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踊るプロジェクト再始動『室井慎次　敗れざる者』が絶賛公開中！
ネットワーク捜査員（※1）でもある「まちのえいが屋さんこと矢武企画・矢武兄輔」が作品をレビューします。

今回の注目ポイントは...
①踊る大捜査線シリーズが築く現象
②まだ知らない「室井慎次」の、すべて？？
③27年の時間と約束

この３つのポイント踏まえて、作品の魅力をネタバレ無しでご紹介していきます。

※1：「踊るシリーズ」のファンの総称。97年12月からインターネットを活用したコミュニティで、製作サイドとネットワーク捜査員の絆は強く、映画では「Special thanks to ネットワーク捜査員」とエンドクレジットされています。
現在はトークアプリ「Discord」で展開中。https://odoru.net

踊る大捜査線シリーズが築いた現象

名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない現場で起きてるんだ！」やテーマ曲「Rhythm And Police」など、「踊る大捜査線」シリーズを見たことがない方でも、1度は「踊る」に関した情報を耳にしたことがあるのではないでしょうか？
なぜなら、2003年に公開された『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ！』は観客動員数1260万人、興行収入173.5億円を記録し、20年以上経った今もなお、2位に50億円以上の差をつけたまま、邦画実写記録の圧倒的頂点に君臨していることからわかるように多くの方が観たことがある作品だからです。昨今でも、国内映画がメガヒットする度、ニュースで作品名が出てきますよね。ヒットは1作品だけではなく、映画シリーズ6本の累計動員数は3598万人、累計興収は487億円を超えています。

また、現実社会への影響もたくさんあります。その中で、筆者が一番驚いたのは、『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ！』（10）の製作理由のひとつです。本物の警視庁がシリーズの舞台・お台場に「（東京）湾岸警察署」を名称として開署することでした。ちなみに、本作では新湾岸署への引っ越しから始まります。しかも、撮影した新湾岸署と本物の湾岸署は隣同士。
実は「テレビドラマからの映画化」というビジネスモデルを構築したメガヒットシリーズではありますが、放送当時の視聴率は決して高かったわけではありません。では、なぜ映画はここまでのムーブメントになったのでしょうか？　それは、レンタルビデオの増産と普及、熱狂的なファン（＝ネットワーク捜査員）が盛り上げたインターネット宣伝の巧妙でした。
1998年公開『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の三日間』の封切前日には劇場前に徹夜組が大行列をつくるなどの現象でその成果が証明されました。当時の日本映画は外国映画に押されていましたが、この頃から巻き返します。日本映画の窮地を救ったコンテンツのひとつと言えるのではないでしょうか。
そのほかにも、宣伝企画やユニークな登場人物のキャラクター展開など、従来の日本映画にはなかった取り組みで多くの方を楽しませ、休止までの15年間はまさに伝説となりました。

そして、シリーズの人気を支えたキャラクターの1人、警察官僚・室井慎次（柳葉敏郎）を主役に「踊るプロジェクト」が再始動し、亀山千広（プロデュース）、君塚良一（脚本）、本広克行（監督）の3人が再集結！

再始動1本目の『室井慎次　敗れざる者』は10月11日（金）から無事公開され、初日から3日間で動員25万1000人、興収3億6100万円をあげ、動員1位に。月曜日の祝日を含む公開4日間の累計成績は、動員34万5000人、興収4億8900万円を記録し、シリーズ再始動として堅調なスタートを切り、筆者としても嬉しい限りです。

まだ知らない「室井慎次」のすべて？？

最新作では「あなたはまだ、室井慎次の全てを知らない」というキャッチコピーがあります。室井さんといえば、寡黙で眉間に皺を寄せている、というイメージが強いのではないでしょうか？
過去には、別の表情や姿を観ることができます。その多くは『容疑者　室井慎次』（05／※2）の中でした。例えば、カツ丼を食べる室井さん。捜査本部で寝転がる室井さん。無精髭の室井さん。大学時代に病気で亡くした恋人のことを話す室井さん。
イメージとは異なる表情を見せる室井さんを意外だと思われるでしょうが、最新作では、さらに見たことのない室井さんを目撃します。子どもをおんぶする室井さん、微笑む室井さん、お米を研ぐ室井さん、基本的に長靴移動の室井さん、秋田犬と散歩する室井さん。室井さんは毎晩バルコニーでウイスキーを飲んでいます。しかも厚岸蒸留所のウイスキーというのが北海道民としてはうれしい。警察官時代の室井さんしか映像で観たことがない私たちには新鮮に映るでしょう。
ではなぜ、今までにない室井さんのライフスタイルが描かれているのでしょうか？
それは踊るシリーズが組織に属する者の「人生」を描いている作品だからと筆者は考えます。従来の刑事ドラマとは違い、警察官以外の方でも、シンパシーを感じるドラマが描かれていました。その共感こそが、多くのファンを作り、人々の心を踊らせたと思います。

※2：「踊る大捜査線」スピンオフ企画第2弾。室井慎次が自らが指揮をとった殺人事件の捜査の責任をとらされ、逮捕されてしまう物語。

最新作に関して、「従来の『踊る』らしくない」というコメントを見ます。感じる理由はわからなくもないですが、「組織に属する者の人生」を描く作品として考えるのであれば、今作もまた「踊る」なのではないかと感じています。
織田裕二演じる青島との約束を果たせなかったことを悔やむ中、新しい目標を持って生きる物語ですが、決して室井さんと同じ、定年同世代だけに向けたメッセージではありません。部活動に励む学生層、新しく家族を持ち始めるファミリー層と、年少期に「踊るシリーズ」を観てきた方、そして世代別にも響く人間の物語が込められています。11月15日からは『室井慎次　生き続ける者』が公開されます。どんな室井さんが待っているのでしょうか、楽しみですね。

