クリュ・ブルジョワ2025年格付け発表厳格化で170シャトーに大幅減少
クリュ・ブルジョワ同盟は2月10日、パリのポルト・ド・ヴェルサイユで開催された「ワイン・パリ」の会場内で、2025年のクリュ・ブルジョワ格付けシャトーを発表した。今回の格付けで選定されたのは170シャトー。前回、2020年の格付けでは250シャトーが選定されており、それと比べると大幅な減少となった。
格付けされたシャトーの地域別の内訳は、AOC(原産地統制名称)メドックが最多の91シャトー、次いでAOCオー・メドックが53シャトー、AOCサン・テステフが9シャトー、AOCリストラック・メドックが7シャトー、AOCマルゴーが4シャトー、AOCムーリス・アン・メドックが5シャトー、AOCポーイヤックが1シャトー。地域アペラシオンのメドック(前回比マイナス21%)とオー・メドック(同マイナス40%)での減少が特に顕著となっている。
格付けのカテゴリー別に見ると、最上位のクリュ・ブルジョワ・エクセプショネルが14シャトー、クリュ・ブルジョワ・スペリュールが36シャトー、クリュ・ブルジョワが120シャトーとなっている。これら170シャトーは合計でメドック地区の栽培面積の21%、ワイン生産量の22%を占め、年間約1500万本のワインを生産している。
厳格審査で信頼性向上:ブラインド・テイスティングから環境認証まで多角的評価
今回の格付けで特筆すべきは、評価基準の厳格化である。各シャトーは2023年9月までに詳細な申請書類を提出し、クリュ・ブルジョワ同盟と公的認証機関による厳密な審査を受けた。その後、30人の専門家で構成された審査団が、17年から21年までの5年分のワインをブラインド・テイスティングで評価した。評価はAからDまでの4段階で行われ、この評価が三つの格付けレベルを決定する重要な要素となった。
今回の格付けでは、環境への配慮が重視された点も注目に値する。クリュ・ブルジョワ格付けシャトーにはレベル2の環境認証取得が、上位のクリュ・ブルジョワ・スペリュールとクリュ・ブルジョワ・エクセプショネル格付けシャトーには*「HVE」レベル2および3の取得が必須要件となった。これによって、持続可能なワイン造りへの取り組みを促進する意図を明確にした。
*フランスの農業・食糧省が管轄する環境認証マーク。レベル1~3まであり、レベル3が最高
さらに、格付けに対する信頼性を向上するために、各シャトーの過去数十年にわたる生産実績や歴史、オークションでの取引価格、国際市場における評価、ヴィンテージごとの安定性、革新的な醸造技術などの膨大なデータが収集され、評価基準の多角化と透明性の確保が図られた。
特に、複数専門家のブラインド・テイスティング結果を統計的に統合し、評価のばらつきを補正することで客観性、公平性を確保することにも最大の配慮がなされた。
また気候変動や市場多様化への対応として、革新的生産技術や環境配慮型農法の採用が新たな評価軸となったことも、今後のワイン産業の方向を見る上で興味深い。
格付けの最終決定は、世界最優秀ソムリエのフィリップ・フォール・ブラック氏を委員長とする6人の審査委員会が行った。クリュ・ブルジョワ・エクセプショネル格付けシャトーの認定には委員の3分の2以上の賛成を要する無記名投票が実施された。
フォール・ブラック氏は「経済環境が厳しい中でも品質向上への意欲は高く、環境配慮型生産の取り組みが顕著に見られた」と評価。
そして「この格付けは消費者への品質保証として機能する。そして、5年ごとの更新審査により、生産者の継続的な品質向上を促進する」と述べ、将来の発展に期待を示した。
クリュ・ブルジョワとは
クリュ・ブルジョワの歴史は15世紀にまでさかのぼる。当時、イギリス支配下のボルドーで輸出税を免除された特権的商人層が、メドック地区の優良区画を取得したことに始まる。これらの畑で生産されるワインは「ブルジョワのクリュ」と呼ばれ、1740年には初めて公式な価格体系が確立された。その後1932年に、1855年のメドック格付けに含まれなかった高品質ワインを擁するシャトーを評価する目的で当時のボルドー商工会議所とジロンド農業会議所が444のシャトーを選定した。以降、時代の要請に応じて制度は進化を続けてきた。
2003年に公式な格付けとして制度化されたが、格付けの法的地位やリスト作成に関する疑念、評価の公平性をめぐる議論を経て、20年からは5年ごとの更新制となった。この制度改革により、より透明性の高い評価システムが確立された。しかし「シャトー・シャス・スプリーン」「シャトー・オー・マルビュゼ」「シャトー・オルム・ド・ペズ」「シャトー・フェラン・セギュール」「シャトー・プジョー」「シャトー・シラン」など、クリュ・ブルジョワの名声を支えていた03年の九つのクリュ・エクセプショネルは今回も復帰していない。これを残念だという声も聞こえる。また、1855年の格付けシャトー(Classement des Grands Crus Classés 1855)の多くがセカンドワイン、サードワインをリリースしておりクリュ・ブルジョワシャトーの地位を脅かしていることも見逃せない。
25年のクリュ・ブルジョワの格付けに対する異議申し立ては、2月3日(月)に開始され、2カ月後の4月初旬まで提出できる。サンテミリオンの格付けは法令に基づいて10年ごとに見直しが行われるが、そのたびにさまざまな訴訟問題が起き、安定しない。また、クリュ・ブルジョワの格付けも、さまざまな訴訟で紆余曲折を経てきた。今回の格付けが確固とした信頼を得られるかどうかは少し時間を経る必要があるだろう。
未来への布石:QRコード認証シールと若年層開拓への新戦略
クリュ・ブルジョワ同盟は今後の展望を切り開くために「ラベルを超えて」をスローガンとする新たなコミュニケーションキャンペーンを展開している。このキャンペーンでは、各ボトルに認証シールを貼付し、QRコードを通じてシャトーの詳細情報や試飲評価、ワイン観光情報などにアクセスできるシステムを導入。特に18~35歳の若い世代の消費者層の開拓を目指している。
また、AOCメドックでの白ワイン生産が認められる可能性を見据え、2030年の格付けに向けて、将来的な白ワインの格付け組み入れも検討している。