日本の中間層の「暮らし向き」、実は良くない? 妻の正規雇用は有効でも「生活の質」に課題
労働政策研究・研修機構(東京都練馬区)は3月19日、国民生活基礎調査の長期データを分析したディスカッションペーパーを公表した。分析では、所得で中間層に分類される世帯であっても、生活水準を反映する「暮らし向き」が必ずしも良好ではないことが明らかになった。妻の正規雇用は暮らし向きの改善に一定の効果があるものの、労働時間の増加は生活の質を損なう可能性があることも示された。
中間層の生活水準、データから見る実態
同機構は国民生活基礎調査の主観的な暮らし向きに関するデータを用い、世帯の経済的ウェルビーイングを検証。1980年代以降の中間層における暮らし向きの推移や、就業形態との関係を多角的に分析した。
OECDの指摘にもあるように、中間層は経済と社会の安定を支える重要な層だが、1980年代以降、その割合は各国で減少傾向にある。日本においても中間層の家計消費への貢献度は下がりつつあり、経済全体への影響力が弱まりつつあることが示唆されている。
国民生活基礎調査によれば、暮らし向きが「普通」以上と答えた世帯の割合は1980年代に上昇したが、1990年代以降は低下傾向に転じた。物価上昇の影響もあり、2022年から2023年にかけては再び落ち込んでいる。
特に現役世代の中間層で、生活の厳しさが顕著に
暮らし向きの水準は、世帯主の年齢層によっても違いが見られる。中間層のうち、世帯主が18~64歳の現役世代の世帯では、65歳以上の世帯と比べて暮らし向きがより低い水準にあることが明らかとなった。
1986年から2022年までの変化を分析した結果、暮らし向きの悪化の多くは、各所得層内部での変化によるものであり、特に中位中間層の影響が大きかったと報告している。
妻の正規雇用が暮らし向きを改善 ただし「時間の壁」に課題
さらに、世帯が短期的に調整可能な要素として、妻の就業形態と労働時間に着目し多変量解析を実施。その結果、妻が正規雇用で働くことは暮らし向きを改善する上で有用である一方で、労働時間が増えることで生活の質が一定の範囲で低下する可能性があると指摘している。
研究グループでは、こうした「生活の質と労働時間のバランス」を考慮し、両立支援策の強化や、非正規以外の就業形態への移行をあと押しする訓練支援策の重要性を訴えている。
今回のディスカッションペーパーは、篠崎武久氏(早稲田大学理工学術院教授)と高橋陽子氏(労働政策研究・研修機構研究員)によって執筆された。全文は同機構の公式サイトにて公開されている。