松坂桃李もうなった! 大反響『御上先生』監修者らが明かす「学校の問題点」と「主体性」が大切なワケ
日曜劇場『御上先生』のトークイベントをレポート。ドラマの学校教育監修である工藤勇一氏、教育監修の中山芳一氏と西岡壱誠氏、教育分野の社会起業家・白井智子氏といった有識者と現役教員たちから探る、今の「学校」「教育」に大切なこととは。
【写真➡】日曜劇場『御上先生』トークイベントの様子を見る1月クールのドラマで最大の話題を集める日曜劇場『御上先生』(TBS系 2025/2/16に第5話放送予定)。都内有数の進学校・隣徳学院に“左遷”された文科省のエリート官僚・御上孝(松坂桃李)が、令和の高校生と共に腐った巨大権力に立ち向かう大逆転教育再生ストーリーで、初回から連続2ケタの高視聴率を維持しています。
サスペンスの要素もありつつ、ふいに始まる御上の“授業”では日本の教育が抱える矛盾や課題をあぶり出し、生徒たちの価値観をゆさぶる深い問いを投げかけます。
「パーソナル・イズ・ポリティカル」「バタフライエフェクト」「アクティブリコール」……など御上が繰り出すキーワードも毎回話題に。その説得力ある台詞や描写の背景にあるのが、3名の教育監修者、工藤勇一氏、中山芳一氏、西岡壱誠氏の存在です。
学校や教育の当たり前をゆさぶるドラマ
2月8日(土)、そんな『御上先生』の教育監修者らによるトークイベントが行われました。登壇したのは、千代田区立麴町中学校の校長として大胆な教育改革を実践し、現在も全国でアドバイザーを務める工藤勇一氏と、非認知能力に関する著書を多く出版している中山芳一氏。
工藤氏は『御上先生』の学校教育監修を、中山氏は教育監修を担っています。さらに、フリースクール設立など25年以上、不登校支援に携わり、『ひるおび』(TBS)のコメンテーターを務める白井智子氏もゲストに迎え、日本の教育について熱く語り合いました。
日曜劇場『御上先生』では「考える」ことをテーマに、教育制度と教育現場の問題が描かれている。 写真:松井雄希
今の教育システムはもう限界!? メインテーマ「教育のリビルド」とは?
ドラマのメインテーマとして掲げられているのが、教育の「リビルド(=再構築)」です。第2話では御上自身が「学校も官僚も驚くほど前例主義。今、教育に必要なのは、バージョンアップでなくリビルド」と語っています。なぜ今、教育のリビルドが必要なのでしょう。
「不登校の子どもの数は過去最多となる34万人に達しています。これまでの学校の仕組みからこぼれ落ちてしまう子どもがこれだけいるということです。一人ひとりの個性が尊重され、誰もが自分に合った学びかたを選べるよう、もっといろいろな選択肢を作らなければいけません」(白井氏)。
学びかたの選択肢が多様な欧米には、そもそも“不登校”という概念すらないと工藤氏が続けます。
「自己肯定感の高い子どもとは褒められて育った子ではない。自己決定できる子、自分で自分を褒められる子が自己肯定感の高い子になる」と工藤氏。 写真:松井雄希
「受験を前提とした学力偏重の日本の教育システムは、世界的にはかなり変わっています。そのほころびが、不登校やいじめ、教員の過重労働などさまざまな問題として浮かび上がっているのです」(工藤氏)。
生徒に、教師に、社会に、突きつける名台詞「考えて」
教育のリビルドを目指しながらも、受験という逃れられない現実を目前にした生徒たちに誠実に向き合う御上。彼がよく口にするのが、「考えて」という言葉です。これは何を意味しているのでしょうか。
「多様で正解のない社会で生きていくのは簡単ではありません。それを学ぶ場が学校であるべきなんです。でも現状、教員はトラブルが起きないように先回りをしたり、手をかけすぎてしまう風潮があります。
子どもたちから『考える』チャンスを取り上げているのです。その結果、何かうまくいかないことがあると、すぐ誰かのせいにするようになる。
御上先生の『考えて』という言葉は、『学校も社会も君たちのものなんだから、文句ばかり言ってないで自分たちで何とかしていこうよ』というメッセージにも聞こえますね」(工藤氏)。
