まりとなっている。

なお、これは見過ごされがちなことであるが、『マダム・ウェブ』に関しては、厳密に言えばどのユニバースにも属していない単独作である。『ヴェノム』シリーズはアヴィ・アラッドやエイミー・パスカルらが製作しており、『モービウス』や『クレイヴン・ザ・ハンター』もアヴィ・アラッドらによる作品。しかし『マダム・ウェブ』のみはロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラが1人で製作を担当しており、製作系統が異なっている。『マダム・ウェブ』をソニーのマーベル映画シリーズとして数えることは可能だが、通称SSUの一部と見なすかどうかは、実は微妙な立ち位置なのである。

(C) & TM 2024 MARVEL

(C) & TM 2024 MARVEL

Varietyが挙げるもう一点は、ソニーは今後もスパイダーマン関連の作品を予定しているという事実と、興行上は成功している『ヴェノム』シリーズの製作を直ちに取りやめる経済的な理由がない、ということだ。スパイダーマンに関しては2026年に彼らの大本命となろう『スパイダーマン4』が控えるほか、アニメ映画『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』が待機している。ソニー・ピクチャーズ・テレビジョンからは、ニコラス・ケイジ主演で異世界の探偵スパイダーマンを描くドラマ「スパイダー・ノワール」も準備中だ。

一方『ヴェノム』に関しては功罪がある。『ヴェノム』がシリーズ合計18億ドルのヒットを記録したことで、「スパイダーマンが登場しないスパイダーマン関連キャラクター映画でも、観客はこぞって観に来る」という「誤った印象」をソニーに与えてしまったというのだ。以下は専門家の声として紹介されているものである。

「これらのキャラクターが有名なのは、スパイダーマンと戦っているからです。不幸なことに、ソニーは『ヴェノム』の成功を味わってしまったために、全てが台無しになってしまいました。なぜなら彼らは、全てのキャラクターでスピンオフができると思い込んでしまったからです。ヴェノムはシリーズを支えることができましたが、他のキャラクターはそういうわけではないということに、彼らは気づいていなかったのだと思います。これらの映画にスパイダーマンがいないというのは致命的な欠陥です。」

なぜソニーはトム・ホランドのスパイダーマンを作品に登場させなかったのかというと、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』や「ロキ」『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』がマーベル・ユニバースの境界線を決定付けて以降、トム・ホランドのスパイダーマンが非MCU世界にいきなり登場することを観客は受け入れないだろうという思いが、スタジオ内にあったためだと伝えられている。

The WrapもVarietyも、ある一点で主張は一致している。それは、ソニーのマーベル映画には品質が欠如しているということだ。The Wrapは「ソニー最大の問題は品質管理の欠如。単純に映画が良くない。品質の欠如は時として、誰も求めていない映画と出会ってしまう。『マダム・ウェブ』がそれだった」と、Varietyは「彼らは製品を次々潰しているし、そう感じられる。品質管理というものがない」との厳しい声を紹介した。

最終的に我々が理解しておきたいのは、ソニー・ピクチャーズがシリーズについて終了を宣言した事実はないし、同じように継続すると宣言しているわけでもないことである(そうすることもないかもしれないが)。今回はThe WrapやVarietyの記事を紹介したが、彼らはともにそれぞれの情報源からの証言を基に、独自の見解を論じている。『クレイヴン・ザ・ハンター』の初週末記録は明らかに大惨事であるが、スタジオがここから撤退の動きを見せるのか、心機一転を図るのかどうか、今後の動向を注視するべきだ。

歴史的にソニー・ピクチャーズは、サム・ライミ版の『スパイダーマン4』やアンドリュー・ガーフィールド主演版の『アメイジング・スパイダーマン3』も様々な理由で実現させることができなかった。マーベル・スタジオと権利を共有するトム・ホランド版スパイダーマンは成功しているが、それ以外の独自フランチャイズの確立に長年苦心している印象だ。DCではジェームズ・ガンを舵取り役にDCスタジオを立ち上げたところだが、ソニー・ピクチャーズも同様に、長期的な戦略と一貫した品質管理体制が求められていることだろう。

様々な話題を集める『クレイヴン・ザ・ハンター』は公開中。主演のアーロン・テイラー=ジョンソンは、観客次第では今後さまざまな可能性があると。史上最もファンの応援を必要としているヴィランである。

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