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夫婦で納屋をおしゃれ空間にDIY! 夢だったパン屋を開業【香川県三豊市】

田舎暮らしの本

夫婦で納屋をおしゃれ空間にDIY! 夢だったパン屋を開業【香川県三豊市】

「古民家改修は素人でもできる」を証明した吉川さん夫妻。築約150年の古民家と納屋2棟を、日曜大工の経験もリフォームの知識もないのにほぼ夫婦で改修した。しかも、夢だったパン屋とカフェも開業できたいきさつは?

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掲載:2025年2月号

香川県三豊市 みとよし 
人口約5万8000人(令和6年11月)。香川県西部に位置し、瀬戸内海の島々から徳島県境の山間部まで多様な自然環境に恵まれる。内陸部では農業が盛んで、果物類ではモモやブドウにイチゴなど種類も収穫量も豊富だ。写真は「日本のウユニ塩湖」として全国的に有名な父母ヶ浜(ちちぶがはま)。新大阪駅からJR利用で約2時間半。高松空港から車で約1時間。

自宅DIY6年の助走が、夢の実現へと導いた

吉川雄介さん(45歳)・郁子さん(46歳)夫妻 
兵庫県神戸市出身、子ども1人との3人家族。2013年に神戸市から移住し、香川県三豊市の農業法人に勤めながら週末DIYで6年かけて築約150年の古民家を改修。2022年にパン屋とカフェ「りすのくつ」を開業。2人の後ろは納屋をリフォームしたカフェスペースで、ピザなどのランチやケーキが楽しめる。
住所/香川県三豊市財田町財田中2937-1 

 移住目的は「パン屋を開業」ではなかった。約6年間神戸の都市部のパン店で働いていた郁子さんは、「オーブンなど機材を揃える資金が高くて」と、開業は難しいと思っていた。当初は農家民泊を始める構想だった。

 移住のきっかけは雄介さんが農業にひかれたから。都会の会計事務所を辞めて香川県の農業法人に就職し、先に雄介さんが移住。5カ月後、三豊市の空き家バンクを介して、築約150年の母屋に納屋2つの土地付き物件を約270万円で購入した。

 「農家民泊にするため改修する余地がある家を選んだのですが、かなり改修することに(笑)」

 ところで吉川さん夫妻は、大工の経験がないうえ、知識を学ぶ気もない大胆な2人だった。

 「風呂とトイレは工務店につくってもらい、ほかは2人で改修を」

 雨漏りのする台所を薪ストーブ部屋に大改造し、床や天井を張り替え、壁を漆喰で塗って母屋を6年で快適空間にした。

 「壁や床をはがすなど作業を通じて構造を理解し、じゃあこうしようと、手探りでした」

吉川家全景。手前の緑の平屋がパン屋棟。真ん中は築150年の母屋、左の特徴的な屋根の納屋がカフェ。

地域の小麦や野菜、果物、微生物で「その土地のパン」を焼くのが「りすのくつ」。ワインや、吟醸酒にも合いそう。

【Before】2階建ての納屋を解体!

【After】2階建てだった納屋をチェーンソーで切って平屋にほぼ建て直したパン屋棟。母屋で6年間経験を積んだDIY技術で、素人とは思えない仕上がりに。

ショーケース下にあるパンの発酵器。冬は湯たんぽを下の棚に、夏は保冷剤を上の棚に置いて、発酵に適した温度を保つ。廃材の壁土の保温力は素晴らしく、これで充分だと郁子さん。

 そのころ、近所の人からの「カフェやパン屋があったら」という声があり、農家民泊計画から転換。DIYのベテランになっていた雄介さんは、未経験だがパンを焼く窯づくりに躊躇はないし、お金もかからない。1つの納屋を柱だけ残して解体し、パン工房を建てていった。

 「レンガを積み、納屋解体で出た壁土を塗って土窯をつくりました。設計図なしだから小さくなってしまった」と雄介さん。でも郁子さんは、一度窯を温めてうまく使えばカンパーニュからチーズケーキまでさまざまな商品が焼けるとご満悦だ。また、パン生地の発酵器も壁土を再利用。ショーケースの土台でもあり、昔のかまどのような曲線が美しく、発酵器としても優秀だ。

 「うちのパンは、解体と、廃材の壁土のおかげです(笑)」(郁子さん)

 もう一つの納屋はカフェとして改修し、2022年に「りすのくつ」からパンの香りが立ち上り始めた。県産の小麦や地元の果物、家や周辺に棲む天然酵母などを材料に、長らく納屋を守った壁土の窯を使い、薪で焼く。パンづくりの原点を見るようだ。

 「食も薪も豊富な田舎だからできること」と吉川さん夫妻。忘れかけていた夢が、田舎移住を通して実現した。

【Before】壁土を再利用して土窯に。

【After】設計図なし、フリーハンドでどんどんつくったので、必要ないところに高価な耐火煉瓦を積んだり、予定より小さくなった雄介さん作の土窯。それでも使い方次第だと、郁子さんは満足している。

【Before】元ベーハ小屋をカフェに。

【After】大きいほうの納屋は、葉タバコの乾燥に使う「ベーハ小屋」だったそう。しっかりした建物だったので構造はそのままに、残置物を除去し、壁などをつくり直すとすてきなカフェスペースになった。

雨漏りがひどかった母屋の台所は、薪ストーブ付きのくつろぎスペースに大変身。薪ストーブによる温水の床暖房システムを雄介さんがつくり上げ、猫たちのお気に入りの場になっている。

店開業&DIYのアドバイス

便利な道具がなくてもできる!
大工は素人だったし、工具はインパクトドライバーなど日曜大工のものやチェーンソー、知人から借りた丸鋸ぐらい。木材は腕力で持ち上げ、高い場所にはアルミ梯子で上りました。もちろん安全第一で。開業したときは、近所の人を招待するプレオープンをして地域に認知してもらいました。宣伝は主にインスタグラムですね。

「フランスの『田舎パン』みたいなパンを目指しています!」

三豊市の移住の問い合わせ 東京からの移住やリフォーム費用、結婚時のサポートが充実

海・山・田園地帯を有する自然豊かな三豊市。東京23区からの移住に最大100万円を支給するほか、空き家バンク物件のリフォームには費用の50%(上限100万円)を補助している。また、婚姻すれば上限60万円の支援も。それぞれ要件があるので「みとよ暮らし手帳」をチェック。

問い合わせ/地域戦略課 ☎0875-73-3011

荘内半島の紫雲出山(しうでやま)からの瀬戸内海・塩飽(しわく)諸島の眺め。

紫雲出山はサクラの名所でもあり、米国のニューヨーク・タイムズで紹介されたことも。

「豊かな自然がすぐそばに! ぜひ一度三豊市へお越しください!」(地域戦略課 原 美紗稀さん)

文・写真/大村嘉正 写真提供/吉川郁子さん、三豊市、三豊市観光交流局

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