「僕は最近、全国の小中学校に行って先生方の伴走をしているのですが、『考えて』という言葉は、生徒だけでなく教員にも向けられているような気がしますね」(中山氏)
「親も社会ももっと考えなくてはいけませんよね。当たり前だと思っていたことを疑ってみることも、ときには必要だと思います」(白井氏)
『御上先生』の教育監修・中山芳一氏は元岡山大学准教授で、非認知能力に関する著書を多く出版している。 写真:松井雄希
松坂桃李が関心を示した「自主性」より「主体性」の意味
ドラマの収録開始前、出演者やスタッフを相手に、日本の教育が抱えている課題について講義を依頼されたという工藤氏。約1時間の話の中で、主演の松坂桃李氏が特に関心をもったテーマが「自主性と主体性」の話だったそうです。
「自主性と主体性、この2つは同じような意味で使われていますけど、実は違います。自主性は、周りが期待することを率先してやること。学校や組織にとっては都合がよいので評価されやすいんですね。
一方、これからの社会で本当に必要なのは、主体性。自分の頭で考えて行動する力です。現状に対して常に疑問を持ち、場合によっては、これまで当たり前にやってきたことでも、やらないという選択をする。つまり、自分で決める、ということです。自己決定なしに子どもは育たないし、自己肯定感も高まりません」(工藤氏)
「主体性を取り戻すと、子どもは驚くほど変わります。ありのままでいいと受け入れてもらえるだけで、みるみる自信を回復し、人との信頼関係を取り戻していく。そういう環境が子どもたちにとって大切なんだと思います」(白井氏)
大阪府池田市と連携して全国初の公設民営フリースクールを設立した白井智子氏。 写真:松井雄希
第4話では、生徒たちの主体性が開花してクラスの雰囲気がガラリと変わり、物語が大きく動き始めました。
「教育は社会を変えられる。たった一人の教員の力でも変えていけるんだと、ドラマを通じて先生方に感じていただきたいですね」(工藤氏)。
現役教員は『御上先生』をどう見ているのか!?
ドラマ『御上先生』の根底に流れる教育課題やメッセージについて熱い議論が交わされたイベント第1部。第2部では、『御上先生』のほか『ドラゴン桜』(TBSドラマ)でも監修を務めた西岡壱誠氏と、全国の中学・高校の現役教員7名によるトークセッションが行われました。
ドラマで描かれたシーンや台詞について、現場の先生方はどう感じているのでしょうか。
『御上先生』のトークイベント第2部では、公立私立の中高の教諭から校長、そのほか教育関係者が集まり、今の教育について熱い議論になった。 写真:松井雄希
先生=教える人ではなくなった
なかでも筆者が注目したのは、前述の「考えて」という御上の台詞についての議論。「実際、生徒たちに言いたくなる場面はありますか?」という問いかけに、全員が「ある」と回答しました。
「部活の試合で負けた生徒たちに、負けた理由や、次に勝つためにどうしたらよいかを考えさせます」「私自身が答えを持ち合わせていない問いについて『一緒に考えてみよう』と促します」「“親しき仲にも礼儀あり”という言葉の英訳に悩む生徒に『まず日本語でわかりやすく言い換えてみたら』と考え方をアドバイスしました」など、さまざまな「考えて」と生徒へ伝える場面が紹介されました。
それを踏まえて、「“先生=教える人”という時代ではなくなりましたよね」と西岡氏。
「先生が知っていることしか教えないのでは、それ以上の存在は生まれない。誰も答えを持っていない問題が山積みの今、一人ひとりが自分の頭で考える習慣をつけなければいけません」と、教育が転換期を迎えていることを改めて示唆しました。
『御上先生』教育監修の西岡壱誠氏は偏差値35から東大に合格。能動的な勉強法を説いた『東大読書』シリーズ(東洋経済新報社)は累計40万部のベストセラーだ。
子どもの「別に」から真意を引き出すには
イベント後半に取り上げられたのは、ドラマの中心的な生徒・神崎拓斗(奥平大兼)が、自身にとって重要な問題を「別に」と投げやりな発言でかわそうとしたところ、御上の巧みな問いかけで真意を語るに至ったシーン。こんなとき、先生たちはどう生徒に向き合っているのでしょうか。
