西川口「滕記鉄鍋炖」で鯉を3匹食らう【第1部後編 ガチ中華で淡水魚料理】
ガチ中華には美味なる魚料理が多いのですが、まだあまり知られていないかもしれません。そこで民俗学研究者の吉村風さんは、魚の生物学的な研究を行う友人らを10人集めて、淡水魚料理を食べに西川口の東北料理店に繰り出しました。まず訪ねたのは、中華食材店<好又鮮>の魚売り場でした。
前編はこちら
https://deep-china.tokyo/trend/33608/
後編では、東北料理店「滕記鉄鍋炖」で鯉を食らう話です。店に入ると、すでに一品目<鉄鍋炖鯉魚>(鯉の鉄鍋煮込み)の準備がされていました。
火をつけて、ある程度煮えたらトウモロコシパンを鍋に貼り付けます。
トウモロコシパンと鍋を見つめる参加者たち。鍋を煮ながらパンを焼くのはなるほど効率的
煮えるのを待つ間に、乾杯しましょうかね。白酒は<紅星二鍋頭>です(参加者一名は未成年なのでお茶で)。今日は中華料理店を二軒はしごして、淡水魚を貪る予定ですので、腹が膨れそうなビールや炭酸系は無し、いきなり白酒で乾杯というストイックな宴会です。
乾杯しつつ、煮えるの待つと、おねえさんが蓋を開けトウモロコシパンを取り出して配ってくれました。「もう少したったら食べられるわよ」とのこと。
トウモロコシパンを取り分けてもらう。おいしくてあとでパンのお代わりもしてしまいました。このパンちょっと自然派なパーッケジで包めば、おしゃれなパンとして単品でも売れるのではないかと
白酒なめながら、待つこと少し。「鉄鍋炖鯉魚」が出来上がりました。
鯉のくさみは、うまい出汁と合わさって全く感じません。少し塩気が強いですが、それがほこほことした白身と合って、とても美味しい汁ものとなっています。そして、板春雨が出汁と絡んでこれまた美味しい。塩気の強さがちょうどよく白酒を飲ませてくれます。
そしてこの料理、実はもう一段、変化があります。この料理、最初は鯉を豚と羊の合わせだしの塩味のスープで煮ています。ある程度、魚や具材をいただいたら、追いスープを入れることができるのですが、この追いスープを入れて味わうと、豚と羊の出汁と煮込んだ鯉の味の出汁が合わさり、よりくっきりと豚と羊の味が立ち上がってきます。
ラーメンのスープづくりで、豚骨や鶏ガラなど動物系の出汁と、かつお節など魚介系出汁をあわせるダブルスープという技法がありますが、期せずしていわばそれと同じ技法になっています。
このダブルスープに、お好みでパクチーを加え、鍋の上で焼いていたトウモロコシパンを浸して食べると、また格別。トウモロコシパン自体は、少し甘味のある、ほこほこした素朴な感じのパンなのですが、出汁に浸すと、甘さとダブルスープの塩気が相まって、実に旨いものとなります。
参加者もこれにはびっくりしたようで、
これは足しつゆもテイストしてみましたが、まさに求めていた味!この四つ足系の味を下地にした魚料理というものが中国にはたくさんありますが、すばらしいものでした。生鯉を油で揚げたりしないで、そのまま炊き込んであるのが面白く感じました。なにより張り付けてあるトウモロコシパンがうますぎてやばい。やみつきになりました。
醤油ベースのスープで鯉が 煮込まれていて 鯉の身はすごくふわふわしていたので優しい醤油の味とすごく合っていたと思います。板春雨というのも 初めて食べたのですが もちっとした食感で食べ応えもありとても美味しかったです。
私はパクチーがそんなに得意ではないのですが この最後に薬味として上からかけられた パクチーはすごくスープ の風味と合っているなと思いました。途中で追加された羊の煮込みのおかげで スープにぐっと動物質の旨味が追加されてとても美味しかったです。
と絶賛の嵐でした。
また<たぬきやままゆ>さんは、この汁で白酒を割るという技を思いついていました。なるほど、白酒の強い味がまろやかになって、おいしい。おでんの出汁で日本酒を飲むという方法がありますが、これは西川口の新しい名物なるかもしれません。
白酒のだし割りという新しい飲み方!これは西川口名物になる!
