「どうやって殺すか?を考えるのが楽しい」童話の夢をぶち壊す惨殺物語『シン・デレラ』監督インタビュー
「シンデレラ以外、全員悪人」
「なに? “シンデレラ”をネタにしたホラー? また版権切れシリーズか……お腹いっぱいだよ!」
いやいや、ちょっと待って欲しい。「くまのプーさん」や「ピノキオ」はそうかもしれない。でも「シンデレラ」は、とうの昔にパブリックドメインになっている。
そもそもグリム童話のシンデレラ自体、17世紀のイタリアの作家ジャンバティスタ・バジーレによって書かれた「灰かぶり」が元である。継母との関係が悪化したシンデレラ(灰かぶり)が、継母をブチ殺し、その後に登場した継母にいじめられる鬱な物語だ。
この「灰かぶり」、継母殺害の他にも陰惨な描写がある作品で、さすがのグリム兄弟もドン引きしたのか、彼らの書いた「シンデレラ」はマイルドな物語に改編されている。あのお話は、原作が書かれた時点から色々といじくり回されてきたのだ。
だから映画『シン・デレラ』は、流行に乗ったワケでは……ある!
『プー あくまのくまさん』のヒットはホラー映画界に影響を与え、版権切れキャラクターの蹂躙が始まった。正直なところ『シン・デレラ』は、その蹂躙のどさくさに紛れて作られたようなものである。ただ、イギリスのインディーズホラー映画界きっての職人監督ルイーザ・ウォーレンが施した本作は常軌を逸している。継母に義姉、そして王子すらもシンデレラを徹底的にイジメまくる、“シンデレラ以外、全員悪人”という設定。そんな輩相手に怒りが沸点に達したシンデレラによって、花の舞踏会は血の海と化すのである!
ルイーザ・ウォーレン監督作は非常に低予算であるため、クオリティ面から日本で公開されることは少ない。ただ、ルイーザの作品は並々ならぬ熱意が感じられるものばかり。予算がいつもよりちょっぴり多い『シン・デレラ』がめでたく公開が決定したとのことで、その熱意を伺う機会を得た。
「どうやって殺すのか? を考えるのが楽しくて(笑)」
―まず始めに、ルイーザ監督自身のことを教えてください。たくさんの低予算映画ホラーを手がけていますよね。素晴らしい情熱を感じるのですが、ホラー映画監督になるきっかけは何だったのでしょうか?
小さな頃からたくさん映画を観てきて、映画好きが高じて俳優をやるようになったんです。お芝居をやっていると、自分でも物語が頭に浮かんでくるんですよ。もちろんホラーストーリーではなく、普通のドラマも浮かぶんですが、どうやって人を怖がらせるか? サスペンスを維持するか? そして、どうやって殺すのか? が一番楽しくて(笑)、今に至っている感じですね。
―俳優としては、ご自身が撮られた『Virtual Death Match』(2020年:原題)ではインパクトのあるピエロでチェーンソーを振り回していましたし、『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』(2024年)で主演を務めたスコット・チェンバースの『The Final Scream』(2019年:原題)にも出演なさっています。英インディペンデントホラー映画界には独自のコミュニティがあるのでしょうか?
もちろんありますよ! 私たちは少ない予算の中で映画を撮っているから、お互いにどんな工夫をして、どんな映画を撮っているのかが気になって仕方ないんですよ(笑)。だから誰かが“良い感じ”の作品を撮ると、みんな真似をして似たような作品になったり……。それにホラー映画上映会なんかのイベントでは大体同じ顔ぶれで……。
―みなさんお友達なんですね。楽しそうです。
ええ、とても楽しいですよ! みんな努力しているし、いい人たちばかりです。
「ロケに使ったお城、呪われてたんです……。」
―映画『シン・デレラ』のお話を伺います。「誰かが“ホラー版シンデレラ”を撮るだろうな」とは思っていましたが、制作のきっかけは?
実は依頼があったんです。『プー あくまのくまさん』を皮切りに、“みんなが小さな頃から知っている物語”のホラー化が次々と企画されているのは知っての通りですが、『シン・デレラ』は予算も配給会社も全て決まっている状態で声をかけてもらったんですよ。
―ルイーザ監督は極々低予算で映画を撮り続けてきました。しかし『シン・デレラ』を拝見すると、しっかりとしたロケ、爆破、ファイヤースタント、ゴア描写も盛り盛りで、予算が爆増したように思えます。そこにプレッシャーはありましたか?
依頼を受けてすぐは実感がなかったんです。でも「シンデレラのホラー版をルイーザが撮る」とSNSでバズったときに、プレッシャーを感じましたね。そこからは初めてのことばかりで……。人に火をつけるなんて、滅多にやらないから(笑)。
―特に苦労された点は?
