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シェルビー・コブラGT:伊東和彦の写真帳_私的クルマ書き残し:#28

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ここに掲げたのはネガの保管箱から発掘したばかりの写真だ。どれもこれもピンぼけばかりで、構図も奇妙だが、暗い室内で経験不足の中学生が撮影したものであり、ご容赦いただきたい。個人的には、自分がこの場にいたことの証でもあり、ネガの山の中から発掘したときには歓声を上げたくらいなのである。

フォードの有力ディーラーが開催した1968モデルイヤーの発表ショーの会場だ。おそらくクルマの写真を撮影する目的で出掛けた最初期の例ではないかと思う。ハーフサイズであることから、オリンパス・ペンでの撮影だ。タイトルにもあるようにマスタングの派生モデルであるシェルビー・コブラGT500が並んでいる。ファストバック・クーペとコンヴァーティブルの2台が並んでいた。1967年末か68年早春の撮影日は定かではないが、撮影場所だけはかろうじて覚えている。横浜駅近くの商業ビルの1階催事場だ。

こちらはシェルビー・コブラGTのコンバーチブル・モデル。1968年にこうしたクルマを買ったのはどんな方だろうかと思う。

前にも書いているが、この連載は、コロナ禍での行動制限期間中の閉塞感を和らげるためにおこなった、フィルムのデータ化と同時に書きはじめた撮影メモが土台になっている。
 
撮りためた写真を前にして、専用のスキャナーに頼らずとも、iPhoneを使えば簡単ではないかと考えたことから、堰を切ったように電子データ化がはじまった。
 
iPhone利用の自作スキャナーは、丈夫そうな空き箱と木工材料の切れっ端を使って制作したスタンドにiPhoneを載せただけのもので、長年使っているハンディタイプのライトボックスを光源にした。
 
小学4年生から撮りはじめた写真は大半がモノクロであり、紙焼き写真のほかネガのままもたくさんあるが、カラーネガは少ない。

このネガを見るまでは、このショーの記憶はかすかにあるだけで、展示車まではまったく覚えていなかった。シェルビー・コブラGTは最も印象に残ったのだろうか、この日に撮影したフィルムの半分がコブラGTだった。タイトルカットは歴戦のオリンパス・ペン。右の機材のほうが使い慣れていて好きだった。

本題に入る前に、再度、横道にそらせていただく。冒頭でオリンパス・ペンでの撮影と書いたが、それは私が自分で自由に使うことができる初めてのカメラだった。私が小学校4年生のある日、母が「使いやすいカメラを買おう」といい、駅前に出店したばかりのペンギンカメラという一風変わった名の店に行った。この時のことは、あまりに嬉しかったことから、現在でも鮮明に覚えている。
 
母も私も、カメラについての知識はなかったが、いかにも人のよさそうな店主に勧められて、オリンパス・ペンの露出計もない最もシンプルなモデルを買った。6000円くらいだった記憶がある。
 
それまでわが家のカメラは、私が生まれて間もなく父が買った6×6版の2眼レフ、リコーフレックスだったから、そろそろ小型のカメラがあってもいいと考えたのだろう。
 
オリンパスのHPによれば、オリンパス・ペン初代機は、昭和34(1959)年に登場し、「6,000円で売るカメラ」をコンセプトに設計を開始し、それを実現したモデルだという。35mmライカ版フィルムを使い、通常の1コマ分を2分割して使うハーフサイズが特徴であった。インターネットで調べると、当時の大卒公務員の初任給が1万5700円、ラーメンが50円程度というから、6000円は大枚には違いなかった。だが、高度経済成長のなか、ちゃんとしたカメラがこの価格で買えることから、ペンは大きなヒットとなった。

新しくファミリーカメラになったオリンパス・ペンだが、家族が使うのは旅行や慶事など特別のことがある時だけであり、母も父も慣れたリコーフレックスを使うことが多く、ペンは次第に私の専用物と化していった。遠足の時は、担任の先生に許可をもらって記録写真班になったほど、カメラにのめり込んでいった。やがて、オリンパス好きの叔父から中古のペン上級機をもらった。
 
私がカメラを持ち出す機会が増えた理由は、中学生のなったころからクルマを撮影する機会が多くなっていったことがある。中学では誘われて写真部に入ったが、2年生になると、どうしてもレンズ交換ができる一眼レフがほしくなり、幼いころから貯めて、1度たりとも降ろしたことのない郵便貯金をすべて叩いて、アサヒペンタックスSVを購入した。

