玉置浩二はいつだってガチ!提供楽曲集の第2弾が早くも登場「玉置浩二の音楽世界Ⅱ」
“作曲家・玉置浩二” の才能
“これ、絶対に続編が出るよな〜” と思っていたら、やっぱり出た。“作曲家・玉置浩二” の才能は、2枚組のアルバムが1つ出ただけじゃ到底収まりきらない。そう、玉置浩二の提供楽曲集『玉置浩二の音楽世界Ⅱ』(以下『Ⅱ』)が日本コロムビアからリリースされたのだ。
昨年(2024年)末にリリースされた第1弾『玉置浩二の音楽世界』(以下『Ⅰ』)は1983年〜2017年までの35年間に、玉置が他のアーティストへ “作曲家として” 提供した24曲をレーベルの枠を超え収録した2枚組アルバムで、玉置の歌は一切入っていない。にもかかわらず、私は聴いていて、ギター片手にハミングしながら曲を作っている玉置の姿が浮かんできた。こちらに関しては、リリース時に書いたコラムを参照していただきたい。
『Ⅰ』は私の周囲でも愛聴している人が多く、みんな異口同音に言うのは “どれも名曲なんだけど、あの曲も入れてほしかった”。V6の代表曲でもある「愛なんだ」(1997年)はその最たるもので、今回ついに収録されたのは実に喜ばしい。『Ⅰ』同様に『Ⅱ』も、レーベルを超え厳選24曲を収めた2枚組となった。ラインナップを見て “おおお〜!あの曲が入るのか!” とリリース前から感涙に浸っている人も多いはずだ。
風間杜夫の男前な歌いっぷり
玉置が作る曲にはいわゆる “捨て曲” がないので、アルバム収録曲やシングルのカップリング曲でも聴けてしまう。DISC1の1曲目に収録されている風間杜夫の「ハードレイン・ブルー」(1983年 / 作詞:大津あきら)は風間のファーストアルバム『キッス・ミー』収録曲。風間は当時ドラマや映画にひっぱりダコで人気絶頂。けっこう売れたこのアルバムに玉置は3曲を書き下ろしている。
玉置のガチなところは、歌手としては未知数だった風間に対しても、手を抜かずハイレベルな作品を書き下ろしたことだ。歌う側は大変だったろうが、ちゃんと本人のキャラクターが引き立つように作ってあるのがニクい。そして、どの曲もメロディーの中に “玉置作” の刻印が押してある。風間の男前な歌いっぷりのバックに、玉置の歌声がうっすらと聞こえた気がした。
俳優に書いた曲では他に、柳葉敏郎のシングル曲「ima just gumba(がんばろう)」(1989年 / 作詞:松井五郎)も収録。“がんばろう” を連呼するギバちゃんらしい前向きな曲だ。単純な激励ソングにならないよう、部分的にポリスっぽかったり、飽きの来ない曲構成になっている。玉置はちゃんと歌い手のキャラが立つように作曲していることがよくわかる曲だ。優しいなぁ。
どこか情念を感じる “イッツ・ア・玉置ワールド”
意外なコラボ曲も。小椋佳が歌う「かなうなら夢のまゝで」(1984年 / 作詞:小椋佳)は宮尾登美子原作、五社英雄監督の映画『櫂』(1985年)の主題歌だ。『鬼龍院花子の生涯』『陽暉楼』とあわせ “高知3部作” と呼ばれる作品で、緒形拳と十朱幸代が主演。「♪美しさは 天使のまま 悪魔の使者 微笑んでは 汚れ見せず 時を渡る」という小椋佳ワールド全開な詞に、負けじと格調高く、しかしどこか情念を感じる “イッツ・ア・玉置ワールド” な曲で対抗。2人のがっぷり四つなバトルがたまらない。玉置浩二という人は、どこまでもガチンコなんだよなぁ。
男性アーティストの曲ばかり取り上げたけれど、今回のアルバムは24曲中、女性アーティストの曲が15曲と、全体的にはフェミニンな構成になっている。DISC1から収録順に列記すると、高橋真梨子、石川セリ、薬師丸ひろ子、斉藤由貴、杏子、和田アキ子、中森明菜、GAO、香西かおり、イルカ、吉田美奈子、MISIA、加藤登紀子、中村あゆみ、そして玉置の愛妻・青田典子だ。豪華かつジャンルを超えたラインナップで、玉置の懐の広さがわかる。“女性シンガーへの提供曲” という括りでも、聴き応えのあるコンピレーション盤が作れそうだ。
薬師丸ひろ子の“天使性” を引き出した荘重な曲の力
どれもきちんと触れたい曲ばかりだが、ここは涙を飲んであえて2曲に絞ろう。まずは薬師丸ひろ子の通算10枚目のシングル「胸の振子」(1987年 / 作詞:伊達歩=作家・伊集院静)。薬師丸は玉置の元妻であり、この曲は2人が急接近するきっかけになった曲でもある。翌1988年に交際が報じられ、1991年にハワイで挙式。もちろん世間でも話題を呼んだ。
当時私はこの曲を聴いて、すごく心が浄化された気持ちになったけれど、それは私だけじゃないだろう。薬師丸の声質に依るところも大きいのだが、その “天使性” を引き出したのは、紛れもなく玉置が書いた荘重な曲の力だ。薬師丸にしてみれば “歌手としての自分にここまで真摯に向き合ってくれるんだ” と感激しただろうし、交際からやがて結婚へと至ったのは至極納得である。ここでも玉置は “ガチ” だった。
人間的優しさを感じる「雨のレクイエム」
もう1曲、中森明菜「雨のレクイエム」(1983年 / 作詞:芹沢類)は細野晴臣が作曲した「禁区」のB面曲だ。A面曲に決してヒケを取らないシャンソン風アレンジの秀曲で、明菜は震えるようなウィスパーボイスでこの曲を歌っている。これも当時聴いていてゾクッとした。
雨の降る日、地下鉄の駅で、自分の元を去る恋人を見送る主人公。中森明菜は “私には幸せじゃない曲のほうが似合う” と自分で言ってしまう歌手だが、ではこの曲がどうしようもなく暗いかというと、決してそんなことはない。聴いていて、なにか包み込むような優しさを感じないだろうか? 大好きな彼との別れを選択した彼女に、曲が “頑張れよ” とエールを送っているような、そんな人間的優しさを感じるのだ。
玉置は他にも明菜に何曲か提供していて、彼女は玉置作品をとても大切に歌っている。明菜の歌が持つ “生命力” を玉置が認め、たとえ歌詞の内容が不幸でも、その “生きる力” を引き出すような曲を書いているからだ。『Ⅰ』にはシングルA面となった「サザン・ウインド」(1984年 / 作詞:来生えつこ)が収録されている。ぜひこの「雨のレクイエム」と対にして聴いてほしい。
盟友・松井五郎によるライナーノーツ
この他、NHK大河ドラマ『秀吉』(1996年)で共演した竹中直人(玉置は最後の将軍・足利義昭役)への提供曲「ママとカントリービール」(2017年)や、このアルバムのためにレコーディングされた竹原ピストル「万年補欠の大声援」(2025年)に加え、盟友・松井五郎によるライナーノーツもあったりと、いろいろ楽しめるアルバムだ。
しかし、『Ⅱ』の24曲のラインナップを改めて見ていると “…にしても、よく集めたなぁ” と思うし、権利処理も大変だっただろう。そんなスタッフの苦労を承知で言わせていただく……『Ⅲ』も期待してますよ!(笑)