あのロケに使ったお城、呪われていたんです……。
―はい?
撮影中は、お城で寝泊まりしていました。それが地下何階もあるお城で……。私が泊まっていたのは地下2階の部屋で、隣が大広間になっていたんです。その広間が子供用のサナトリウム(療養施設)だったとかで、夜中になると不思議な音が聞こえたり……。スタッフたちも「何か聞こえる」と言うんですよ。だから、地下に行けば行くほど気味が悪くて。
―苦労したのは撮影ではなく、場所が怖かったと?
はい(笑)。メンタルチャレンジでしたね!
―そんな中、撮影された『シン・デレラ』ですが、主演のケリー・ライアン・サンソンさんのお芝居が非常にインパクトがありましたね。
撮影の時間が限られていたから、本当に彼女には助けられました。ケリーは脚本を熟読して、完全にシンデレラを理解してから撮影に臨んでくれたので、私はテクニカルな面に集中することができました。まったく文句のつけようがない素晴らしい俳優です。
―シンデレラが舞踏会で“ブチ切れる”場面は、『キャリー』(1976年)を彷彿とさせます。
間違いなく『キャリー』ですよ(笑)。扉を睨むと「バタンッ!」と閉まったり、シャンデリアが落ちたり。というのも、ティーンドラマ的なものを盛り込みたかったんです。そうなると『キャリー』から引用するのが一番ベターかなと思いました。
―あのクオリティを出すのは苦労されたかと思います。ゲスな話で恐縮なのですが、“一番お金がかかったから注目してほしい”というシーンは?
それはもう「爆発」と「火」ですよ! たった5秒のシーンなんですけど、スタントとはいえ女性に火をつけるのは申し訳ないし、間違っても事故は起こせないし……。でも映画のためにこんなことができるのは、とても感慨深い経験でした。
―これまでのルイーザ監督の作品では、火をつけるとなるとCGに頼らざるを得なかったと思うのですが、やはりプラクティカルエフェクトのほうが熱くなりますか?
CGも良いところがあるんですよ。楽ですから(笑)。撮影となると、カメラが3台、さらにドローンに火薬と、準備が大変です。でも、よりリアルに、サウンドもそのまま使えますし、質としてはかなり良いものになります。どっちがいい? と言われたら、当然リアルで撮影した方がいいですね!
「好きなだけお金が使えたら、宇宙規模の良い映画を撮りますよ!」
―気を悪くされたら申し訳ないのですが、ルイーザ監督の作品は正当な評価を受けていないと私は考えています。貶めがちな批評家も多いです。『プー あくまのくまさん』のリース監督は「我々インディペンデント監督は、予算さえあれば間違いなく良いものが撮れるし、評価も上がる」と仰っていました。ルイーザ監督はどうお考えですか?
リースの言うとおりだと思います。予算があればキャラクターを増やせるし、ロケも色々なところでできるし、テクニカルな要素も増やせるし、機材も時間も自由に使える。でも低予算だと、YouTube止まりの映画になってしまう。初めて作業するスタッフも多い。
一方で、そんな作品が爆発的にヒットすることもある。不思議な業界ですよね。とはいえ、潤沢な予算の映画と低予算の映画を比べられるのは、ちょっと不公平かなと思います。もし私に好きなだけ使えるお金があったら、宇宙規模の良い映画を撮りますよ!
―ルイーザ監督といえば、『Tooth Fairy』(※)や『The Escape』といった極低予算かつ日本でなかなか観られない作品も持ち味だと思います。私事で恐縮なのですが、以前のような作品も撮り続けていかれますか?
わあ、ありがとう。実は『Tooth Fairy』の6作目のアイディアがあって、いま売り込み中なんです。だから楽しみにしていてください。『Tooth Fairy』シリーズは不滅です!
―日本に来ないんですよね、『Tooth Fairy』シリーズ……。
じゃあ、送りますよ!(笑)。
(※)『Tooth Fairy』:歯の妖精が“もらえるはずだった歯”を強引に奪いにやってきて、ハンマーで歯を叩き抜いて持ち去る最高のインディペンデントホラーシリーズ。
――今回は、ルイーザ・ウォーレン監督のファンとして会話をしてしまったので、インタビュアーとしてはちょっと失格かと思う。だが、ルイーザ監督の映画にかける情熱は、イギリス随一。『シン・デレラ』は、彼女のネクストステージの第一歩だ。ちょっと荒削りの部分もあるが、十分ホラー映画として楽しめるものになっている。シンデレラがガラスの靴を片手に暴れ回る姿を、ぜひ目に焼き付けてほしい。
取材・文:氏家譲寿(ナマニク)
『シン・デレラ』は2024年10月25日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開