『坂東玉三郎~お話と素踊り~』合同取材会オフィシャルレポートが到着
『坂東玉三郎~お話と素踊り~』は、2021年7月にスタートした。コロナ禍の時期でありながら満席の観客に好評を得、これまで全国各地を巡り回数を重ねてきた人気の公演だ。今年は3月に6か所の公演を終え、8月末から9月にかけて6都市を巡演する。今回も、事前に観客から募集した質問に答えつつ、歌舞伎の魅力や立女形の神髄、プライベートまで映像を交えて語るトークコーナーと、地唄舞『残月』を素顔のままで舞う“素踊り”という構成。歌舞伎の劇場では見ることのできない、玉三郎の芸と生の素顔に出会える希少な機会を、身近なホールで楽しむことができる。京都・南座で『坂東玉三郎 特別公演』の公演中に合同取材会を開催、玉三郎が公演への思いを語った。
――『お話と素踊り』の公演を始められた頃はどんな雰囲気だったのでしょうか。
『お話と素踊り』の会を、どんな風にしたらいいかなと考えて。歌舞伎の扮装をしての踊りは皆さんに観ていただいていますので、それでは“素踊り”にしようかなということで、今日まで31回、色々な場所に回ってまいりました。そうしましたら意外と北海道や九州、もちろん関西でも、お客様が大勢いらしてくださって。(コロナ禍の影響で)ちょうど 2020年の春から、お客様が劇場にはいらっしゃれなかったので、お話や“素踊り”でも楽しんでいただけたらと思いまして。お話と、素踊り、そして質問コーナーは 10分ぐらい超過したりするのもしょっちゅうでした(笑)。時には海外行った時のビデオも少しお見せしたり、あるいは舞台裏の支度も少し見ていただいたり。その土地土地によって、近くの会場で違う組み合わせで見ていただいていたんですけども。本当に皆さんが楽しんでくださいました。お客様が、人に会って直接話したい時期でもあったのかなと思いますね。直接会って話せるということが自分としても本当にうれしい会になりました。続いて、これから秋もこうして地方を回れることをうれしく思います。
――“素踊り”で、なおかつ玉三郎さんの素顔のお話がうかがえるのですね。
最初は、素顔で大丈夫なのかなあ、と思いました(笑)。そうしたらほんとに皆さん、会場にいらして下さって、話を楽しんでくださった。それも意外でした。でも、1回目のすみだトリフォニーホールも2021年だったんですけど満席でしたし、北海道も同じような状況でしたね。だから、あぁ、こういう風にやってもいいんだなあ……思いました。やっぱり東京や京都、大阪には来られない方たちもいるんだなっていうことを、つくづく感じましたね。
――歌舞伎では扮装してお化粧をし、かつらをかぶって踊るのが通常です。“素踊り”は珍しいですが、その難しさは?
今まで“素踊り”でお客様の前に出たことが殆どないので、初めは不安でした。“素踊り”は自分の持っているものすべてが見えてしまいますので緊張もしましたね。でも昔は“素踊りの会”はよくありました。六世宗家藤間勘十郎先生は、“素踊り”しか踊らなかった方でしたし。でも今は“素踊り”を踊る先生たちも少なくなって、観ることも少なくなったので、お客様にとっては珍しいことかなと思いまして。だから、北海道に行った時も、お客様が来てくださるかしらと思っていたのに満席だったんです。そういう時の喜びって特別ですね。
――今年は1月に大阪松竹座、そして今も南座で「残月」を踊られています。『お話と素踊り』の演目に『残月』を選ばれた理由と作品の魅力を。
2年間ぐらい『雪』を踊って地方を回っていましたが、次は何にしようかと考えて、お話と質問コーナーのあとで『葵上』を踊ったのですが、『葵上』は怨念もので、お客様がお帰りになる時に、雰囲気が暗くなってしまったのです。本当は『葵上』に決まっていたのだけど、皆さんのお許しを得て「葵上」をやめて「残月」にさせていただいたというのが経緯です。ただ作曲家も『雪』と同じ峰崎勾当(こうとう)さんですし、聴けば聴くほど『雪』と同じで深みのある、素晴らしい曲です。早世した女性が月に行っている……という思いで踊る追善曲で、格調高く、清涼感も有りますし。五段ある曲を三段にして、振付けて踊らせていただきます。
――演奏とお着物についても教えてください。
最初の4,5回は生演奏だったのですが、会場によっていろいろな条件で生演奏が難しい時もあって、録音のものにしました。先代の富山清琴先生の素晴らしい演奏の録音があるので、オペラハウスのような大きな劇場では、その音がきちんと聞こえる方がいいかなという気がしています。着物は月にちなんで、絹の羽二重で白地の着物に、京都で織った白地に露芝と雪輪文様の袴です。『残月』用にと思いまして、織物屋さんと相談して去年作ったものをご披露させていただきます。
――トークコーナーでは、一般の方からの質問にもお答えいただけると?
質問は会場にいらしている方から事前にいただくものが多いですね。お話は、開催が近い場所だと話題を変えたいと思いまして、そのお話しを考えるのが大変でした。ですから、お化粧方とか、あるいは本番に向かうまでの映像とか、稽古方法や健康法とかいうことを色々と変えながら話させて頂いています。その土地の質問を読ませていただいて、どういうテーマで話すのがいいかをその場で決めるんです。こんな話しようかなと思っていても、幕が開いてお客様の雰囲気をみたら、違う話になってしまう時も有ります……(笑)
――今回のトークのテーマはどのようなものになりそうでしょうか?
4月にギリシャへいきました。アテネから3時間も奥に入る「アマン・ゾイ」というホテルに行ってきましたので、その映像も観て頂こうかなと思っています。例えばコンサートとかジャケット、あるいはい色々なプログラムやカレンダーなどに使う写真が 、この4年間まったく撮れなかったんです。年に1回か2年に1回、海外に撮影に行っていましたが、 2020年にコロナのパンデミック前の 1月にアブダビ砂漠に行ったっきりであとはどこへも行けなくて。アブダビ砂漠も上映しましたけど、今度はギリシャが入るかなと思います。
――歌舞伎公演の出演が続く大変な中、地方ツアーに臨まれるお気持ちをお願いします。
いえいえ、お仕事をいただけるということは、とてもありがたいことだと思っているのです。ご来場くださる方がたくさんいらっしゃってくださって、本当に自分が必要とされているという気がするのです。歌舞伎でも「関西と関東、あるいは地方の違いはありますか」とよく聞かれますが、いつもまったくそういうことを考えないで、お客様に向かうという気持ちにしているんです。同じ土地でもお客様は、お天気によって暗い日もあれば明るい日もあります。だから土地の違いは考えないことにしています。どこに行っても自分の方針を変えないつもりでいます。出来ることを精一杯やって、お客様に自由に受け取っていただくというのが、舞台の上に立つものの自分自身の心構えだと思っています。
取材・文/高橋晴代