「問いを投げかければ投げかけるほど、子どもは何を答えたらよいかわからなくなるので、待つことを大事にしている」という声もあれば、「『別に』に続く言葉を想像して、生徒の気持ちを一緒に掘り下げてみる」という意見も。正解は一つではない、だからこそ現場の先生たちも常に考え続けているのだと感じました。
議論が巻き起こるドラマ
会場には、登壇者以外にも多くの教育関係者がかけつけ、お互いの考えや経験を共有しました。その様子に、「楽しいですね」と西岡氏。
「議論が巻き起こるドラマになればと監修を引き受けたので、今とてもうれしいです。これからも一緒に考えていきましょう」と会を締めくくりました。
事件の背景にどんな深い闇があるのか、御上によって学校や教育は変われるのか、次はどんなパワーワードが飛び出すのか……。回を重ねるごとにますます目が離せなくなる学園ドラマ『御上先生』。
純粋にエンターテインメントとして楽しめるのはもちろん、こうして各所で巻き起こる議論は、日本の教育を変えていく大きなうねりとなっていくかもしれません。
工藤勇一氏(左上)、中山芳一氏(左下)、白井智子氏(右上)、西岡壱誠(右下)、教育の最前線で活躍する4名だ。
【登壇者プロフィール(敬称略)】
■工藤 勇一(くどう・ゆういち)
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。公立学校教員、東京都教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年4月より千代田区立麴町中学校校長、2020年4月より学校法人堀井学園横浜創英中学校・高等学校校長として、教育改革を行ってきた。
■中山 芳一(なかやま・よしかず)
All HEROs合同会社代表社員/IPU環太平洋大学特命教授/元岡山大学准教授(教育方法学)/岡山県子ども子育て会議会長。1976年1月、岡山県生まれ。大学生のためのキャリア教育から幼児から小中学生、高校生たちまで、各世代の子どもたちが非認知能力を向上できるために注力している。著書に『教師のための「非認知能力」の育て方』(明治図書)、『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍)など。
■白井 智子(しらい・ともこ)
1972年千葉県生まれ。4~8歳を豪・シドニーで過ごす。東京大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾。1999年沖縄のフリースクール設立に参加、校長をつとめる。2003年、NPO法人トイボックスを立ち上げ、大阪府池田市と連携して不登校の子どものための全国初の公設民営フリースクール「スマイルファクトリー」を設立。東日本大震災後には福島県南相馬市に「みなみそうまラーニングセンター」「はらまちにこにこ保育園」「錦町児童クラブ」等を立ち上げ、2020年から2期4年、NPO等ソーシャルセクターが加盟する新公益連盟の代表をつとめた。現在はこども政策シンクタンク代表として現場からの政策提言と新しい教育の選択肢をひろげる活動を並行して行っている。中央教育審議会等の有識者会議委員やTBSひるおびのコメンテーターなどもつとめる。
■西岡壱誠(にしおか・いっせい)
(株)カルペ・ディエム代表取締役社長。東京大学経済学部4年生。偏差値35の学年ビリから、2浪で自分の勉強法を一から見直し、どうすれば成績が上がるのかを徹底的に考え抜いた結果、東大に合格。著書『東大読書』シリーズは累計40万部のベストセラーに。漫画『ドラゴン桜2』の編集やドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の脚本監修を担当。バラエティ番組『100%! アピールちゃん』『月曜の蛙、大海を知る』(MBS)にてタレントの小倉優子さんの受験をサポート。