鯉料理ジェットストリームアタック:<紅焼鯉魚><糖醋鯉魚>
そうこうしているうちに、2品目<紅焼鯉魚>(鯉の醤油煮)(注11)と3品目<糖醋鯉魚>(鯉の甘酢唐揚げ)(注12)が到着しました。
<紅焼鯉魚>。日本と違って魚の頭の向きはあまりこだわりがないみたい。鯉の目がとてもかわいい
紅焼とは中国の醤油煮。中国各地で食べられている、基本の料理法です。みなさんも紅焼肉(中華風豚の角煮)で聞いたことがあるかもしれません。
今回の鯉料理は、肉料理ではないので、紅焼肉ほどまで長時間煮込まず、川魚特有の風味も多少残しつつ、鯉の身の柔らかさを残した料理となっています。身の中まではあまり味を染み込ませずに、タレを絡めて食べるのは和食の魚の煮つけと少しかぶりますね。
タレは東北料理らしく甘味抑え目、塩気を優先した、中国でいうところの「重口味(濃い目で塩辛い味)」の味付けになっています。ここは好き嫌いが分かれるかもしれませんが、塩味の強いタレと、川魚特有のクセがちょうどよいアクセントなって酒飲みの私にはちょうどよい感じです。
<フナと納豆のひと>さんの解説によると、コイは赤身と白身の中間のような肉質で、川魚にしては赤身があるため、少し酸味を感じることがあるそうです。
この酸味をうまく生かすのがコイ料理の魅力だそうで、
鉄鍋煮込みの印象が激しすぎて薄らいでしまいましたが、そつなくまとめられた味わいで思ったよりパンチがないな、とは思ったものの、技術的には中まで味が染み込まないよう、淡水魚のふかふか感を活かした調理はたいへんよいものだと感じました。コイ科淡水魚の魅力がどこにあるか、よく分かっておられると分かる調理でした。
と<フナと納豆のひと>さんは感想を述べていました。
他の参加者の皆さんも、
いわゆる煮付けとは異なる雰囲気で、しっかりコイの肉の食感や香りも含めて楽しめた。
鯉が醤油ベースのたれ あんに絡まっていてとても美味しかったです。日本人にもすごく 馴染みのある味かなと思います。
鯉が右向きに 盛り付けられているのにまた文化の違いを感じました
個人的には今回の鯉料理の中で一番好きでした。風味や食感等、鯉感を損なわないにもかかわらずクセが少なくどこか懐かしい感じがしました。
と「日本人になじみやすい味」として印象でした。
3品目の<糖醋鯉魚>(鯉の甘酢唐揚げ)は、古典的な鯉料理です。日本でも1970年代~1980年代ごろまでは、中華の宴会料理でよく見かけた料理です。
<糖醋鯉魚>(鯉の甘酢唐揚げ)。魚が踊るように盛られているのが特徴
私が鯉料理で一番のあこがれていたのがこの料理です。私の母は高知の出身なのですが、若い時、教育実習にいった小学校の歓迎会で、校長先生が校庭の庭で泳いでいる鯉を捕まえて、それを家庭科の先生が丸揚げにして宴会料理にしてくれた話を聞いたのでした。
学校の池で泳いでいる鯉を丸ごとあげて食べる。そんな背徳的なことが大人は許されるのか。そして丸揚げにした鯉なんて料理があるのか…子供心にうまそうで、うまそうで…母の話を聞いて、私もいつかこの料理を食べたいとひそかに思っていたのでした。
幸い学校の池に鯉を盗みに入る人間にはならず、長じてから上海料理などで鯉の丸揚げをいただいたことはあったのですが、東北料理の鯉の丸揚げは、私も初めてです。
下処理をした鯉に切れ目を入れて、丸ごと衣をつけて揚げたものに、野菜などの入った甘酢餡がとっぷりとかけられています。注目すべきは、踊るように盛られた姿。この姿は冷凍の鯉では出せず、活きた鯉を調理した証拠でもあります。
味は、餡の甘味は上海料理の鯉の丸揚げと較べると少し控えめです。でもその分さっぱりした酸味です。この餡を鯉のパリパリの揚げられた鱗とほこほこした身と合わせて食べるのがこの料理の身上です
特に尾っぽの方は皮のパリパリ感が強く、最後は骨煎餅みたいな食感になってとてもよいものです。皆さんも宴会でこの料理が出ましたら、さりげなく、残り物を片付けるふりをして、尾っぽを食べてみてください。(注13)
参加者の皆さんからは
とにかく、揚げたてを食べてほしいという店からのお話の通りで、ふわふわな身とさくさくな皮の風味がよかった。
これは文句無しにおいしい。もっと食べられました。紅焼とは異なる下処理で、同じ揚げ系なのに完成形の目指すところが異なっている。甘すぎてだれることもなくよかったです。
誰でも美味しいと思うであろう安定感のある味でした。淡白なコイの味が、揚げられることで香ばしく、程よいジューシーさとなっていました。
これは見た目通りの甘酢あんという感じで すごく食べやすい味でした。 鯉の身はあげてもふわっとしていて表面がカリッと揚げられているので餡の絡まりがよくとても美味しかったです。
コイ料理の中で一番美味しかった。とても美味しかったのですが、他の魚種との食べ比べをしてみたくなりました。
サクサク感と甘酸っぱい餡がベストマッチ。白酒に合う。
生きたコイをそのまま調理する必要があるため事前予約が必要なメニューということのインパクトが大きかったです。外側は衣をつけてカリカリに揚げてある一方で中の身は柔く、食感も素晴らしかったです。この後生簀のコイを見せてもらった時には皆が食い入るようにみて写真を撮っているのに店員さんが引いていたのが印象的でした。
甘酢味が普段から好きなのですが、揚げた鯉ともベストマッチでした!
小骨があまり気にならずよかった。
とこれまた高評価。
「とても美味しかったのですが、他の魚種との食べ比べをしてみたくなりました。」というのはさすがの淡水魚好きの人々ですね。ぜひ企画しましょう。
これで、中国料理で淡水魚を食べる会の第1部はひとまず完。
鯉を3匹平らげましたが、我々の胃袋はまだまだ意気軒高です。ちょっと動物の肉も恋しくなったので東北名物、羊肉の串焼を口直しに齧っていたら、おねえさんが、生簀の鯉を見せてくれるというので皆で見に行って、鯉を激写してきます。
推しの撮影会のようにカメラを向けられて、鯉も緊張しているかもしれません。
推しの鯉の撮影会
さて次は第2部、福建料理の魚を食べましょう。
※なお、今回の鯉料理は基本、すべて要予約の料理となります。たまたま鯉がある場合でも、料理によっては調理に時間がかかるため注文を受けられない可能性があるそうです。
注文の場合、事前に店にご相談されるよう願います。(日本語対応可な店員さんもいます)
注11 店のメニューでは「红烧鱼」となっています。
注12 店のメニューでは「浇汁鱼」となっています。
注13 本当かどうかはわかりませんが、鯉は尾っぽの方が良く動かすので美味しいという人もいます。ほんとかなあ…
(吉村風)
店舗情報
滕記鉄鍋炖
埼玉県川口市西川口1-24-2 B1F
048-258-8888