母も動員しての店との値段交渉の結果は、50mmF1.8の標準レンズと革ケース付、簡易露出計付きで3万1000円と提示されたが、私にとっては気が遠くなるような高額出費になった。

その後、数年かけて広角の35mm、望遠の200mmと交換レンズを買い足していった。広角の35mmはモーターショーなど、200mmは富士スピードウェイでの撮影を想定してのことだった。

ペンタックスSVを手に入れてからも、オリンパス・ペンはサブ機としてずっと使い続けていた。ハーフサイズゆえにフィルム代金を節約できたからにほかならない。メイン機のペンタックスは、1980年代半ばになって雑誌の仕事でポジフィルムを使うまでずっと使い続けていた。

中高生のころ、カラーフィルムはとても高価だったことから12枚撮りだけしか買えず、ハーズサイズのオリンパス・ペンは大助かりだった。12枚撮りフィルムはフルサイズ撮影でも13枚は確実に撮れるから、ハーフサイズなら13×2プラス1枚の27枚、36枚撮りフィルムでは72枚プラス数枚は楽に確保できた記憶がある。プリントも高価だったから、現像の上がったネガを虫眼鏡で凝視して、できのいいものだけ、自宅の物置を自分で改造した暗室でプリントした。

本題に戻すと、このシェルビー・コブラGT500を見たのは、横浜駅東口から徒歩圏内にあった自動車輸入販売会社のニュージャパンモーター(株)が、近くの商業ビルで開催したショーでのことだ。京急電鉄の系列にあった同社は、フォードを扱う老舗であり、土曜日の放課後に偵察に行くと、見たことのないクルマがおかれていることも多々あった。もっとも、当時の私たちはフルサイズの米国車にはあまり関心がわかず、たまに整備に入庫していた欧州車が目当てだったのだが。

シェルビー・コブラGTの後方には欧州フォードのコルチナやコルセアが並ぶ。室内なのにコカコーラのパラソルが面白い。

ここでコルチナGTを見たときには驚かされた。さすがにロータス・バッジは付いていなかったが、GTとあるだけで充分だった。それ以上の体験は、ずっとあとになって、同社近くの道路でコブラ427を一瞬見かけたことだ。今でも幻想ではないかとも思うのだが、雑誌記者になってから、427コブラを新車で買われたSさんにこの目撃談を投げかけたところ、幻ではないことがわかった。それはT字路を右折するところで、私が原付バイクで停止していた場所からは遠く、豪快なはずの排気音も聞こえなかったのだが、ファットなリアフェンダーがやけに印象に残った。

中学生の私たちにとってはコルチナの方に関心があったようだ。
リンカーン・コンティネンタル。街で見かけることも少ないので、その大きさに圧倒されたのだろう。何枚かカットがある。

ある日、中学の同級生の父上がニュージャパンモーターの顧客で、顧客向け自社ショーの招待状が来ていることを教えてくれた。招待状もなく、大人の同行もない中学生が入場できるのか否かなど考えもせずに、放課後、紺色の制服のまま通学鞄にオリンパス・ペンを忍ばせて会場に急行した。
 
簡単に入場できたのかの記憶はないが展示車を見てまわり、リーフレットをせしめたことは覚えている。父上が顧客という彼が同行してくれたなら、もっと収穫物があったかかもしれないが⋯⋯。
 
普段は、米国車への関心が薄かった私たちだったが、中を覗き込んだり、撮影したり(たった数枚だが)、楽しませてもらった。これ以降、家族が輸入車を買ったというクラスメイトを探しては情報を得て、オリンパス・ペンを抱えてせっせとクルマの撮影に出掛けることになる私たちだった。
 
ピンぼけの写真だが、今となっては、退化する我が脳細胞を活性化する貴重な存在なのだと、そう思った。

この後年には、友人の家族に誘われてフォード・カプリの展示会に行きカタログをもらった。この時はカメラを持って行かなかったようで、写真は1枚もない。
文中に記した映画『Grand Prix』のプログラム。書架を探してみたら、無造作にしまってあった。自分の意志で行った初めての映画だった。クルマ好きの仲間と観に行ったが、アメリカ東海岸帰りのI君が字幕より先に笑ったり反応したのが、ちょっと悔しかった覚えがある。

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