27年の時間と約束

「この人（室井）は、人生を泳ぐのが下手だ。ズルはできないし、嘘もつけない。ただ、上に立ったら、やる男だ。頼んだぞ、警察を…なんてな」。これは、いかりや長介演じる和久さんが『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ！』の終盤で、青島と室井へ託したメッセージです。
実は、前日に室井さんは『踊る大捜査線 THE MOVIE』で誘拐された吉田副総監（神山繁）と和久さんの会話を聞いていました。それは、「一度できた組織の根は深くてね…」と、キャリアとノンキャリアの垣根を超えた友人関係である和久さんへ、退官の報告と約束を果たせなかったことへの謝罪でした。
この会話を唯一聞いていたのは、室井さんだけです。どこかで自分と青島の「思い」を重ね、先輩が実現できなかった「思い」を背負っていたのではないでしょうか？

まっすぐな室井さんの警察官人生は波乱でした。昇進や降格、北海道や広島県へ人事異動。時には様々なトラブルに巻き込まれ、逮捕・勾留もされました。それでも『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』（12）では、"数度目の退職"に追い込まれながらも、青島との「現場の捜査員が正しいことができるようにする」という約束を果たすために組織改革審議委員会委員長に就任。盟友の新城（筧利夫）・沖田（真矢ミキ）と、警察の組織改革に挑みます。

それから12年。委員会を解散させられ、警察庁交通局担当（→局長ではなかった…）を務め上げたあと、定年前に室井さんは退官しました。
『室井慎次　敗れざる者』では、退官した理由や、どのような人事とやりとりがあったのかが明かされます。その内容は、決して寂しさだけではなく、「人生の深み」をも感じ、筆者にとってとても感慨深いものでした。ある意味、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』（12）で抱いた「その後への謎とモヤモヤ」が解消され、物語の完成度として腑に落ちました。これが「人生」なのだと。

同じく、踊るシリーズのレギュラーメンバーにも12年間がありました。
かつて湾岸署で働いていた緒方くん（甲本雅裕）は、BSフジで放送された「警視庁捜査資料管理室」シリーズ（18〜20）で勝どき署総務課長兼捜査資料管理室室長でしたが、晴れて警視庁・刑事部捜査第一課の刑事に。同じく森下くん（遠山俊也）は地元に帰り、秋田刑務所で働いています。沖田さんは警察庁・官房審議官に昇進し、新城さんは秋田県警・本部長に着任しています。
特に、注目してほしいのが、かつて対立していた新城さんが室井さんと対面するシーン。今の心境を吐露し、室井さんと杯を交わす場面は、この映画が制作されて本当によかったと思いました。

そして、かつて室井さんと命懸けで働き続けた仲間たちとの信頼関係。
そこを感じ取られただけでも胸熱な映画です。
27年、あなたが観てきた「踊る」はどういうものだったのか、ぜひスクリーンで。
それでは、またお会いしましょう。劇場で待ってます！！

『室井慎次　敗れざる者』のストーリー

正義を信じ、理想を追い続けた男、室井慎次。
家族を持たなかった男が、"家族"を守るー。
「あの男との約束を果たせなかったー。」
現場の捜査員のために粉骨し、警察の組織改革に挑むなど、波乱に満ちた警察人生を歩んできた室井慎次。27年前の"青島との約束"を果たせなかったことを悔やみ、警察を辞めて故郷・秋田に帰ります。そこには、かつての険しい表情とは異なり、自分たちが見過ごしてきた「事件の被害者家族・加害者家族を支援したい」という想いで、少年たちと一緒に穏やかに暮らす室井の姿が―。
そんな中、室井の前に突如現れた謎の少女。
彼女の来訪とともに、他殺と思われる死体が発見されます。
そして明かされる、少女の名前は…日向杏。
シリーズ最悪の犯人と言われた猟奇殺人犯・日向真奈美（小泉今日子）の娘だという、衝撃の事実が判明。
「とんでもない死体を見つけましたね、室井さんー。」
東北の山奥には似つかわしくない、おびただしい数の警察官、ヘリや警察車両―。
「最悪」はなぜ室井慎次を狙うのか。穏やかな暮らしを求めた室井の周りに、再び、事件の影が迫りくるー。

『室井慎次　敗れざる者』の基本情報

作品名：室井慎次　敗れざる者

公開日：大ヒット上映中

出演：柳葉敏郎　福本莉子　齋藤潤　前山くうが・前山こうが
松下洸平　矢本悠馬　生駒里奈　丹生明里（日向坂46）　松本岳　佐々木希
筧利夫　甲本雅裕　遠山俊也　西村直人　赤ペン瀧川　升毅　真矢ミキ
飯島直子　小沢仁志　木場勝己　稲森いずみ　いしだあゆみ
プロデュース： 亀山千広

脚本： 君塚良一

音楽： 武部聡志

監督： 本広克行

公式サイト：https://odoru.com/
公式X：

公式Instagram：https://www.instagram.com/odoru_project